16 精霊様の祠
朝食を終え、テントや食事に使った食器をシェリーにアイテムボックスへ片付けてもらった
……何気にゴミが溜まって行くのは気になるんだけど……
どうすれば良いのか分からないので、とりあえずアイテムボックスに入れている
そのうち落ち着いたら相談しよう……
シェリーなら何か良いアイデアあるかもだし
片付けを終えて私達は森の奥へと進んだ
精霊様の祠が近いからなのか、昨日よりランクの高い魔物が増えた気がする……
ウルフ系も大き目だし、ベアも少し大きめのビックベアとか更に大きなヒグマ? グリズリーって言う更に凶暴な熊まで出た
それに……う〜やっぱり虫系は嫌だぁ〜
『虫イコール火に弱い』っていうイメージと言うか固定観念があるせいでつい火魔法を使ってしまう
森で火なんて火事になったら大変なので『ファイヤーボール』の連打あたりで留めてはいるんだけど……
『風魔法』を使う様に頑張ってはいるんだけど……ははっ……
『ウインドカッター』的な魔法はなんか残虐??痛々しい感じがするのは個人的な見解ですかね?
火魔法の丸焦げの方が酷いって思う人もいるかな〜
私は個人的にはやっぱり血を見たくないのかもしれない……
血液にも色んな色があって緑と黄色とか……
う〜気持ち悪い〜〜
だから焼き尽くして灰しか残らない状態が精神的に楽……
なんて思う私は残忍なのだろうか……
そんな事を思いつつ魔物を倒しながら、森の中を進んだ
そして少し開けた場所へ出た
「あそこが精霊様の祠の場所です」
と、アレスが指差す
なるほど……御神木的な大きな木がそびえている
「着いたね、急ごう」駆け出そうとした瞬間、異様な気配を感じた……
来るっ……これまでとは明らかに気配が違う……
私たちは戦闘体勢を取った
地面が黒く変色しながら迫って来る??
いや、あれは……大量の蜘蛛?!
地面を埋め尽くす数が迫って来た
そしてあの丸めのフォルムは……タランチュラ?!
更にその後ろ……最後方には巨大な……
ホントにびっくりする位巨大なタランチュラが居た……
「い、いやぁ〜〜〜!!!!」
私は叫びながら火魔法を連射した…………
大量のタランチュラと巨大なタランチュラが白いモヤに包まれ……
直後に大量の火炎がタランチュラの群れを襲った……と思う……
背中に柔らかな感覚があった……
「てん……ちゃん……」私は意識を手放した……
「サクラ様!!」
ごめんシェリー……またやっちゃった……
私は程なく意識を取り戻した
多少の頭痛があるものの割と元気だった
????あれっ?!さっきの魔法、
ヤバかった気がしたんだけど……
でも……魔法を発動する直前、
なんだか暖かいものに包まれた様な……
あの感じは……?
ガバッと起き上がり頭を押さえる……
「っ、いったぁ〜」ちょっとクラっとした
「サクラ様! 大丈夫ですか?」
「サクラ様! 気付かれたのですね!」
「サクラ様! 良かった! 」
シェリー・アレス・アレクが一斉に叫ぶ……
「ごめん……ありがとう……大丈夫……」
身体を起こして私は固まった……
「も、森が……」
この先には木の生い茂った森のはずだった……
その森が……ない……
いや違う……分かってる……これは私のせいだ……
さっきの私の火魔法……名付けて『ファイヤーガトリング』のせいで森の木が焼き尽くされていた
《お主も無茶をするのぉ〜》
不意に頭の中で声がした
えっ? なにっ? 誰?
慌てて頭の中に響いた声の主を探す……
アレスが抱える『精霊様の祠』が緑色に輝き……光るって感じではなく、『神々しい』って色合いで輝いていた
その祠の中から同じく緑色に輝く球体が現れ、
中には人……? よ、妖精? が居た……
《儂の名はノーム、土の精霊じゃ》
土の精霊??……妖精の姿がみるみる髭の長いお爺さんに変わった……
慌てて目を擦る……妖精の姿は消え、小さなお爺様……
《フォッフォッフォ、名を聞いて姿が変化したかのぉ〜》お爺様が楽しそうに笑う
《儂ら精霊の姿はあって無き様なものじゃ、見る者によって変わる》
……えっ、そうなの??
確かに……今まで『精霊様』って妖精の偉い人?!ってイメージだった
でも『土の精霊ノーム』は小人で老人のイメージが……だからなの?
いやいや、イメージで変化するなら妖精の姿の方が可愛い……なんて言ったらバチが当たる??
せ、精霊様だものね……
それにこの喋り方……一人称が『儂』って所でお爺様……
う〜イメージを変えようとしたけどもう無理!!イメージが固まってしまった……
《お主、面白いのぉ〜》
精霊様が楽しそうに言う
「うっ、す、すみませんっ、」慌てて頭を下げる
「先程は助けて下さりありがとうございました」
《……ほぉ〜気付いておったのか……》
「はい、魔法を発動する直前に暖かい光に身体が包まれた感じがしました
あれは精霊様のお力ですよね?
ありがとうございます」
《……うむ、大きな魔力を感じたからのぉ〜、護りを授けた》
やっぱり……だからあんな魔法使ったのに元気なんだ
「ありがとうございました」と改めて精霊様に感謝する
「サクラ様? どなたとお話されているのですか? 」シェリーが訝しげに尋ねた
えっ??「誰って……精霊様……
え〜っ、うそ、みんなには聞こえないの?!」
「さ、サクラ様、精霊様がいらっしゃるのですか?!」アレクが言い
「ご無事なのですね?!」とアレスが続ける
「うん……」
私は精霊様に「精霊様、申し訳ございません、私自分の事ばかりで……精霊様のご無事を確認もせず……」
《よい、よい、気にするでない、お主には元気そうな儂の姿が見えておるのじゃから》
元気そうな……って事はやっぱり……
「精霊様!!ご加減が?!」と言ったつもりだっが音がかき消された
《大丈夫じゃ、他の者が動揺するじゃろう……》
《それに、もう大丈夫じゃ、力も戻って来た
そうみなに伝えるが良い》
「はい……」
私は不安そうな顔をしているブラザーズとシェリー、天ちゃんに
「精霊様はご無事よ、お力も戻って来てらっしゃるって」とにこやかに告げた
ホッと安堵の表情を浮かべるブラザーズ達
良かった……精霊様もみんなも無事で……
「とりあえず村に戻りましょうか? 」
私は自分が消滅させてしまった森の一部に視線を投げながらそう言った
村へ帰る道筋に精霊様はポツリポツリと話をされた
『祠』が古くなり護りの力の伝わりが悪くなっていた所に闇魔法に襲われたのだそうだ
太古の昔、人と精霊・妖精は共存していた
精霊・妖精は人を助け、人も精霊・妖精に感謝し次第に森も人の生活豊かになって行った
しかし、人は自分達とは違う、精霊等の異なる種族の力に恐怖を抱く様になって行った
精霊・妖精は森を追われ、護りを無くした人の暮らしは徐々に衰退して行った
精霊達は他の地に移り住み森を作った
しかし人との関わりを絶った為か、以前の様な大きな力を使う事が難しくなって行った
そして、森の護りを無くした人間は、
このまま滅んで行くのかと思われた……
だがそんな中、精霊や妖精の姿・声を感じる事が出来る人間が以前の生活を思い出した……
いや、正確には精霊達と共に暮らしていた先祖の声を聞いたのだ
人は精霊達に祈りを捧げ、過去の過ちを悔い懺悔し、赦しを乞うた
精霊は揺れた……
そしてもう一度人を信じてみたいと思う精霊が人に護りを授けても良いと思った
だが、全ての精霊が人を赦した訳ではなく、人との距離を保つ事を条件に人と共にある事を認めたのだ
精霊の姿や声を感じる事が出来るのはホンのひと握りの人に限られた
そして、精霊の力を信じ、祈りを捧げる事で精霊の力……『護り』を与える様になったのだそうだ
それからまた遥かな時間が過ぎ……
人々は今の生活に慣れ過ぎたのか『精霊』の存在を忘れつつあるのだ
そう話される精霊様の声はどこか寂しそうな響きだった
――つづく――




