#31 新たな国の誕生
精霊様と内緒話してた様な感じで何だが申し訳ない気持ちになった
でも皆さんは何も言わずに私を待ってくれていて、そして一緒にお社から出た
なんか……みんな凄いな……
私だったら何を話してたのか気になって聞かずとも顔に出そうな気がする……
そんな事を考えながら、私たちはみんなの元にに戻った
……ん〜結構な人数が席を外してたけど誰も何も言わない……
みんな楽しげに宴の真っ最中だった
気付いてなかったのかな?
「皆! 聞いてくれ!」クラーク殿の声が村に響く
なんて声量……びっくりしたぁ〜
クラーク・アルデルト・ハイド・ペターソンの4兄弟が並んで前に出る
村人達は神妙な面持ちで4人を見つめる
これは……みんな何かを予期してたの?
この村の主要人物がこぞって居なくなったから……
凄いな……みんな……
この村は既に国としてまとまってる……
私は感心しながら4兄弟と村人さん達を見守った
「先程、精霊様より神託を賜った」そうクラーク殿が言い村人を見渡す
「私、クラークがこの村を一国とし、『国王』となる」
一瞬の静寂の後、村人さん達の歓声が上がった
正に『歓びの声』だ
「クラーク様〜」
「クラーク国王〜」
口々に叫び抱き合い、喜びを分かち合う村人さん達……
クラーク殿が軽く手を上げると皆が再度彼に注目する
「ここに居るアルデルト・ハイド・ペターソンも共に国を繁栄へと導く覚悟だ」
そうクラーク殿が言うと再び村人さん達から歓声が上がる
3人は少し照れた様に手を上げた
そしてクラーク殿が続ける
「今夜はまず精霊様からの神託を皆に伝えた
今後に関しては追って伝達するものとする」
村人さん達をゆっくり見回し……
「皆で……この新しき国と共に生きて行こう」
クラーク殿の言葉に村人さん達が一斉に「おぉ〜」声を上げる
凄いな……正に一致団結だ
なんか感動して胸が熱くなる……
良かった……みんな、これからも仲良くね
そんな風にひとりしんみりしていると……
「サクラ様!」
クラーク殿が突然私の名を呼び
「こちらへ」と手を差し伸べた……
「えっ?!」戸惑う私に村人さん達の視線が注がれる……
ペターソン殿が私の側に来て……
クラーク殿の隣へ誘導された……
……そう……誘導されたのだ!
気付けばクラーク殿の近くへ来ていた
何故私が呼ばれるの?
私は来たくなかったのにぃ〜
そんな私の気持ちは全く察して貰えず、クラーク殿は私ににこやかに語りかける
「サクラ様……この村が新しい国となったのは貴女のお陰です……本当にありがとうございます」
クラーク殿がうやうやしく私の手を取り膝をついて頭を下げる
何っ?!このシチュエーションは〜
「いえっ、私は何も……」
私はしどろもどろになり言葉が見つからない……
「新しい国の名をサクラ様に決めて頂きたいと考えているが皆、どうだろう?」
意外な言葉に私は更に固まった……
えっ? 今なんて言った? 私の聞き間違い?
ちょっ、ちょっと待って! えっ?
村人さん達の更なる歓声や姿がスローモーションに見えた……
一体何が起きたのか……
私の思考は追いついて行かず、そのまま宴会の続きの輪に飲み込まれた
皆さんとてもご機嫌でなりよりなのですが……
私は事の成り行きに頭を抱えたい気持ちで一杯だった
☆☆☆☆☆☆
夜通し盛り上がるんじゃないかと思う様な盛り上がりの中、私はそっと宴会の場を離れた
「シェリー〜〜どうしよう〜
国の名前なんて私には荷が重すぎるよ〜」
「どうしてですか?
村の皆様はそれを心から望んでいるご様子でしたが」
「え〜……そうかな〜……
だって『国の名前』だよ?
世界中に知れ渡るんだよ?
そんなの普通、偉い人が……
そうだっ、精霊様にお願いすれば良いんだよ!
うん、そうだ! そう提案して来よう」
「サクラ様、お待ち下さい」
シェリーの凛とした声に私は止められる
「うっ……やっぱりダメ?」
「サクラ様……名前はとても大切なものです
授ける方にも想いがあり、受ける方も……
ワタクシはサクラ様に『シェリー』と言う名を頂きました。
ワタクシがどれほど嬉しかったか……
ワタクシには皆様の気持ちが分かる気がします
村の皆様がサクラ様に『名付け』を託されたのですよ……
他の誰でもない『サクラ様』にです……」
「……分かった、ちゃんと考えるよ……」
私は幼い頃に自分の名前の由来を両親に尋ねた時の事を思い出していた……
パパ……ママ……お兄ちゃん……
家族の笑顔を思い出す……
もう会えないんだよ……ね……
「シェリー、私温泉に浸かって来るね」
涙が零れ落ちそうになるのを堪えてシェリーに明るく告げた
お風呂セットを出して貰い、
天ちゃんと一緒に精霊の森の奥の温泉へと出掛けた
途中の『精霊様の祠』で精霊様とおしゃべり
「精霊様〜聞いて下さいよ!
私……この国の命名を命じられてしまいました……
大役過ぎてプレッシャーです……」
精霊様に愚痴をこぼす
《ふぉっふぉっふぉっ、
良き名前を考えてやるが良いぞ〜》
精霊様は楽しそうに笑った……
もう〜他人事だと思って~
ふんっだ……ちょっとむくれる……
《サクラ、温泉の周りに囲いを作ったぞ
行って見るが良い》
「囲いですか?!ありがとうございます!
嬉しいです!
落ち着いたら村の方に脱衣所作って貰いたいなって思ってたんです
精霊様、ありがとうございます! 行って来ます!」
私は駆け出した
《転ぶでないぞぉ〜》精霊様の声に手を上げて応えた
露天風呂に到着すると、周りが煉瓦の様な壁に囲まれていた
不思議と森と調和していて、そこにあるのが当たり前の……ずっとそこにあったかの様な佇まいだ
「何処から入るんだろうね? 天ちゃん。
入口は何処だろう?」
天ちゃんに話しかけながら、そっと壁に触れてみた
すると、そこにあった壁が消滅した……
ちょうどドア1枚分の大きさの入口が出来た感じだ
「凄っ……」思わず声が出た
恐る恐る足を踏み入れると……
えっ? 電気が付いた?!
いや違う……囲いの中には日中の様な陽射しが差し込んでいた
この中は森の中の昼間の明るさだ
暖かな陽射しと爽やかなそよ風が吹いている
外から見ると壁に囲まれているのに、
中から見ると壁など無く、外の景色が見える
これが精霊様のお力……
凄すぎて呆然としてしまった
とっても不思議な感じなんだけど、外からは見えてないんだよね?
こっちからは夜の森の風景が広がってるけど……
身体を洗って温泉に浸かる
天ちゃんもぷかぷかと気持ち良さそうに浮かんでいる
あ〜やっぱりお風呂は良いな〜
思いっきり手足を伸ばして
「気持ち良いね〜天ちゃん」と天ちゃんを撫でた
《 気持ち良いね〜サクラさま》と言って天ちゃんは露天風呂をスイスイと泳ぐ様に移動した
「そうだ天ちゃん、お願いがあるんだけど」
天ちゃんを呼ぶと
《サクラさま、なぁに?》と水面を滑る様に天ちゃんが戻って来た
「天ちゃん、さっきお社で集まってた人達の事覚えてる?」
《うん、いっぱいいたね》
「そう、あの人達をお隣の国まで天ちゃんに運んで欲しいんだけどお願い出来るかな?」
《うん良いよ〜、ボク出来るよ》
「ありがとう! 天ちゃん」天ちゃんを抱きしめる
「それでね、いつも私達が乗せてもらってるのとは違って……ん〜、天ちゃんの中にね……」
《サクラさま〜ボクに触って考えてみて。サクラさまの考え、ボク分かると思うよ》
「そうなの? 凄いね天ちゃん、……じゃぁ」
天ちゃんに手のひらを当て、まずは飛行船を頭に描く、そして内部……ソファーを端からぐるっと並べて、そこに人を……私が座ってるイメージ。
そして私の前には神官殿に立ってもらう
神官殿の頭上にもスペースがある
これで中の広さのイメージ分かるかな?
「どうかな? 天ちゃん、分かる?」
天ちゃんに尋ねると
《うん、ちょっと待ってね……》
と、天ちゃんの体が波打ち出した
しばらくモコモコ動いて……
ポンッって感じでミニチュアの飛行船が天ちゃんから分離した
《これを大きくしたので良い?》
天ちゃんが小首を傾げる様な仕草で聞く
……うっ……可愛い〜〜
いや、今は飛行船のミニチュアだ
しげしげと眺める……
私のイメージした通りの飛行船だった
「凄い凄いっ! 凄いよ天ちゃん!
完璧だよ! 私がイメージした通り! ありがとう〜」
私は天ちゃんを思いっきり抱きしめた
あれっ……なんかちょっとクラクラする……
やばい……温泉に浸かりすぎた……
のぼせたかも〜急いで出て涼まないと!!
「天ちゃん! 出よう!」
私はゆっくり露天風呂から上がった
お風呂上がりのドリンクは、ちょっとのぼせたのでスポーツドリンクにした
天ちゃんにはコーヒー牛乳……
紙パックのカフェオーレにストローを差して出した
何気に私はこのコーヒーが好きだったりする
ミルクたっぷり感が良いのよね〜
天ちゃんは上手にストローを咥えて? カフェオーレを飲んでくれた
帰りに精霊様の所へ寄ってお礼を述べた
「精霊様! ありがとうございます!
もうびっくりで感動・感激です!!
サイコーの癒しの場所です」
中の様子から、中から見た森の景色……
とっても素敵だった事を話した
《気に入った様じゃのぉ〜
あの温泉はサクラ専用にすると良かろう
もうひとつの温泉を広げて間に仕切りを作った
村の者はそこを使うが良い
サクラから皆に伝えてくれんかのぉ》
「精霊様……みんなの為に……嬉しいです〜〜
精霊様……ホントにありがとうございます」
私は深々と頭を下げて精霊の森から村へ戻った
部屋へ戻ると、神官殿が来ていた
「こんばんはペターソンさん、すみません、お待たせしましたよね……」
「いえいえお気になさらず……
私が一方的に参ったのですから。」
お互いに頭を下げあってしどろもどろになる……
改めて……
「サクラ様、夜分に失礼致します……
ご報告がございます」
「はい、何でしょう?」神官殿の言葉にシャキッとする
「2日後の朝、隣国ユーラシアン王国へ向かう事となりました」
「2日後?!明後日ですか?!」
「はい、隣国との間に、安定した友好的な関係を築いて行く為にまずは動く事になりました」
そう言う神官殿はやる気に満ちていて頼もしく見えた
「分かりました、『善は急げ』ですね」
その後、天ちゃんの飛行能力を使えば隣国へ早く着く事が出来ると説明して、皆さんの了承を得たいと話した
神官殿は「ありがとうございます……皆に伝えます」と深々とお辞儀をして、いつまでも頭を上げてくれないのでちょっと困ったんだけどね……
「シェリー天ちゃん、相談があるの」
明日は忙しくなりそうだ!
――つづく――




