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断食明けのエッグタルト

『拝啓 


ご無沙汰しております。

以前、貴事務所にお願いをして家を建てた内藤です。突然のご連絡、申し訳ございません。


今回、地震ボランティアのニュースで今の貴方を知り、私の友人の願いを叶えて頂けないか、ご相談にメールしました。依頼内容は添付の通りです。


大変不躾なご連絡とは重々承知しておりますが、何卒、ご検討の程、よろしくお願い致します。


謹白』


そんなメールで始まった今回の依頼。

先程、静かに眠るように旅立ったとご連絡を頂きました。


明け方、今回は旅立つ時間がわかっていたため、最期の夜はどんちゃん騒ぎをした後、家族の時間を取り、全員に見送られて眠りについたそうです。


みんな、笑顔で見送れたと感謝していたとのこと。

電話越しの声は泣いていました。こっち側も泣いています。お疲れ様でした。


「末期癌で痛みなく旅立てるって、お前の先輩やるな」

「先輩曰く、医療用大麻のおかげだそうです。モルヒネだと、物理的な疼痛がメインで、神経的疼痛に効かない上にダルさと吐き気がするので、最後の、もう依存になったとしても意味がない人なら医療用大麻一択だって」


本当に輸送業は割に合わないと、流れる涙もそのままに事務机に向かう灰色うさぎさんは、医療もたぶん向いていません。今回、依頼者は依存性無視で鎮痛効果を最大にして、最期の時間の質を確保されました。


「シロさんへの依頼料、安くないんですけどね」

「今回は学校とか本人が行きたかった場所への送迎と友人達の送迎で2日間、300万円だからな」

「私のコーディネート料は?」

「ん。半分でいいか?先輩の2万円はこちらから出す。渡しといてくれ」


・・・賞与より多いです。


「ん?ほしいものあるのか?」

「そりゃいっぱいありますよ?でも先輩が2万しか貰わないのに、紹介しただけの私は使いにくいので貯金しようと思ってます」


全く、適正な料金を取らない人のせいで困るのです!LINEしたら、ボロ泣きなくろねこスタンプだけで返事がありません。


「今回の旅立たれた依頼者のお子さん、来月から高校生でしたね」

「ああ、丁度、物入りだと思ってな。香典ぐらいは出そうと思っている」


先に読まれてしまいました。

むー。


「であればです。私の分は、半分はシロさんに生活費として渡して、残りは1万円だけ残して、終末期医療患者のご家族が、安く泊まれるホテルに募金しておいて貰えませんか?」

「ん?」

「みんながシロさんに繋がる訳じゃありませんし、お金の問題があります。でも、最期の時間を大切な人と過ごす権利が、少しでも使いやすくなってほしいって、今、思いました」

「ん、そっか」


茶色い飴色の机の上には、籠盛りのカラフルなイースターエッグ。


近くのジュニアスクールに、今も講師をしている専門学校、日本人学校などから贈られたシロさん宛の感謝がいっぱいです。これはシロさんが輸送能力ではなく、積み上げたもの。


他のうさぎさんたちは、よほど高額でなければ個人依頼を受けません。だからこそ、能力に頼らないで出来ることが大切だと思えます。


「シロさん、今日はピクニックに行きませんか?1万円分のお菓子作って、イースターエッグハントです!」

「お前、あと4時間で仕事だろ?」


ぐすん。現実が私をいじめる。


「今日は俺が昼飯作るよ。そしたら、外で食べよう」


ほら、いつまでも泣いてんなよ。

暖かな初春、差し出されたふわふわな手を握り返して、一緒にリビングに向かいました。

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