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「あのさ、」

「はい」

「やっぱさ、ありがとな。一緒に来てくれて」


その小さく柔らかそうな手で、人より小柄なうさぎの獣人でありながら、幾度となく争い、弱き民を守ってきた、我が師父。


「・・・っ。どうか、頭をお上げください、清樹」


夢どころか生きることすら諦めるしかなかった民や我々108星はこの方の元に集い、慎ましやかに暮らしてきた。


胸がいっぱいになり、喉が苦しい。

出てこない言葉は涙に変わっていく。


「泣くなよ」

「師父」

「最後まで、ごめんな。ありがと。」


こんなにも小さな背中に、みんな、いっぱいの夢を見た。預かって頂いた。


「師父、ありがとうございます。こうしてあなたの旅にお供できることに感謝します」

「バカ。なんもないぞ、もう」

「俺はバカですから。あなたがいた、あなたがいる、それでいいです。明日、明後日、ずっと、あなたと一緒に見た夢を、2人で語らいましょうや?話のネタが尽きるまで、天女様が迎えに来てもお供しますよ」

「お前、地獄まで俺に付き合うのか?やめろよ、どうせなら美人のお供がいいんだから、お前は、きっちり天国にいけよ」


泣きながら、2人で笑うと雪が降ってきた。

「師父、夜明けまで川を下りますか?」

「ああ。東に出る。まずは安徽に向かう」

「師父が天女に会って、巻物を頂いた場所に向かう、ですか」

「頂いてから、ずっと開かなかった3巻目が、さっき開いたからな」

「師父がみんなの前で毒杯を仰いだあと、光輝いて風が舞い、師父がいなくなりましたから。何かしら天女様の奇跡かと」

「死ぬつもりだったが、気がついたら石碑にいたからな。まさかお前が毒杯仰いで死のうとしているとは」

「どうせなら、同じ酒を味わってからお供しようと。で、何が書かれているんです?」

「わからない。安徽にもどれ、とは書かれている。どのみち、この巻物は俺しか読めない以上、天女様に会いに行くしかないだろ」


何もないよりは、マシだけどな。


そんなふうに笑いかけてくださる。大義の為に死ぬつもりで、死んだ方よ。今宵の満月に捧げられた毒杯で、我らの星は死んだのだ。


「白花降る 水面の模様 後残り」

「ん?師父?」

「ん?ああ、今流行りの倭の「歌」というやつだ。あちらも戦乱続きだったが今は安定しているらしいし、本当に何もなくなったら、倭に行って、酒屋でもやるか?」

「師父、お酒はやめた方が」

「はは、まあな」


ひらひらと舞い散るように川に降り注ぐ雪は、確かに蝋梅のようで、その川面に映る灰色うさぎを少し歪めながらも、美しく彩っている。

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