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兄と弟

さすがにうさぎの獣人は目立った。


「あら、それじゃ清樹様の弟さんなの?」

「ええ、兄がいなくなってしまったので、慌てて商売を始めた次第です」

「・・・まあね。このあたりも税金払ったら麦も食べれないから、最近じゃ馬と大麦の取り合いよ。治安も悪いし。川も賊が出るからって、この前も官軍と称して、太守にお金出して代官買ったドラ息子がどっかの村だか賊を襲って、南蛮人に子供たちを売り払ったばかりよ、あなたも早く逃げなさい」


持ってきた日用品や野菜を、安徽までの保存食に変えていく。

砦から川でひと月、このあたりにはまだ師父の名前が届いていた。


あれからいくつかの川の合流を過ぎ、森で補給をしながら鄭までやって来た我々は、商売人として村で預かった品々を売りながら話を集めた。


師父は、死んだことになっていた。

砦に残ってバカ騒ぎしていた奴らは、拝謁しに長安に向かっているらしい。


「みんなが無事だといいんですが」

「まあ、優しい!ねえ、あなた、私のパパはこのあたりの有力者なの!あなた、今晩、寝るところが決まってないなら一緒にうちに来る?」

「いえ、今は兄の遺言があるので、誰かの家には寄れないんです」

「物忌、じゃ仕方がないわね」

「ねえ、ねえ、じゃあさ、お兄さん、どんな人だったの?私、講談や本とか演劇でしか知らないんだよね」


あっという間に何人もの人に囲まれて、持って来ていたものはすぐに売れた。ある程度の安売りで売り抜けたのもあるが、灰色うさぎはどこでも人気だった。


今は何人もの高貴な身なりの方々に囲まれて、師父は「弟」として、「兄」の最期を言葉少なげに語っていた。


どこかで逃げる算段をつけないと、と頭を巡らすが、いざとなれば、走って逃げればいいかと、師父を見る。


元々、師父は気がついたらうさぎの獣人だったそうだ。師父のご両親は他のご兄弟と分け隔てなく、高等教育まで施し、師父が立身出世を夢見て旅立つまで、それ以降も仲が良かったとお聞きしている。


物語や演劇になるほどの大活躍のあと、だが、招安を断ると、佞臣どもに目をつけられて我らは反逆の疑いありとされ、師父のご両親が捕まってしまった。


師父はご自身のこととされ、これ以上の争いはしないように厳命し、カゴに詰め込まれて、帝に引き合わされた。珍しいうさぎだとして。


「放せ」


カゴの中で無抵抗だった師父は死にかけだったそうだが、引き出されて傷だらけの師父を見て帝は激怒し、物理的に首が飛びかけたやつらがいっぱいいたそうだ。


私は誰のことも恨んでいません。


血まみれで死にかけてまで、その意思を貫いたことに感激した帝は、我らの砦四方10反の土地をうさぎの禁足地とし、師父を守り主とした。


師父が砦に戻ると、川の合流地点に石碑が天から降って、そこには我らの名前が刻まれていた。

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