# 63 久しぶりのお出掛け
「サクラ様、早速であれなのですが……」
突然姿勢を正してダイアナが私に向き合う
「んっ? 何?」ちょっと緊張してきた……
「素材採採取 ですが、明日など如何でしょうか?」
「明日?」……それはまた急だね……なんて思いながら
「私は構わないけどダイアナは訓練なんじゃないの?」
「私は明日もお休みを申請しております。サクラ様……私たちが訓練を受けられる様にこれまで外出を控えられておられたのではありませんか?」ダイアナが真剣な眼差しで私を見つめた
「えっ? いやっ……そんな事は……」思わず視線を逸らしてしまった
「申し訳ございません。私はサクラ様のお付になれた事に浮かれて配慮が足りませんでした……。サクラ様にお気を遣わせてしまい……本当に申し訳ございませんでした」
深々と頭を下げるダイアナに面食らいながら
「いやいや……あの時はまだダイアナは騎士団に入ってなかったし、ダイアナがメインで護衛……って言うか、一緒に居てくれるつもりだったんだでしょう? だからダイアナが謝る事なんてないよ? それに……私が出掛けてないのもほらっ、あっあれこれ作ったりしてたし、のんびりも出来て充実してたし……」
「やっぱりサクラ様はお優しいですね……」ダイアナが首を振りながらそっと息を吐く……ため息?
「本当は交代で護衛に付くなんて護衛対象者であるサクラ様に知られてはならないのですよ……
サクラ様には気付かれる事無く、自然に私たちの誰かが側にいる事が真の目的だったのですから……
サクラ様をひとりきりにさせないって事が……なのに……
私は自分の交渉が上手く行った事に興奮し過ぎていました……サクラ様のお付になる事を勝ち取れたって自惚れてたんです」
「ダイアナ……そんなに落ち込まないで? 私の護衛を考えてくれてた騎士団の人……? どうするか行き詰まってたんでしょう? そこに活路を見出したのはダイアナはお手柄だし、ダイアナの交渉術があったからじゃない。
まぁ……先走って私にネタばれしたのはまずかったのかもだけど……でもっ、そのおかげ? で私もフラフラ出歩かなかった訳だしさ。結果オーライだよ!
それにっ! ダイアナ達に課せられた任務についてしっかりキッチリ説明してなかった上司にも問題ありだから!
護衛を任せられたら張り切っちゃうよね。気持ちは分かる! だから……そんな風に自分を責めないで?」
「……サクラ様……」
私の言葉に黙り込んだダイアナにシェリーが声を掛ける
「もう宜しいのではないですか? 貴女はキチンと自分の至らなかった事を自覚して反省したのですから……その反省の中から学んだ事もあったでしょう。これからどう在るべきかも……。サクラ様をこれ以上困らせてはなりません。分かりますね?」
「はいっ!」とシェリーの言葉にピキっ! って感じで背筋を伸ばしたダイアナだった……
なんか……分かる気がする……凄く穏やかな声で静かに言われてるんだけど……身体が勝手に硬直する感じがした
まぁ、良かったかな? 騎士団がダイアナ達に護衛を任せる事に疑問を感じてた事については納得出来た。護衛……って訳ではなくて、私が常に誰かと一緒に居て1人にさせない様にって事だったのね。確かに1人だと狙われる確率は上がるのかもだし……私にはシェリーも天ちゃんも居るから1人ではないんだけど……はたから見たら1人だもんね……
翌朝、ダイアナとアレスがやって来た
「アレス! 少し見ない間になんかちょっと逞しくなったんじゃない?」私はびっくりしてアレスに声を掛ける
「ありがとうございます。騎士団見習いとしての訓練で身体が鍛えられたんだと思います。先輩方からは成長期だからドンドン鍛えろって言われました」アレスが嬉しそうに言う
「自主練も頑張ってるみたいだしね」ダイアナの言葉に
「ダイアナに温泉の事を聞いて良かったよ。アレクは温泉に浸かり過ぎでのぼせたりもして大変だったけどな」
「温泉は疲労回復やちょっとした怪我や打撲には効果があるからね。でも……のぼせるほど温泉に入ったの?」
「はい……騎士団での訓練後、温泉に入ったら疲れが取れて自主練に力が入ったんですよ……その後また温泉に浸かって……」
「あ〜なるほど……温泉で体力回復してまた鍛えようと思ったのね? でもなかなか回復しなくて長時間温泉に入った……って事かな?」
「その通りです!」アレスが驚いた様に私を見た
「……私も似た様な事したから……」ちょっと気まずくてヘラっと笑った
「サクラ様もですかっ?!」今度はダイアナが驚きの声を上げる
「サクラ様もって……ダイアナも経験済みだったのか?」アレスが呆れた様な声を出す
「えっ? いや……それは……」珍しくダイアナが狼狽えてる?
「あんなにアレクの事からかっといて自分も同じ事してたなんてな」アレスに呆れ顔で言われてしょげるダイアナ
「フフっ。ダイアナもアレクも思った通りの行動をしてくれて私も嬉しいわ。仲間よ仲間! ここの温泉は効果が目に見えて分かるから何度だって回復出来ると思っちゃうよね。うんうん」
「サクラ様は分かってて私に温泉を勧めて下さったのですか?」ダイアナが少しむくれ顔で言う……ふふっ可愛いなぁ
「う〜ん……ダイアナだったら何度も温泉に入って長時間の訓練をするかな〜とは思ったけど……温泉にはそこまでの効果はないから何度も温泉に入っても無駄だよ。なんて先に説明しても信じられなかったでしょう? 私も身をもって経験したから分かった事だしね」
「うっ……」黙り込むダイアナを見て
「ダイアナなら言われててもそんなはずない。サクラ様は私が無理をしない様にそう仰っただけだ。とか言って無理しそうだもんな〜」
「あ、アレス!」図星だった様で視線が彷徨った後にアレスをポカポカ叩いていた
「温泉って色んな効能があるんだけど、湯治って言って、ある程度の時間を掛けて身体を癒して行くものなの。1週間2週間、長い人は数ヶ月に渡って温泉で身体を整えて行くのよ。ここの温泉は即効性があるからちょっと勘違いしちゃうけどね」
「そうなのですか……」とダイアナとアレクが驚いた様に頷いた
うんうん。仙豆みたいな効果を期待しちゃダメなのよ……
「じゃあ、素材採取に行きますかっ!」私たちは草原にむかった
「サクラ様、今回も前と同じ様な感じで採取しますか?」アレスに尋ねられた
「えっとね……出来れば『魔力草』を探したいかな……珍しいらしいから大変かもだけど……あとは『洗浄用植物』も少し欲しいかな?」
「分かりました」「頑張りましょう!」2人が元気に返事をしてくれた
町を離れて草原に到着した。辺りを見渡して……
「ん〜あっちかな? ちょっと距離がありそうだから……天ちゃん、私たちを乗せて飛んで貰えるかな?」そう天ちゃんに声を掛ける
《分かった! みんな乗って》天ちゃんが大きな雲になる
「わ〜天ちゃん乗れるなんて〜」ダイアナがいそいそと天ちゃんに乗り込む
「アレスも天ちゃんに乗って」戸惑ってるアレスの背中を押して促す。そして私も乗り込み……
「よし、みんな乗ったね。天ちゃん、あっちの方向に向かってくれる?」と指を指す
「あちらに魔力草があるのですか?」ダイアナが不思議そうに聞いてくる
「ん〜なんて言うのかな……あっちの方に魔力草に似た魔力を感じるって言うか……そんな感じ?」
「魔力草の魔力ですか?!」アレスはダイアナに向かって「魔力とか感じた事あるか?」と聞いている。ダイアナは首を振って「魔力草も時々見つけるけど葉の形状とかで判断してるから魔力があるなんて考えた事なかったよ」
「俺もだよ。だけど言われて見れば魔力草って名前なんだから魔力があるんだよな……」
「そうそう。魔物だって魔力とかで気配を察知するでしょう? それと同じ感じだよ」
「魔物の魔力……と同じ?」ダイアナとアレスは顔を見合わせて何やら話していた。風にかき消されて私には聞こえなくなってしまって残念……
――つづく――




