番外:ひとことだけの願い
何を書こうかな。
お願い事、ひとつだけ。
だけど、なんとなく書きにくい。
「ん?コれ凄いな」
「笹の葉で包んだちまきとか珍しいでしょ?かっこいいうさぎさん、おひとつどうぞ?」
「いくラ?」
「お金いらないから店前で食べてくれない?集客効果抜群よね?」
「払います!!この人は見せ物じゃないんです!!」
シロさん抱えて緊急ダッシュです!
ちょっと目を離すと、すぐに群がる害獣どもが・・・「お前、コわ」きっ!!「落ち着いてクれ」
もう、ちゃっかりちまきを握らされてます。
握手されてしまったシロさん。ああ、な「いヤ、お前の分は買ったシ」
ほら、と温かなちまきを渡されます。
ぐすん。温かくて美味しいです。最近はゴミ箱が少ないので携帯ゴミ袋が欠かせません。
ついでにシロさんの手を拭きます。消毒用お手拭きは必須アイテム。疫病もあの不届き者が触った箇所も消毒です。
「凄いナ、人も飾りも」
シロさんはアーケードの飾りを仰ぎ見ています。
「私が子どもの頃はもっとごちゃごちゃしてましたけど、今の方が見やすいですね。シロさんは七夕祭りとかいったんですか?」
「アあ、子どもの頃にはな。隣の市にずっと続いている祭りがあっておやじとかおふくろとかに連れて行ってもらっタ」
おっきなわたあめとかが好きだった、と手を横いっぱいに広げているシロさんと平塚七夕祭りに来ました。
もっと有名な七夕祭りもありますが、地元近くのよく遊びにきた想い出のお祭りを案内したかったのです。
疫病前と比べると、出店や人も減りましたし、みんなマスクしてます。我々も人混みに入る前はマスクしています。
シロさんのマスクは私のお手製をつけてもらっています。息苦しさがなく、直球の飛沫感染は防ぐためのマスクです。考え抜きました。
「食べ歩きシすぎて夕飯が要らないな」
「夕飯、ちらし寿司と竹を器にしたゼリーの予定でした」
「お前ノちらし寿司は好きだから、なら食べ歩きは我慢だな」
「そう言ってくれるなら、あっちこっちに手を振らないでください!!」
話ながらも爽やかな青地に天の川をあしらった浴衣姿のシロさんは大人気です。写真がバシバシ撮られてますし、露天商の売り込みが怖いです。
「うさー」
「オう!」
子どもたちの声ににこにこと手を振っているため、親御さんからの感謝の品がどんどん増えていきます。
「こえ、あげる」
「ン?ありがとな」
走り去って行く子ども。
どこかの教祖様みたいです。
七夕飾りを見終わる頃にはリュックは、射的の景品と御礼の品でいっぱいでした。
「射的、チョロいな」
「シロさん、ちょっと上手すぎません?」
「まあナ。だけど、本当にくれるなんて」
「ここ日本です。テキヤさんは合法的な商売です」
「昔は当たりくじなし、とか裏側にテープとか鉛トカ汚かったんだ」
型抜き屋は最低だった。できた型抜きを渡したら割りやがって払わねーとか子ども心にイラついたぜ、と今なら景表法から詐欺罪までいろいろとお巡りさんを呼んでくることを呟いています。
シロさんは日本人だと思っていましたが、違う国の方でしょうか。そんなことがあったなんて。
「マあ、むかしはな。今はそんなことしたらネットで晒されるからやらねーか。監視社会は窮屈だけど、子どもたちにはいいのかもな」
うんうん、と頷いているシロさんは取った高額景品を店主と話して半額で買い取って貰い、現金を入手しました。あっさり「3店方式」を実行するシロうさぎ。さすがにグレーすぎて何も言えませんでした。
「よし」
そのまま、ネットで調べた動物保護団体と提携している動物病院に行って寄付してしまいました。
「ありがとうございます」
「いエ。今日は縁を繋ぐ日、キっとご縁があったのでしょう。まあ、あぶく銭は身にツかないので。なら、マシな活動に使った方がいいってことで」
ほら、俺、うさぎだし。と笑っていうシロさんは、とてもカッコいいです。
「ほら、いくゾ?」
「はい。いきましょうか」
「あの、せっかくだから短冊、書いていきませんか?」
声をお掛け頂いて、今。
机の前で2人。
さて、なんて書きましょう。
そっとシロさんを見たら書き終わっています。
シロさん、うさぎさんなのに達筆です。
うさぎさん用筆記用具という、特注品を常に持ち歩いています。解せぬ。
「なんて書きました?」
「せーのデ、答え合わせな?」
ぶー。仕方ありません。
シロさんを見て、思ったことを書きました。
「じゃあ、付けますね」
「あア、ありがとうございます」
夕暮れの日差しが差し込む待合室。
少し高いところに飾られた2人の「願い事」
「大切な人が幸せでありますように」
「大切な人が笑っていてくれますように」
「帰るカ」
「はい。帰りましょう」
笹の葉がほんの少し、揺れた。




