番外:そばで待っていてくれる月
これしかありません。
「おまえ、もう、なんなんダよ」
ぐったりしているシロさんをリュックに詰めて、並ぶしかありません。
「今日は〜今年最後の〜幸運日〜縁起が重なる〜♩」
そう我々は今、宝くじ売り場に並んでいます!
「別ニ気にすんなよ。言われたの俺なんだから」
「悔しいんです。でも言い返せるだけのお給料ないですし。少しぐらい、シロさんの扶養から抜けたいのです」
「気にしてネーし。きちんと入れてるんだから、おまえ、頑張ってルよ」
リュックから、強くしなやかで柔らかな夏毛に覆われた優しい手が「よしよし」としてくれます。
ぶっちゃけ、私のお給料だとシロさんのお家で折半はできません。お給料の半分を渡していますが、支払いは食費ぐらいであとは積立型運用通帳に入れられています。日本の家の維持費はなんとか意地で支払っています。
「きちんと金銭管理することは大切。その分、料理とかしてくれて助かっているから気にしないでいい」
「だかラって、この暑いのに行列とか」
地面は暑いので、冷たい空冷式リュックの中にシロさんを詰めて宝くじ売り場にダッシュできました。
「うさぎのしっぽって、ラッキーアイテムらしいですよ?」「おまえ、ヤめろよ?引っ張んなヨ?」
心底、嫌そうな声です。
リュックからハンディ扇風機で風を送って貰っているのでとても涼しいですし、扇風機を持ったシロさんはかわいいを極めています。
「いらっしゃいませ」
「シロさん、力を貸して!」
ぎゅっと、リュックを抱きしめます。
「ためいきもでねーナ」
呆れ声が聞こえてきます。
「なア、これ、連番で」
「え?あ、はい。よろしいですか?」
いきなり、リュックからふわふわ灰色おててが紙を係員さんに渡してきました。
係員さんが私を見つめています。
「はい、お願いします」
ということで宝くじをあっさりゲットしました。
「まさか、シロさんが番号書いてくれるなんて」
「まあ、適当だから期待するなよ」
宝くじ売り場の近くにある中華料理屋さんで、すだちラーメンを2人で食べています。
うさぎ姿のシロさんは天竺木綿のさらしTシャツにジーパン、白いスニーカーに黒いチョーカーと大変決まっています。ラーメン屋でよかったのか、疑問です。
「ん?別にラーメンも嫌いじゃない。たまに外食するとさ、次に作る料理のアイデアにもなるシ」
「あまり注目されるの好きじゃないのに、すいません」
「気にしてなイ。腹が減っただけ。帰りに散歩しようゼ。街中歩けるとかやっぱ日本って治安いいよナ」
地下街とかもありますし、確かにそこならシロさんも暑くなさそう。
『おめでとうございます。全額無料』
電子マネーで支払ったら、くじに当選。
まさか、食事代が掛かりませんでした。
「な。俺ら、きっと日頃の行いがイイんだよ。だから別に宝くじなんてなくたって今のままでいいんだよ」
振り返るシロさんの理屈は相変わらずわかりません。
「全体化は良くないですが、シロさんの日頃の行いはいいと思うので、きっとそのせいですかね」
「大体、宝くじ当たったラ何がほしいんだ?」
「シロさんに渡そうと思っただけなんで使い道はないです」
「なンだ、それ?」
シロさんは笑いはじめてしまいました。
釣られて笑ってしまいます。
「まあ、イイや。行こうゼ」
「はい」
今日も隣にいてくれる温かなこの人の優しさと2人の小さな幸せが、万倍にも重なる時間になりますように。




