オイル漬けのマグネシウム
なんだろな。
別にさ、どうでもいいと言えば、そうなんだが。
「あれ?まだいたの?」
「よ!おつかれ!」
ガソリンが染み込んでいるリノリウムの床に座っていたら、ダチが来た。
「明日、レースだろ?寝なくていいの?」
「なーんかさ。目が冴えまくってんの、今」
はい、と差し出されたコーヒー缶を開けるには、この身体だとやりにくい。
「あ、ごめん」
「いや、せっかくなのにすまんね。今日はもうあまり戻れないんだ」
「はいどうぞ」
「ありがとにゃー」
「うわ、キモ!?」
なんだと?と睨んで見れば、ケタケタと笑っている。
「あれ、でもさ。進捗、止まったんだろ?」
「ああ。先週かな、鳥が来て、カウントダウンがストーップ」
「大丈夫なのか?」
「代わりに探さなくても、時間くれば会えるらしいから面倒じゃなくていい」
そうそう。それまでの時間、好きに使えるし、不安にならないからすっげー得した気分。
「前向きだな」
「あったりめーじゃん。明日のレースの方が重要だって」
「俺が整備したバイクなんだから、きっちり乗りこなせよ?」
「ばーか。誰に言ってんだよ」
「お前だよ、ロク」
笑い合ってさ。
楽しく馬鹿騒ぎしてさ。
もう、これでいい。もう、これがいい。
もう、誰も、俺の世界にはいらない。




