旅館の朝
0608 a.m.
ピピピpppp....
眠い。もう、あたしは眠いの!
「おはよう」
「......おはよう」
カーテンの隙間から明かりが入ってる。もう、夏も終わりなのに、日差しはまだまだ元気みたい。
畳に敷いた布団とか、旅館以外で寝たことないけど、たまにはいいわね。
「ほんと、こうして家族旅行とか久しぶりね」
「そうね。毎回、疫病流行が終わる度に出掛けようって言っていたけど、なんか落ち着かなかったから」
観光客が押し寄せるから、まともにホテルが取れなくなるし、いいことないわ。
「何?」
「それにしても、この前、あなたが罹った時はどうしようかと思ったわ」
「もう半年も前よ?味覚もだいぶ戻ったし、大丈夫。心配してくれてありがとう」
そうね。私も死ぬかと思った。
40度近い高熱が5日間、呼吸もまともにできず、食べるのも当然無理。実家暮らしでなければ今頃死んでいた。
「でも!これであなたにいい人が来るなら、倒れても決して悪くないわ!あなたはいっつも「いらない」って言って婚期逃したから、ようやく春が」「そういうのが嫌なの!」
まったく。口を開けばそんなのばっかり。前向きの意味が違うわ。
「いいから、朝風呂に入るんでしょ?」
「そうね、早く行きましょ。ネットの口コミだと朝風呂は6時台なら空いてるはずよ」
宿泊者全員がクチコミサイト見てたら、無駄じゃない?それ。そういうところがママなんだから。
まあ、いいわ。窓に近づいて、カーテンを全開にする。
「うーん!?」
しっかり身体伸ばして、羽根も伸ばして。太陽光を浴びる。よし!
「紗織?」
「はいはい」
昇ってきた太陽に背を向けて、廊下に向かったわ。




