# 62 商人サクラ その2
「少し遅くなりましたが昼食に致しましょう。サクラ様、ダイアナ、何を召し上がりたいですか?」シェリーが私たちに問いかけながらお茶の準備を始める
「ダイアナ、何が食べたい?」私の問いに何故か狼狽えながら「わ、私は何でも……」と声が小さくなって行く
「ん? シェリーは大抵の物は作れるよ?」小首を傾げながらダイアナにもう一度「何か食べたい物ない?」と聞いてみる
「わ、私は好き嫌いはありませんっ。何でも美味しく頂けますのでサクラ様と同じ物をお願い致しますっ」直立不動の姿勢でダイアナが宣言でもするかの様に答えた
「……分かった……何でも美味しく食べられるのは良い事だよね」と答えて何だか嬉しくなった
私はどうやら『馬鹿舌』らしい……
好き嫌いは多いけど、嫌いな物以外なら余程不味くなければ美味しと思えるのだ
昔友人に可哀想な人を見る様な視線を向けられて「倖せ者だね……」と言われた事がある。
友人達が「不味い」と言った料理を「そう? 食べられなくはないよ?」とパクパク食べた時の事だった……それ以来、私は『馬鹿舌』だと言われる様になった……
ついでに言うと『お子様舌』でもあるらしい……自覚はある……
まぁ別に食リポしたい訳でもグルメを気取りたい訳でもないから良いんだけどね……
そんな事を思い出してちょっと落ち込んだけど、
「じゃあ……オムライスが食べたい!」と明るくリクエストした
「畏まりました。こちら……紅茶をお入れしました……」と私の前にミルクティーの入ったマグカップ、ダイアナの前には、何だろう? ハーブティー? らしき物のティーカップが置かれた
天ちゃんも飛んできてオレンジジュースを飲んでいる
「これはっ!」ダイアナがティーカップから立ち上がる湯気……じゃなくて香り? を感じたのか声を上げた
「ダイアナはこちらが好みではないかと……」シェリーの穏やかな声に私は小首を傾げた
香りを楽しんでティーカップに口を付けるダイアナ……
目を閉じて味を確認していた様子だったが
「どのような配合をしているのですか?」と突然シェリーに迫る
「詳しく後ほど……お食事の準備をして参ります」とシェリーはキッチンへ移動した
「えっ?……あの……」いきなりのシャットアウト的な対応に呆気に取られるダイアナにクスッと笑いが零れた
「ユーラシアンの城下町にハーブティーを扱うお店があるでしょう? あそこで沢山買って帰ったんだよ。シェリーは必要ないって言ったんだけど、凄く興味深そうに見てたから……」
「必要ない?」
「うん。あの頃はまだこんな風にお料理とか出来なかったからね……でも、私はシェリーが飲み物のプロフェッショナルだって知ってたし、必要無くはないって思ったから強引に買おうとしたの。お店の人に「全種類下さい」って言ったらシェリーが慌てて必要な茶葉を選んでくれたんだよ」その時の事を思い出してフフっと笑った
「あぁ〜」とダイアナは思い出した様に頷いた
「あの時はシェリーとのそんなやり取りがあったのですね」
「ダイアナも茶葉選びに忙しそうだったし、シェリーに任せれば大丈夫みたいだったから私はシェリーの希望した茶葉を買ったの」
「……申し訳ございません……自分の事を優先してしまうなんて……有り得ない失態……」ダイアナが唇を噛み締める……えっ? なんで? 失態って……?
「そんな事ないよ! あの後、シェリーもダイアナも嬉しそうにしてたから良かったな〜って思ったんだから」
「……ありがとうございます」と俯くダイアナの耳が赤く見えたけど……気のせい?
「ん〜……シェリーの能力も特殊だから参考になるかは分からないけど、ハーブティーにも詳しいと思うよ。ゆっくり話す時間が取れると良いね」とダイアナに微笑んだ
ダイアナがハーブティーを飲み終えて「私も手伝います」とキッチンへ向かった
私はミルクティーを飲みながらのんびり待つ。キッチンから聞こえて来るシェリーとダイアナな声に心が満たされて行く様な気がした
昼食を終えて少しまったりしてから続きを始める
「みんなに協力してもらって出来た回復薬あれこれだよ」
『ポーション』『ハイポーション』『万能薬』に『エーテル』テーブルに並べる
「エーテルは魔力草から作った魔力が回復する回復薬なんだけど、魔力草があんまり採取出来ないから今の所は販売は難しいかな? って思ってるの」
ダイアナも頷く
「それからこっちは洗浄用の植物から作った『台所用洗剤』と『衣類用洗剤』汚れ落ちは抜群だよ〜。
仕上げに天ちゃんの『浄水雲』を使えば汚水も出ないから石鹸みたいに浄水設備もいらないし」
「洗剤……ですか?」
「うん。洗浄液にちょっとプラスして作ってみたの。洗浄液の上位って感じかな?」
ダイアナに使い方を説明する
さっき食べた昼食の後片付けを待っていてくれたシェリーに感謝だ。流石だねっ! 食後に洗剤を出す事を分かってくれてた。私なんて全く意識が無かったのに……
ちょっと凹んだけど、シェリーが居てくれて良かったなぁ〜とつくづくおもったのだった
「これも販売出来ないか要相談って事で!」
「台所用洗剤は飲食店を営む者にとっては有難いですね……」ダイアナがしみじみ? って感じで呟く
「汚れ落ちも凄くよいのですが、天ちゃんの浄水雲があればすすぎが不要って事ですもの……凄く助かると思います」
「うんうん。使って貰えると嬉しいなぁって思うよ」
「問題……って言うか……どれだけ需要があるか分からないけど、素材の確保なんだよね……」
「これらはやはりサクラ様でなければ作れませんか?」
「うん……調剤スキルもだけど、魔力がかなり必要だと思うの……そんなに沢山作れないし、採取にも時間が掛かるでしょう? 今、栽培出来ないかと思って育ててみてるんだけどね……」視線を窓辺に移す
「薬草を育てるなんて、流石はサクラ様ですね。今まで誰もそれに気付いた者などおりません」ダイアナにキラキラな瞳で見つめられた
「いや……私は……楽に採取出来たらって……不純な動機からだから……」
「薬草は生育が早いのですね。これならポーションは簡単に……いえ……すり潰す作業がありますね……やはり大量に作るのは難しいですか……」
「すり潰すのは『スリコギ』より便利な道具があるから楽にはなったよ。手作業で作るのと効果は変わらなかったからこれからはジューサー……道具に頼って作ろうと思ってるの」
「ジューサーとはどの様な道具なのですか?」
「うん。果物や野菜をすり潰してジュースが作れる道具なの。果汁100パーセントのジュースが作れるのよ。この道具で薬草をすり潰して絞るの。薬草のエキスって凄いよね、すり潰してもだけど普通の野菜より沢山とれるし」私は草原ですり潰して出来たエキスの事を思い出しながら嬉々と話した
「サクラ様、実際に見てもらいますか?」
シェリーがジューサーと果物を出してくれる
「そうだね。見た方が早いね」ダイアナとキッチンに移動してフルーツジュースを作って見せた
ダイアナはみるみる液体になって行く果物達の入ったジューサーを見て驚いていたが「こんな便利な道具があるのですね……これはどの様な仕組みになっているのでしょうか?」
「……ごめん……仕組みはよく分からないし……これはここ……この空間でしか使えない物だから……」私が申し訳なさそうにそう言うと
「仕組みを公開して同じ様な道具を作る事が出来たとしても必要とされる方がいらっしゃるでしょうか?」シェリーが疑問を投げかける
「確かに! 私たち平民は果物を液体化して飲もうとはあまり思わないですから……そのまま果肉を食べた方が満足感が得られますし、ジュースとして飲める果物もありますしね……この様に果物を贅沢に使うのは富裕層だけでしょうから……」
出たっ! また富裕層だ……
「まぁ、ジューサーは置いといて! あれこれ作るのは素材が入手出来れば可能だからさっ。時間は多少必要だし大量生産とは行かないけど販売出来たら良いなって思ってるの」
「分かりました。これらも一緒に見て貰いましょう。」
「素材採集もまた行きたいなって思ってるの。ダイアナ、次も協力して貰えるかな?」
「もちろんです!」即答してくれるダイアナに「ありがとう」とにっこりと笑顔を向けた
――つづく――




