鏡の中のジャバウォック
まあるい お月さま まっしろな光 まっくろな空
月明かりの下、その豪奢で古ぼけた1人掛けの椅子は、滑らかな曲線に光を反射させながら、主人を抱きしめていた。
彼が初めて作った椅子であり、この王座に座って見るお気に入りの丘は、地面の浅い緑も、葉っぱの濃い緑も、陰で黒くなった茶色の幹も、全てが彼には、鮮やかに見える。
草の擦れる音すら、憚られるような静寂の中「ぽん」と本を閉じる音が響いた。
今、この時。赤い背張に抱かれた灰色うさぎは月を仰ぎ、小さく息を吐き出し、その膝に置いた古い絵本は閉じられた。
豪奢な椅子に簡素な服。
木綿糸の無地な上着と、加工なしのジーンズに黒いスニーカー。
一切の装飾を剥ぎ落とし、だが、彼は彼自身を持って、その場に君臨していた。
その温かな茶色の瞳は、瞬きをしたあと、周囲を睥睨し、それを焼き付かせるように、彼はゆっくりと目を閉じた。
一陣の風が、その長い耳を揺らす。
彼は再び目を開け、月を仰ぐ。
月は、満月。今年最も地球に近づいた月は、丘を明るく照らし、彼自身の瞳には、月しか映らなかった。
吸い込まれそうな月に向かって、柔らかい、人懐っこい笑顔を浮かべる彼は、とても満足そうに、絵本に手を載せ、その身を椅子に沈め、その美しい目を閉じた。
彼の手元にある、古めかしい本は風に巻かれて、草の上に落ちる。衝撃で栞が挟まれたページが開かれた。
『お姫さまは中庭にあった、小さくて痩せている、だけど温かい木の下にうずくまって、さいごの時を待ちました。
温かい木は、ほのおからの風で、まるでお姫さまを守るかのように揺れています。
だけど、木は動けません。しばらくして、木は諦めたように静かになりました。
ふたりは「ぱちぱち」という音だけがする場所で、一緒に焼かれてしまいました。
こうして、お姫さまは、白くて立派なろうやから出ることなく死にました。』




