3月うさぎの祝祭
シロさんは「灰色うさぎ」。
地点を指定すれば最大半径300kmの瞬間移動ができますが、それでは海を越えられない。
人をマークポイントにすれば無制限に跳べますが、そもそも会ったこともない人は無理ですし、マークポイントにできるだけの「信頼度」が必要です。
「うー、こうしてみるとシロさんは万能でも、特化型でもないんですね」
「ん。言えば、俺は、俺自身を守るのに特化しているからな」
「なるほどー。逃走特化型うさぎさんなんですね」
「まあ、売られた喧嘩は全部買うけどな?」
「ニカッ!」としか文字にならない好戦的な笑顔が眩しい灰色うさぎさんは、大変逃げあ「守勢型!」とのこと。
まあ、ぶっちゃけ、お家に跳ぶのは無制限なんですから「とうそう」型でしょう。ご本人のお気持ち的には三十六計逃げるに如かず、で「闘争」だと思います。
お一人だけだと「逃走」ですが、触れていれば一緒に跳べますし、信頼できる人の側には間髪入れずに助けに入れるので「闘争」することも可能です。大切なものを守る守勢型うさぎさん。
でも、お耳をひくひくさせて、誇らしげに踏ん反ってる灰色うさぎさんの膨れたひげ袋を、ちょっとだけ、突っついてもいいでしょうか?「ダメに決まってんだろ!仕事中!」そうでした。
解せ、ない訳じゃないです。シロさんは周りの人達の大切さや、自分のやるべきことや貢献できることを理解している灰色うさぎさんだとは流石にわかっています。
「だからお前を見つけるのに時間掛かった。俺は日本にいないからな。マークポイントになってくれる奴らに頼み込んで、あっちこっちに出かけてもらっては、呼んでもらった」
春の日差しが温かな初春。
今日は、シロさんとお仕事中です。
「ありがとうございます」
「いえ。仕事ですから」「お身体大丈夫ですか?」
にこりと微笑む依頼者は、座っていることすら苦しそうな、末期癌の患者。余命は、もう今日、明日というレベル。
さっきまでは病院で大量に管を入れられて横たわっていましたが、本当に最期の願いとしてお子さんの卒業式に来ました。
私の会社の先輩の異能は「生命力活性化」。要は治癒能力ですが、変換効率は相性であり、この状態の人に使うと「元気の前借り」にしかなりません。
はい。残りわずかです。




