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それヤンデレではなくストーカーです、もう我慢しないでざまぁするシリーズ

平民出身の聖女はループ4回目の悪役令嬢と一緒に宰相嫡男と一門を倒し王国を救う~踊り子リリーの別視点~

作者: 有栖多于佳

「踊り子リリーは差別主義な宰相嫡男から本気で逃げ出したい」の前日譚です。

近代の西洋を舞台にしていますが、魔法と聖女のいる世界です。


私は王都の外れの外れ、貧民街にある宿屋の娘として生まれた。

場所柄、人相のあまり良くない人の集まる地域だったけれど、うちの宿には常駐の傭兵のおじいちゃんや用心棒のおじさん(という名のお客だか従業員だかわからない人)がいて、宿とその回りを警戒してくれていたので《安い料金の割りには清潔で安全な宿》としていつも満室だった。


ある日、いつものように部屋の掃除を手伝っていると階段下から父ちゃんに呼ばれた。

「おーい、ネメシスや。お前にお客さんだよー」


お客さん?おかしいな。ここらの子は午前中はみな家業の手伝いや人足仕事に行ってて居ないはずなのに?


不思議に思いながら下へ行くと、そこには明らかに高貴な身分のお嬢様だとわかる美少女が立っていた。

「どういったご用でしょう?」

こんな貴族のお嬢様が一体私になんのようだ?と怖々声をかけると、被せるように父ちゃんが

「応接室にお通ししてゆっくり話せばいいから。どうぞお嬢様、こちらへ。」

と、先頭に立って案内し始めたので、私もそれに従って後ろをついて行った。


応接室の上座に座り、後ろに身なりの良い女性(侍女)が立った。

父ちゃんは後はご自由にどうぞ、なんて言って出ていっちゃうから、

私は困って入り口に立っていた。


「突然の事に驚いているでしょう?ごめんなさいね。でも私はどうしてもあなたに会ってお話したいことがあったの。こちらに座ってくださる?」


お嬢様が困ったような顔で薄く微笑みながら言うので、

失礼します、と蚊のなくような小さな声で言って進められた対面の席からちょっとズレて座った。


「まず、ご挨拶させてくださいね。私はロレーヌ公爵家の娘アストレア、今回は突然ネメシス様にどうしても聞いて頂きたいお話がありまして、こちらに伺いましたの。」


金髪碧眼に白い陶器のようなスベスベな肌、貴族が行く店のウィンドウに飾ってあるお人形のようなその人から自分の名前が出るのが不思議だった。私が何を聞くのだろう。


なんと答えたら良いのか、思案して目を泳がせていると


「今、私は家名を名乗ったけれどこれはこれからの話に必要だからなの。本来はお忍びだし、楽にしてくれて構わないわ。」

「はぁ・・・。私も自己紹介した方がよろしいですか?後、様は止してください平民ですから。」

楽にしろと言われてもできないし、どう振る舞うのが正しいのかさっぱりわからない。

項垂れて途方にくれながら聞くと、


「わかったわ、じゃあ、ネメシス。私はあなたよりあなたの事に詳しいのよ。」

エッと顔を上げてその綺麗な顔をまっすぐ見ると、困ったように眉を下げてやはり薄く微笑んでいた。


******************************


突然やって来て変な話をする私を許してね。


実は私、今回でこのアストレアという人生4回目なの。

言っている意味がわからないでしょ?

そうよね、その反応が普通よ、大丈夫よネメシス、怯えないで。

でもそこはおいおい説明するから、先に話を進めるわね。


一度目の人生で私は王太子殿下の婚約者になったわ、10才の時よ。

王太子妃教育が王宮で為され、私は必死で学びました。

私と殿下は特に恋人という感じではなかったけれど、幼いときから共に学んだ幼馴染みとしてある程度の信頼関係は築けていたと思うわ。


15の年に、貴族学院に王太子殿下と入学し学生生活を楽しんでいたのだけれど、3年の時にあなたが入学してきたの。

なぜ平民のあなたが入学してきたか?そうね、不思議に思うでしょ?

それはね、あなたが聖なる光を発現した数百年ぶりに現れた聖女様だからなの。


信じられない?そうよね、驚くでしょうね。

でももうすぐ今のあなたもその力が現れるわ。

そうしたら、この私の話が本当だとわかってもらえるわ。


話を進めるわね。

魔を払い、病を癒し、和平をもたらす聖女様をこの王国に止めるため、貴族達が画策して王太子殿下とあなたを恋仲にするように仕向けたの。


私と殿下の間には恋心は元々無かったから、婚約解消の申し入れがあれば普通に受け入れたでしょうに。


私があなたに嫉妬して身分を笠に着てひどい嫌がらせをしたと、

卒業パーティーの時に断罪されて

なぜか我が公爵家が横領したという罪も同じ頃着せられて、処刑されてしまったの。


だから、その後のこの国についてはわからないのだけれど。


朝、目覚めたら私はまた10才の婚約する日の朝に戻っていたわ。


もちろん記憶は全部覚えているのよ、毒杯の味まで。

恐怖で叫び声を上げ、泣き叫び、震えて倒れてしまい結局その日は登城出来なかったわ。


なんとか王太子殿下の婚約者を断れないかと動いてみたけれど、結局前回と同じように婚約者になり王太子教育を受け、殿下とは恋心ではない信頼関係を築くことになったわ。


また貴族学院に入学して、あなたが入学してきて、殿下とあなたが恋に落ちて、

卒業パーティーで断罪されて。


でも、今回は私に王家の影をつけてもらっていたの。

だからあなたへの嫌がらせは私がしたのではないと証明して、公爵家の横領の告発も王宮の文官に何年も細かくチェックさせていたことで冤罪ということが証明できたの。


これでひと安心と、殿下との婚約を解消して、私はもうほとほと貴族社会が嫌になっていたから、修道院に入ったの。

これで安堵して神の御許へ旅立てるわ、と。


数年後、殿下とあなたが結婚され、これでこの国も安心だと国民全員が喜んだのだけれど、

あなたは貴族には癒しを与えるけれど、平民には与えず、聖女としての祈りも怠り、浪費を尽くす王妃になっていまったの。

税金がどんどん上げられ、国民は疲弊し、国は荒んで行ったわ。


私は修道院で炊き出しや病人の看病などをしていたけれど、貧しい人の数は天井知らずに上がっていった。


そして、ある時国民の怒りが膨れて膨れて、弾けて、王宮が国民に占拠され、王と王妃が捕らえられ、広場で断頭台にかけられてしまった。


その時の動乱で我が公爵家も私以外一族惨殺されてしまったの。


私は女神様を呪ったわ。

どうして?悪いのはうちの一族ではないのにと。

前回の人生で公爵家を罠をしかけたのは宰相家で、今回の動乱でもなぜか一門全部残っていて、最終的に共和国の大統領にまでなって権勢を誇っていたのよ。

王国は共和国になったけれど、結局国民の生活が向上することは無かったの、貧しいままで。

一方共和国大統領になったあの一門はみな大金持ちになって、大陸中に名を轟かせるようになったわ。

結局、私が修道院で寿命によって天に召されるその時まで、王家が無くなっただけで、国民は虐げられていて、良いように動乱を利用した貴族の一部が全部を掠め取ったのだと絶望してこの世を去ったの。


そして、朝、目覚めたら私はまた10才の婚約する日の朝に戻っていたの。


どうして?なんで?もう怖くて怖くて。

やはり婚約してはいけないのではないか?

そう思ってね。

3度目もその日王城には行かなかった。


というか、もうこの国に居てはダメだと思って、婚約者は固辞して固辞して、両親を説得して、

貴族学園に入る年に、公爵位を国に返還して隣国に一族で脱出したの。


漏れ聞いた話では、やはり聖女のあなたと殿下が結婚されたと。

ああ、もうすぐあの国では動乱が起こるなと他人事のように思っていたら、ある日王国の軍隊が攻めてきたの。


前々から水面下では不穏な動きがあったようだけど、気づいた時には、戦禍が大陸中に飛び火し、国境線には難民が押し寄せるようになったわ。


実は公爵家が居なくなった後、王国を掌握した宰相一門が軍備増強し、各国に間蝶を送り、ある国では内乱、ある国では王族同士の戦いと揉め事の火種を蒔いておいて、国の安定のためと王国軍を送って属国化していったの。


その時に正義の旗印にされたのが、聖女のあなた。

聖女の軍隊は聖軍だといっては他国を蹂躙していった。


私はその時隣国の第三王子殿下の妃で、停戦交渉の場にも一緒に居たからわかるのだけれど、


一切の罪は他国のせい、自国は常に正しいという話で交渉になんかならなくて。


その時の教会も酷くて。

聖女を掲げる王国の意見のみが正義と王国に肩入れして。

王国の大司教も各国の司教もみな宰相一門に懐柔された者達ばかり。


結局、神と聖女の名の元に神聖帝国として大陸を統一し、宰相一門は前の時間軸より更に栄えて、より多くの人々が虐げられるようになってしまった。


難民になった人は拐われ、奴隷にされてしまった。


一緒に隣国に逃げてきた元公爵家の者達も、或る者は戦争で死に、或る者は拐かされ、或る者は娼館に売られ酷い有り様で、私のせいでより事態が悪化してしまったと自分を呪い、女神様にもう輪廻の業を抜けさせてくださいと祈り短剣を胸に刺して絶命した・・・


そして、今朝、目覚めたら私はまた10才の婚約する日に戻っていたの。


もう叫ぶことも驚くこともなく、またか!よ。


でね、一人でやるのはもう無理だと思って、朝、侍女のマリーにこの話をしたの。

そうしたら、マリーがね、記憶があるのが私だけで辛い最期なんだけれど、聖女様も処刑されたりきっと幸せな結末じゃないと思うので、話に行ったらどうですか?と言ってくれて。


ああ、たぶん宰相の一門に操られてて、不幸だったかもしれないなと思って今日あなたを訪ねてきたの。


ここまでのお話で、色々思うところもあるでしょうけど、どうかしら?


********************************


どうって言われても。私が聖女?いやいやナイナイ。

確かに魔法を使える人は稀にいるというけれど、多くは王族か貴族だし。

私、貧民街の宿屋の娘だよ。


「あのぅ、私聖女じゃな・・・」

「ああ、そうね。聖女様になって頂かないと信じられないものね」

私の言葉に被せてお嬢様が不思議なことを言い出した。

そして、バックからおもむろに短剣を取り出して、勢いよく自分の手首を切った。


赤い血が溢れ出てテーブルを、床を血溜まりが出来る。


「な、な、何をしてるんですかー!」

私は急いでお嬢様の手を掴むと切った箇所に手を当てた。

すると眩く光、血が止まり傷が無くなった。


「え?なにこれ?」

「今、無意識に、手をかざしたのはどうして?」

「そうしなきゃと思ったから。」

「確かにね。」

お嬢様が後ろを振り替えってマリーさんに頷く。

「どういうことですか?」

「このループを覚えているのは私だけだけれど、あなたにも記憶の残像のようなものがあるのかも知れませんわね。」


お嬢様の血溜まりにも手をかざしてキレイになれと強く願うと、それは消えた。

本当に魔法が使えた、聖女なんだと実感した。


今までのループでは私が15になる年、宿の客の子供が馬車に轢かれて死にかけているのを、私が魔法で助けたのがきっかけだったらしい。一度発現すれば後は自由に使えるようになるとのことだった。

教会で治癒をやってみせたことで、聖女認定をされ、すぐに貴族の養女にされる。

この貴族も宰相の一門で、聖女を使って王族と教会を自分の手中に納めるつもりだったのだろう。


それに気づいたお嬢様がいち早く聖女に目覚めさせて、匿おうと思っていると言った。


「だいたい、婚約者のいる人にちょっかいかけて恋仲になる自分も信じられないのですけど。」

「それは、なんとも言えないけれど。」

ですよね、当事者ですものね。

「でも、今回は私は婚約者にならないで、早めにあなたが婚約者になるのよ。」

「は?」

「どうせ、貴族学園で恋仲になるなら、最初からなれば良いのよ。」

「なればって、私平民ですよ。」

「大丈夫、そこは私に任せておいて。あなたにはしてもらいたいこともあるし。」


そういってイタズラにウインクするお嬢様の顔も綺麗だった。



***********************************


お嬢様、改めアストレア様、レア様は今回はチーム戦で戦うと決めており、ご両親にもこの話をした。

私を邸宅に連れ帰って、聖なる魔法を見せることで信頼を勝ち取った。

私の親にも公爵家が聖女の保護をする旨、公爵家直々に話があった。


公爵家で私は、貴族の作法や言語などさまざまな勉強を叩き込まれた。

レア様は12才にして、なんせ人生ループの中で王太子妃教育1回隣国の王子妃教育1回と修道女としての勉強も終えているので、この国の最高の頭脳と言えるほどだった。


過去の記憶と公爵家の伝手も使い、信じられる教会の司教達と何やらやり取りをしたり、隣国に赴く公爵についていって元の旦那様だった王子殿下とやり取りをしたり。


王太子殿下とレア様は幼馴染みであることは変わらず、ある時殿下がお忍びで公爵家に遊びに来た。

(という形だが、王家には事前に招待の話が内々でついていたようだ)

そこで、私とレア様と殿下で三人だけのお茶会をした。


その時に、レア様は過去3回のループの話をし、私の魔法をお見せしたことで、殿下も信じてくれた。

「だいたい、婚約者がいるのに他の女性に現を抜かしておいて冤罪をしかけるなど、自分の行いに自分が許せない。アストレア、すまない。」


落ち込んだ殿下をレア様と慰めて、殿下の行いが、王国の行く末を決めることになるので間違えないようにとしっかり念を押した。そしてこれからの王国を殿下と私とで正しく導くには!というありがたい話を(その後も機会ある毎に)聞かされた。


私が一通り教育が終わった頃、教会で聖女の認定が行われた。


その時にはレア様によって王国の教会は腐敗した司教達を一掃した。


時を同じくして、隣国でも腐敗の排除が行われ、両国が音頭を取る形で大陸中の教会がまとまり、平和の礎としての力が強まった。私は教会の聖女として活動することも決められ、どこの国へも自由に往来できることになった。


私は、王国の各地の教会で、または他国の教会で、平和を祈り、民を癒し、魔を払った。

魔を払うというのは、魔物を倒すとかではなくて、疫病とか土地の浄化とか呪いの解除とかをね、しました。


そんな日々を送っているので、私は貴族学校には行かなかった。


レア様も。

レア様はその時は王国の外交官として、各国に赴いて、ループ3回目の時の混乱の種火を解決して回ってた。

世界各国を救うレア様こそ聖女じゃないかしら。


ある日、王国と隣国との国境の町に行くと、倒れている孤児がいた。

息も絶え絶えのその子の細い手を握り命の線が切れてしまわぬようにと祈った。

息を吹き返したその子を教会の治癒院に連れていって看病した。

その子が数年後、治療師として王都の治療院に赴任してくるとは全く思わなかったけど。


レア様の働きかけで教会には治癒院と孤児院が併設されるようになり、身寄りのない子や病人を教会が見るようになっていた。


その地を聖女が巡業で回り祝福を与える。地方領主の名誉にもなるので、貴族は寄進を積極的に行っていた。もちろん巡業で来ている時は貴族だってその教会で聖女の癒しを与えられるのだし。


行っていたら貴族学園を卒業する年になると、各国の王侯貴族から求婚が相次いだ。


今の生活にやりがいがあるし別に結婚したい人もいないしと、断っていたが、巡業中に突然盗賊の一団に襲われることになった。護衛の教会所属の聖騎士とその地方の領主が持つ騎士団に守られ、一団は捕らえられたが首謀者はわからず終いだった。


レア様は、宰相の家門が現在上手くいってないし評判もよくないので、聖女を手に入れて人気を上げようと考えているのではないか、と言っていた。


「そんな、拐って手に入れてどうするの?」

「ネメシス、これは一般論として聞いて欲しいのだけど。あなたは聖女とはいえ平民でしょ?平民の命の与奪権は貴族が持っていると考える愚か者もいるのよ。特にあの家門では。聖女とはいえ、拐って純潔を奪って囲い一族と得するような時だけ、あなたの力を使わせたいと思っていてもおかしくないわ。1回目も2回目も基本的にあなたは王侯貴族と高額な費用を払える者にしか力を使ってなかったわ。」


「き、キモチワルイ。拐って純潔奪うって、誘拐と強姦でそれ犯罪じゃないの?」

「そうよ、でもまだ王国では貴族の平民への罪は裁かれないのよ。変えなきゃならないわね。」

貞操の危機を知り震える私の手を握り、レア様が溜め息混じりに言った。


実は以前から私はレア様の妹として公爵家の養女になっていたが公表していなかった。

今回の事件を契機に『公爵家だぞ、貴族だぞ、変なことしたら捕まって裁かれるぞ』と知らしめるために発表し、併せて、公爵家の後ろ楯により王国の王太子殿下と婚約することとなった。


三人での秘密のお茶会以降、殿下も政務に励むようになり、宰相の嫡男やその家門の者を穿って見るようになったらしい。


レア様の話だと、宰相の息子エドワード、騎士団長の息子ライド、裏の商売を盛んに行っていると噂の男爵家の息子ジョヒナンは1回目も2回目も殿下の取り巻きだったらしい。レア様に冤罪を仕掛けたのもコイツら。


今回の殿下は距離をおいているようで、遠くから眺めていると、宰相一門以外の下位貴族を虐めたり、学園内の整備をする平民の女性に無体を働いたり(殿下が助けた)とやりたい放題だったらしい。


それを咎めても、意味のわからない話を展開して逃げてしまう、または他人に責任を擦り付けるという酷い有り様だったそう。


現在の側近は、優秀が故に虐められていた下位貴族の子息達や中立派で正しい領地経営をしている者を中心にしているようで、とても仕事が捗っていると言っていた。

騎士団に至っては実力主義で入団試験に受かれば平民からの登用も始めたようだ。


私が王太子妃となった頃、レア様悲願の『貴族も平民相手でも犯罪行為を行えば正当に裁かれる』という法律が制定された。当たり前である。


不正蓄財などをさせないように目を光らせ、出来るだけ国民負担を少なくするように王家一丸となって取り組んでいると、目に見えて国民生活が活発になっていった。


食べる寝るというだけでなく、絵画や音楽、演劇など芸術活動が市民の中にも広がっていった。

今日も広場では、ジプシーの楽団が演奏している。

王国ではきちんと入国許可を取ったキャラバン隊を積極的に受け入れている。

彼らは国と国とを繋ぐ庶民の商売の要である。

流浪の民として保護する国を持たない彼らの後見は教会がしているのだ。


まだ少女に見える子がタンバリンを鳴らしながら、足を踏み鳴らし、躍り唄う。

彼女が煽ると手拍子も口笛も大きくなり、サビに向かってより盛り上がる。

観衆がザルに投げ銭をし、少女がお礼を言う。


天気もよくいい日だ。


すると、突然馬車が乱暴に乗り付けられ、少女が連れ拐われそうになっていた。

父親と思われる男が騎士にしがみつき少女を助けようとするけれど、あっという間に切り捨てられてしまった。

血だらけの男性の顔を踵の高い靴で踏み、切られた腹もなぶる男、宰相の息子エドワードである。

そのエドワードが男性にすがる少女をも蹴り上げ護衛騎士に馬車に投げ捨てさせた。

私は思わず声をかけ、連れ去りを阻止した。

近衛に憲兵を呼ばせ、少女を助けると、血だらけの男性に手をかざした。

かなり深いようで、傷は治ったが出血量が多い。

二人とも治療院に運び、保護をした。


「レア様、間違った者が正しく裁かれる、そういったように法律を整備しなければなりません。

こぼれ落ちる弱い者を無くさなくては。だいたい、嘘をつく者・悪事を働く者は自分が得をするためにするのです。嘘をつかれた者は嘘の立証する時間と労力心労といったものが搾取されます。悪事もそうです。

された側は傷や痛みといった記憶としなくていい苦痛を一方的に負わされる、なんて理不尽なんだろう。

許せない。」


王宮の私室にレア様を招いて、先程の出来事を話していると悔しくてたまりません。

レア様は黙って聞いてくれていました。

どうやら、不正ができなくなって、資金繰りが苦しくなった宰相一門では、平民を拐って人身売買していたようだが、法律で平民相手でも罰則ができたので、より弱い者へシフトチェンジしているようだ、

3回目のループの時も戦禍の中、難民の女子供を拐って奴隷商売をしていたから。

結局、あの宰相一門を根絶やさなければこの負のループからぬけられないらしい、とレア様が言った。


それから数年かけてアイツらの力を削いでいった。

アイツらに拐われそうな弱い者を助け、保護し、監視する。

ある年、我慢の限界に達したエドワードが策謀を立てた。

隣国の王族と教会の司祭を操って、王国に侵攻させ、漁夫の利を得るという稚拙な企てに、なぜか一門で加わることになった。エドワードの何を信じて一族の命運を託すのか信じられない思いだった。


すぐに企ては露呈したが、逆手にとることにして、国家反逆罪で一族郎党捕縛できた。

これにはかつて、広場で拐われそうになったジプシーのリリー達が手伝ってくれた。


「でもね、リリー。あの貴族の少年と言っていた時のアイツって私より年上だったのよ!」

「ええ!確かにエラソーに喋ってたけど、あんなに小さくて。」

「そういう人もいるのよ。今回だって同じ大きさだったでしょ?」

「横には大きくなってたけどね。」

クククッ淑女ではない笑い声を上げてしまう。

王妃とはいえ、元々平民ですから、わたし。


リリーと父親は私の実家の宿屋を継いでくれた。

リリーに歌手やダンサーを辞めてもいいの?って聞いたら、別に辞めていいって。

あの《安い料金の割りに清潔で安全な宿》があった方がキャラバン隊も喜ぶからって。


まだまだ元気なうちの両親と共に頑張ってくれてます。


レア様がきっと運命のループは終わったと思うわとエドワードの処刑を終えた時に言っていた。


そうであって欲しいと聖女として強く女神に祈った。


レア様の家には隣国の第三王子殿下が婿入りされ、公爵家を継がれた。

まだまだ改革を進めるため、女性初の元老院長になるのはもう少し先の話。



<完>



お読みくださいましてありがとうございました。


誤字誤謬があるかもしれません。


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