風に滲む声
月明かりの下、幻想的な世界で。
シロさんが顔を上げて、見つめ合う私たち。
シロさ「よし、今から引越しナ!」「え?」
「明日って、日曜日ダろ?あ、日本はもう今日カ」
「そうですけど」
「時差あるから、ちょっと気をつけないとナ。そっちの家はもったいねーけど、出入りに便利だから維持でイイか」
1人でうんうんとうなづいているうさぎさん。
「アあ、部屋はどれにする?余ってッから好きに使え。あとで近所のスーパーとかも教えるかラ、安心しろ。生活費とか気にしないでいいケド、無駄遣いはダメな?夕食とかは」
ん、んん?
「ちょーとまったー」
「一緒に、ってなんだよ?もう小遣い交渉カ?この辺物価高いからそうだナ」
「悩んでいるところ申し訳ないですが、社会人なのでお小遣いはいりません。生活費足りなかったら相談させてくださいって違います!」
「いや、サ?日本の給料でこの辺で生活するって、フードスタンプが必要になるんだが、なんだヨ?」
上目遣いで「なーに?」って顔してますが、確信犯です。
シロなのに油断ならない灰色うさぎ。
「シロさん?」
「バレた?」
このうさぎさん。私の居場所を変えることで、もう1人を煙に巻くつもりです。なんて容赦のない人。なんか困ったことになりそうな気がしま・・・あれ?別に困らないかも?
シロさん家は私の好きな木が多い上品で温かなお家だし、家具も素敵です。ぶっちゃけお仕事は生活のためだからシロさんに養ってもらうのも・・・いえ、ダメです。最低限は働かないと。
「それにしても随分と急過ぎませんか?」
「大切なのはハートだ。俺はお前といタい。俺なら」
お前の全部を満たしてやる。
くちびるの片側を上げて笑っているこの人は、カッコいいこと言っているつもりでしょうが、耳はぺたんと後ろで目はうるうる。服をぎゅっと掴んでいる時点で、ちょっとしまりません。
困ったうさぎさんです。
「断られるの、不安ですか?」
「だって、他のやつが選ばれたら、俺、どうしたらいいのか、わからないんだ。お前に会えないなんて耐えられない。身体が治っても、もう意味がない」
ポロポロと泣き出してしまったシロさん。ぎゅっと、温もりを分け合っている2人だけで、このままずっと一緒にいたいこの気持ちを他の人にも持つなんて、なんて酷い物語。
「なア」
そっと囁いてくる愛しい小悪魔の提案に、気がついたら私は頷いていた。




