静かな夜に思う
一枚のカード。
私も初めて見るそのカードはシロさんの【願い】。
疫病で生死を彷徨っていたある日、いつのまにか「魔法」が私にロードされていた。そして「知識」も。
魔法の使い方から、この世界の仕組み、誰かと出会うまでの過程。
この世界の「New order」は、簡単に人の想いを超えた。
「魔法使い」は対となる「従者」を選ぶ。
「従者」は「選ばれる」と「魔法使い」と同じ時を生きる。
「選ばれなかった従者」は「病気」が回復する代わりに魔法使いへの想いを抱いたまま「縁」が切れてしまう。
「魔法使い」に対し「従者候補」は2人。
魔法使いは従者候補に対して、無条件に恋心を抱くし、逆も同じ。運命の恋が二重に発生する。
シロさんはカードを抱きしめたまま、動かない。
魔法は様々。指から火が出るとかの手品レベルから予知や回復能力まで千差万別。能力が大きいほど、代償や制約が厳しくなる。
従者は様々な能力を持つけど、何かしらの「後遺症」か「疾患」がある。様々な能力はそれを補うようにつけられる。こちらは変化した姿である程度、分類可能。個人差あるけど。
「従者」側はその類い稀な能力で「魔法使い」を助けてくれる。魔法使いはそばにいる従者の「病気」の進行を遅れさせる。
従者の病気。それは人あらざる姿になってしまうこと。少しずつ、人に戻れなくなっていく。だから従者は魔法使いを探す。そばにいれば病気が進行しないから。
選ばれなくても別に従者の病気は回復する。だから、魔法使いさえ見つかればいい。私もどちらかに決めるか、どちらも選ばないとすればいいだけだと思っていた。
だけど、こんなにシロさんが愛しいと思ってしまう。これが恋なんだって、いっぱい本を読んできたのに、わかっていなかった。
シロさんの【願い】ってなんだろう。
「不安ニなるなヨ」
「・・・はい」
「俺の【願い】っていうか、知りたかったことが書いてあっタ」
「ん?」
光が収束し、また月明かりが戻ってくる。
静寂の中を風がサワサワとした音で抜けていく。
従者はその魔法使いの魔法を必要とする人が選ばれる。だから、シロさんは何か【願い】があるはず。
「未来なんて、自分で切り開くもんダ。言われなくても、切り拓いて見せるゼ」
私の腕の中で踏ん反りながら、にやりと不敵に笑うシロさんは相変わらず偉そうです。
「でも、知りたかったんだ。あいつが幸せだったのか。だから願ったんだ。もう一度、あいつに会って、今度こそ、俺が幸せにするっテ」
なんか、面白くありません。
シロさんを後ろからくすぐってしまうか迷います。
「ちょっ!?待てよ?!話を聞け、最後まで」
「ぶー」
「お前に会いたかったんだよ、俺はずっと。あの病気で死に掛けた時、お前のことを想い出した。随分と遅くなったけど、お前を今度こそ、幸せにする」
カードがシロさんに吸い込まれていく。
そしてシロさんが、少し若返っている。
ああ、カードが望む「代償」は支払われたんだ。




