間話 本当の魔法
「」
無言で先生とアイコンタクト。
うなづき、踵を返してお菓子を取りに行こうとしたら、すでにスタンバイされていました。次いでに「うさ先生」にお菓子をもらう列も保護者や先生たちにより整理されています。
しかし、子ども達に大人まで、体育館2周分の人が並んでいます。・・・もしかして全員でしょうか?
「うさ先生、ありがとうございました」
「ん?あ、あの時の」
「はい。うさ先生のおかげでノート盗んでいないってわかってもらえました。あと友達もできました」
「ん。よかったな」
シロ先生はしっかりとひとりひとりにお菓子を渡しています。私の大好きな「坂道系アイドル」より握手時間も長いし、言葉も合わせてくれるなんて、応対も「はなまる」です!これはファン冥利に尽きます。神ファンサ!
「大野小の奴等が「うさせんせー」とか毎回言いやがるからどんな奴なのかと思ったけど、大したことねーな」
「そうか。ほら、お菓子だ。それ食べてみんなとハロウィン楽しんでくれ」
「べ、別に楽しくなんかねーし。こんな祭り」
「ん。楽しくなくても参加したんだ?参加するのは大切だ。偉いぞ。まあ、せっかくだから、楽しんでいけ。その方が同じ時間を過ごすにしてもいいと思わないか?」
『早くしろよー』
「ん?どうした?」
「なんでもねーよ!」
「そうか。じゃあな」
なんでもないのに、しっかりとシロさんに握手をしていきました。つんつん小学生にもしっかり対応してます。流石なイケオジです!
「噂を聞いてお会いしたかったです!」
「妹が「うさ先生」のヒゲのおかげで中学受験に受かりました」
「「うさ先生」の毛で作ったキーホルダーで交通事故を回避できました」
「「うさ先生」が証拠もなく疑ってはならないと言ってくださったので、最近はいじめや無視はよくない!という遊びが流行ってます。ありがとうございます」
「「うさ先生」が付けていたバンダナが爆発的に売れました!今回来てくださると聞いて協賛させて頂きました!」
もう、シロさんはこの地域の神さまになったようです。とりあえず、いじめが減ったことは純粋によかったと思います。
「次はうちの学校に来てください!」「俺達サッカー部に!」「6年にも!」「美術部でモデルに!」
さらなるファンが増えたようです。
この地域の小学生人気は灰色うさぎに独占されました。
ん?あれはなんでしょう?
女の子たちが灰色うさぎのキーホルダーをつけています。よく見渡すと、ちらほら同じキーホルダーさんがいます。
「それなーに?」
「これ?うさ先生のキーホルダー!1組と2組だけなの!うさ先生の毛とかヒゲとかバンダナとかエプロンとかを少しずつ使ってみんな分をみんなで作ったの!」
「せっかく手に入れたんだけど、独り占めはダメってうさ先生言うから、みんなで分けたんだ」
「あたし、うさ先生のヒゲ持ってたのに!」
「半分にして、残り独り占めしたでしょ!」
「あ、あれだけは嫌なの!あたしのなの!」
初夏のシロさんは夏毛に生え変わるので、一回のブラッシングで大量に抜けます。キーホルダー作ったら、だいぶ儲かりそうですが「いや、このお守りだけはダメ!」「何?どうしたの?」「はなして!!」「やめなさい!」血みどろの争奪戦になりそうなので、やめようと思いました。
嫌がるので、そっと日本の部屋に隠してありますが、集めた毛とヒゲで等身大シロさんぬいぐるみを作るつもりです。この前、服を作らせてもらう時に採寸しました。ふふふ。気が付かないうちに進行している極秘プロジェクトです。
まあ、なるほど。それでいじめられていた様子の男の子も友達ができたのでしょう。
明るい太陽が降り注ぐ、体育館。
大量のお菓子に囲まれたハリポタ仕様の灰色うさぎ。
だいぶくたびれながらも、それでもひとりひとりに声を掛け、お菓子を手渡す「うさ先生」は、確かに「魔法使い」でした。




