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愛しいということ

「あいつら、まだ飲んだくれてんのかな?」

「舟を持ってくるときに見たときには、バカ騒ぎでしたね」

「ああ、聞こえていたよ。しかし、その辺のうさぎで誤魔化されるほど、俺の毛皮はひどいか?」

「まさか、師父の毛並みのうさぎなどあり得ません。早晩、朝廷にはバレるでしょうから、それまでに佞臣どもの手が届かない地域まで逃げましょう」


月を見上げながら、寂しげに目を擦る。

紺色と黄色と黒に限りなく近い緑と青の世界に白がちらちらしている。そして、内側から光を放つ灰色。その一点だけが、目に映る全てが冷たいのに、温かい。


「くしゅん!」

「師父、どうぞ」

「よくあの短時間で毛布まで持って来れたな」

「へへ、師父の無茶振りに応え続けたんで。もう旅や急支度は慣れっこですよ」

「・・・悪かった。あの頃は自分のことで精一杯で、お前ならやってくれるだろうと疑ってなかった。甘えていた。すまない」

「はは。清樹から甘えて貰えるとは、男冥利につきますわ。お気になさらず。私はあなたといたいからいたのです。それは今も変わりません。あなたの決めたこと、その先までお供すると決めたので」

「バカ。泣かせるこというな」


気まずそうに目を逸らすその目はずっと月明かりで虹がかかっていることはわかっている。


砦にいた頃、数時間前まで、こんな風に師父と話をするとは思ってもいなかった。いつもみんなに囲まれていたこの方。2人で話すことも最近はなかった。


「なあ、そっち行っていいか?」

「え?ああ、どうぞ」


師父が腕の中にいる。

舟の傾きを直すために荷物を少し移動させる。


「師父、清樹」

「なんだよ」


月が綺麗ですね。

ああ、そうだな。


淮河の大いなる流れの中、丸い月を2人で見上げている。

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