17 ペタの村への帰還
村への帰り道は魔物もおらず、すんなりと村へ辿り着いた
気配を察したのか、村人達が森入口で出迎えてくれた
神官殿がアレスの抱える祠の前に跪いた
どうやら神官殿には精霊様が見えているらしい
……そりゃそうか……精霊様の一大事も、私がこの村に来る事も精霊様からのお告げだって言ってたもんね……
はっ、思い出した!!
私をこの世界に召喚? 転移? させたのは精霊様なのかと尋ねようと思っていたのだ
精霊の森へ行く事を決めた理由のひとつにそれがあったのだ
すっかり忘れていた……
後で尋ねてみよう……
《危機は去った……しばらく村で休ませてもらう……》と精霊様が神官殿に言った
神官殿が精霊様のご無事と、精霊の森の危機回避を告げ村人から歓声が上がった
村人達は抱き合い喜び合った
涙を流して祈りを捧げている人も居る
精霊様はそんな村人に目を細め優しい眼差しを向けていた
精霊様は祠と共にしばらく村に滞在するそうだ
村には精霊様を信仰する村人が居るし、ここの村人には代々受け継がれている他の人間とは違う強いオーラ、エネルギーの様なものがあるらしい
それが精霊様の力を強くするのだそうだ
今の祠は古くなり新しい祠の準備はされているが、まだそのエネルギーが十分ではないらしい
精霊様も少し疲弊されている事もあり、森に居るより村に居た方が効率が良いのだそうだ
祠と精霊様の充電? って事なのかな?
「サクラ様〜精霊様大丈夫? 」
小さな女の子が私を見上げて言った
「うん、大丈夫だよ、少〜しお疲れみたいだけど、みんなが居るから……」
そうだっ、そうだよ、みんないるじゃん!
『良い事思いついた〜』って感じで私は決意する
「みんな、ちょっと聞いてくれるかな? 」
村人たちの視線が集まる……
う〜っこういうのは柄じゃないし、
苦手なんだけどな……
村人達の視線を浴びて怯みそうになる気持ちを奮い立たせる
え〜い、ままよっ!
「みんな……精霊様はみんなをこの村を……
この世界を護って下さってる……
みんなは……精霊様に返せてるかな? 」
ハッとした表情を浮かべる者、
戸惑いの表情を浮かべる者……
様々な気持ちが見えた……
「この村が代々、精霊の森を守って来たって事は聞いたよ
でも……それって義務や仕事みたいに思ってないかな?
私は……『精霊の森を守る』ってもっとシンプル……単純な事なんじゃないかと思うの
精霊様の護り……加護に感謝して、これからも平和な日々が続く様に祈る事……その気持ちが大切なんじゃないかな? 」
少し屈んで子供たちに話し掛ける
「みんな、精霊様の事好き?」
「うん、好き〜」
「大好き〜」と口々に子供たちが答える
「精霊様も、みんなの事が大好きで護ってくださってるんだよ
だから、精霊様に『大好き』って気持ちを伝えよう?!」
「朝起きたら、今日も一日元気で過ごせる様にお守り下さいってお祈りして、寝る前には今日も一日お守りくだりありがとうございましたってお礼を言うの
みんなが毎日楽しく過ごせてるって分かったら精霊様もきっと喜んで下さると思うよ?!」
子供たちの目がキラキラ輝いている
「うん、分かった! 」
「精霊様に大好きって言う」
「ありがとうって言う〜」
子供たちが口々に言った
精霊様の祠の輝きが心無しか増した気がした……
私は視線を村人達に戻し続けた
「この村の皆さんは、精霊様への感謝の気持ちや祈りをダイレクト……じゃなくて、精霊様に直接想いを伝える事が出来るのだと思います
そして、その気持ちをこの村だけじゃなく、世界中の人達と共有する事が出来るんじゃないかとも思っています
皆さん、この世界に住む人々にも伝わる様に祈って下さい
毎日が穏やかで平和な日々が続くのは決して自分達の力だけではない事を……
精霊様の護りがある事を……
感謝の気持ちを忘れてはいけない事を……
そして、この世界に住まう全てのものたちが共に在る事を……
どうかお願いします、それが精霊様の更なる力に変わるのだと私は思います」
…
私は村人達に向かって頭を下げた
「サクラ様、お止め下さい、頭を上げて下さい」
神官殿が我に返った様に私のそばに来た
「サクラ様……」
「サクラ様〜」
「ありがとうございます」
村人達が何故か私の名前を呼ぶ……
いやいや、私じゃなくて精霊様に……
そして、村人の想いが重なりひとつになったかのような空気に包まれた
……これがこの村のエネルギー?
そして、村から光が四方八方に飛んだ気がした……
と、同時に精霊様の祠が眩い光に包まれた
唖然としている村人達の反応からするとみんなにも見えているのかな?
精霊様を包む球体が高く浮かんで……
《みなの想い……確かに受け取った……》
と、精霊様の声が頭の中に響いた
精霊様……なんかちょっと嬉しそうかな?
なんて思いながら村の人達を見ると、
皆ひれ伏していた……
えっ? え〜〜っ?!
そんな反応なの……
なんだか1人立ってる私って……
「サクラ様……ありがとうございます」
神官殿が詰め寄って来て私の手を取った
……だから近いって〜
「今、私は心が洗われた様な気持ちです
精霊様の森を守る……
そればかりを考えて、どうすれば良いのか本質を見失っていました
ありがとうございます」
確かに吹っ切れた様な清々しい顔をしていた
……何かのきっかけになったのなら良かった……です……
そもそも、私には信仰心ってものがないから祈りとか偉そうな事言う資格はないと思うので……
曖昧に微笑みを浮かべて誤魔化した……
でもまぁ、明日も今日と同じ1日が来て、この幸せがずっと続くって思っちゃダメだよね
当たり前に思う事も、本当は当たり前じゃなくって、きっと奇跡の積み重ねで毎日過ごせているんだって事を心の片隅に……感謝しないといけないと思う……
……誰に感謝するのか……って言われると良く分からないけど……
そんなこんなで、とりあえず落ち着きました
今夜は村総出でお祝いの宴だそうです
夕暮れ時になり、キャンプファイヤーの様の大きな焚き火を囲んで、それぞれが持ち寄った食事を食べながら夜遅くまでお祝いをした
森で倒した魔物の肉等も村人達に献上した
受け取る訳にはいかないと抵抗されたので、
「この村にいる間の宿代として受け取って下さい」言ったら猛反発を受け……
「サクラ様から宿代なんて!」と叱られた……
ならば食事の足し……私は料理が苦手なので作ってくれると嬉しいから食材の足しにしてくれないかとお願いし押し付けた
私が持ってても料理出来る訳でもないから役に立てて欲しいしね
そんな押し問答をしている時に、ブラザーズに私が出した食事の事を暴露された
この世界にはない食べ物を出しても良い物なのか悩みもしたが、ここでは私は『精霊様の御使い』だし、なんでもありかな〜と開き直った
ハンバーガーが美味かったと言うブラザーズのリクエストで器にてんこ盛りのハンバーガーを出す事にした
子供たちにも大好評で、お母様達はハンバーガーを分解して何で出来ているのか検討している様子だった
私を質問責めにして来たのでシェリーに助けを求めた……
作り方なんて私には分かりませんから……ぐすん……
ともあれ、似た味を再現出来ると良いな……
数人ずつのグループに別れたり、眠たくなった子供たちを家に連れ帰ったりと、宴の盛り上がりも少し落ち着いて来た頃……
突然悲鳴が上がった
「アレス!!」アレクの叫ぶ声が響いた
慌ててアレスに駆け寄ると苦しそうに喘いでいた
……これはっ! ……
アレスは闇魔法の黒いモヤに包まれてしまいそうになっていた
どうして闇魔法がっ!
アレスにまとわりついている黒いモヤを光魔法で引き剥がす……
「アレス、大丈夫?!何処か身体に異変は?!」
「サクラ様……だ、大丈夫です」
少し呼吸が落ち着きアレスが答える
「良かった……気分はどう? 何処か具合の悪い所はない? 」
「……最悪です……」そう呟きながらアレスは身体を起こした
「アレス、まだ横になっていた方が……痛むの? どこが痛い? 気持ち悪い? 」
オロオロしながら、光魔法でなんとかなるのだろうか? と考える
「サクラ様……違うのです……
俺は……最低の人間です……何故こんな気持ちに……」
涙を流すアレスの手から何かがこぼれ落ちた……
あれはっ……
私の視線に気付きアレクがそれを拾おうとする
「触っちゃダメ!!」
アレクの手を掴み、それ……黒い魔石を拾い上げるのを止めた
「その魔石……闇魔法の気配がある……
触らないで……」アレクに告げる
「アレス……これ、どうしたの? 」
尋ねた私にアレクの方が答えた
「その魔石は最後に倒したタランチュラが落とした物だと思います……
ふたつの魔石があの場所にあって回収しました
お渡しするのを忘れていました……申し訳ございません」とアレクが頭を下げ、アレスも慌てた様に頭を下げた
「申し訳ございませんサクラ様……私が預かったままで……」
なるほど……
魔物達が闇魔法に操られたのはこの闇魔法の魔石の影響……なのかな……
ん〜良く分からないな……
「あの、聞いても良い?
魔石って魔力を感じる石だとは思ってたけど、この魔石みたいに属性……が付随してる物もあるの?
それともこれは魔石とは別物なのかな? 」
誰も答えてくれない……って言うか分からないって事かな?
「属性を持つ魔石も存在します
闇魔法はその魔法自体が希少魔法なので……
その属性を持つ魔石という物も珍しいのではないかと……」
いつの間にか来ていた神官殿が答えをくれた
「危険な代物ですね……どういたしましょうか? 」
神官殿が呟く様に言いながら私を見る
少し考えて「私に預けて頂いても宜しいですか? 」と黒い魔石を手に取った
「アレス……大丈夫よ……
闇魔法は……この石は攻撃的な気持ちや負の感情……弱い気持ちに作用してしまうのかもしれない……
そして、完璧な人なんて居ないから……
アレスが気に病むことなんて少しもないんだからね」
まだ頭を垂れているアレスの肩に手を置きポンポンと叩いた
「でもっ……俺は……」唇を噛み締めているアレス
「アレス? 貴方がどんな思いに囚われたのか分からない、でも貴方はそれを良しとしなかったのでしょう? だからそんな顔をしている……
それでもう、十分だよ? 」
アレスが顔を上げて私を真っ直ぐに見た
「うん、大丈夫だよ、アレスは大丈夫…… 」
そっとアレスの肩を抱き寄せ背中をポンポンと叩いた……
――【精霊(土)の森 奪還編】~完~ ――




