間話 一緒にいようね
むふふ。日本というか、我々製造業はラインを止める関係上、どうしても休みが長いです。
その間は製造部さんや生産技術さんがいろいろ直したり、足したり、最適化を図るのです。
「正月なんていつ休んだか?」
という生産技術さんですが、当然代休はありますし、時期をずらして旅行などを楽しむ方もいます。
その分、我々は悪名高き祝日がない「トヨタカレンダー」の支配下にありますが、祝日は在宅ワークか有給取得推奨日です。我々自動車メーカーは、製造業者としてピカイチなホワイトです!
・・・・後輩たちに言っても、見向きもされません。ぐすん。
だからこそ、こんなことが出来るのですよ。
し〜ろさ〜ん。
アメリカは1月2日から仕事です。
シロさんもご多分に漏れずしっかり仕事中。
「あけましておめでとうございます」
「ん、あけましておめでとう。今年をお前と迎えられて嬉しい。干支は変わったが、お前の今年一年は俺が幸せにする。任せてほしい」
「シロさんが幸せになれるように、頑張ります。まずは調理師免許とか会計士免許を目指します!」
シロさんの「有能な秘書」として、しっかりサポートが今年の目標です。
それにしても、仕事中のシロさんは、本当カッコいいです。じっと見ていられる幸せ。もふもふ。
鋭い視線に、真っ直ぐに伸びた背、まあるい後頭部から飛び出すお耳が、アンテナのように感情を示しています。
スーツもヘリンボーンの明るい灰色。
シロさんの地毛と相まって、素晴らしいグラデーションを奏でます。靴はサンローラン。
さらに特注の金色の筆記具。
ため息しか出ません。
そっと、温かい紅茶を差し出します。
難しい顔です。どうしましたか?
「ん、ありがとう。どうやら日本で大地震らしい」
「お手伝いですか?」
「いや、まだ連絡は来ていない。こういう時に素人判断は2次被害を招く。まともにボランティア活動出来るやつらは区役所とか、慈善団体に登録済みだ。予備自衛官もいるしな。今行けば、自衛隊の邪魔にしかならない。電話もだめだ。同じく邪魔だ」
「今いるのは?」
「県外で縁がなければ、売名か再生数稼ぎか泥棒だな」
イラつくが、今は祈るしかない。
そう言って、シロさんは手を結び、顔を上げて目を瞑りました。
誰よりも「聞こえてしまう」シロさん。
「何も言えない」灰色うさぎ。
被災地には縁があり、本当は飛び出したくても我慢する大人です。
「シロさん、経理のやり方とか教えてもらえませんか?シロさんが現地入りしている間の負担ぐらいは一緒に背負いたいです」
「・・・ありがとな」
明るい日が早く来るように、今は出来ることをして待つしかありません。
太陽の差し込む部屋で、誰かに祈りました。




