# 106 『鍛錬の森』よさらば!
「今日はこっちで戦うね」私は剣を出してセバスチャンに宣言する
「はい。連携攻撃を主に鍛錬致しましょう。私が合わせますのでお嬢様はご自由に動いて下さい」
「ありがとう、セバスチャン。足引っ張らない様に頑張るっ!」
そして私たちは直接攻撃をメインに鍛錬を続けた
「ふぅ〜。なんか思ったより身体が軽いって言うか……なんか動ける気がするだけど……気のせい?」
「いえ、気のせいではございません。私が合わせるまでもなくお嬢様の動きは完璧でございました」セバスチャンが頬を上気させて微笑む。なんか目力が……
「セバスチャンってテンションが上がると言葉遣いが丁寧になるよね。普通逆で乱雑になりそうなんだけど……」もしかしてそっちがセバスチャンの素なのかな?
「そう……でございましょうか……」
「ほらっ、また畏まってる」
「あっ……申し訳……」ちょっと困った表情なセバスチャンもなんだか可愛い
「いいのよ? セバスチャンの話しやすい話し方で」
「私は……精霊としての潜在能力が高く生まれました。その為回りは大人ばかりで……言葉遣いも自然にこの様になったのです。森の精霊や妖精達も私には敬意を払ってくれます。同世代が居なかったと言うか……対等に接してくれる精霊は居なかったのです。今はお嬢様方と一緒に居られて仲間として接して貰えて……私は……本当に嬉しいのです」
「そっか……他の精霊さん達にも慕われてるセバスチャンはとっても素敵よ。これまでなかった仲間との切磋琢磨とかワイワイ楽しんだりとか。これから一緒に経験して行けるね。私もみんなに会えて……ホントに幸せだと思ってる。これからもよろしくね」
「こちらこそ……どうぞ宜しくお願い致します」セバスチャンが嬉しそうに目を細める。ふふっ
「よしっ! もうひと頑張りしてみる?」
「はいっ。お供致します」
「いい感じにこなれて来たね。そろそろ終わりにしても良いかな……っ! なに?! 」なにか来る……この感じ……これまでの魔物の気配と違う
セバスチャンも私が視線を移した方向を見つめている
「なんか来るね……これまでとは違う」
「はい。お嬢様は私の後ろへ」
「ありがと。でも大丈夫だよ。一緒に戦おう?」
「……了解しました」セバスチャンが私の隣で剣を構える
「うっ……うえ〜何あれ?!」ギカントなんちゃら? なんかそんな感じのでっかい魔物がドシドシと近づいて来た
「セバスチャン……逃げるよ?!」
「はい。あれは……ヤバいですね……」
言葉とは裏腹に余裕の笑みを浮かべるセバスチャン。うん、多分私たちなら勝てる。でも……ここのルール的にはこれは『退却』が正解
「ちょっと足止め的に目くらましでも掛けとこうか」近づいて来る魔物に杖を構える
「そうですね。早々に退却しましょう。お願いします」
「うん。行くよ? フラッシュ!」魔物が閃光に包まれる
「今のうちに!」私とセバスチャンは魔物に背を向けて走り出した
あっという間に引き離すつもりだったのに、魔物は目を閉じたまま私たちを追って来た
「え〜っ?!なんで? 見えてないよね? 目つぶってるのにどうして真っ直ぐ走れるの?」
「音や匂いや気配……そう言った物を感知出来るのでしょうか? スピードはそれほどでもありませんから我々なら振り切れるかと」
セバスチャンの言葉に頷ぎ前方に視線を向ける……
「あれっ! 天ちゃん!」みんなあそこに居るの?
「天ちゃん! シェリーとレイを乗せて休息の間に入って!」瞬間私は叫んでいた
《はーい。分かったよ》いつも通りののんびりした返事だけど動きは素早かった。シェリーとレイを瞬時に背中に乗せて走り出す
「ちょっと天! 今のサクラの声?」レイの慌てた声が聞こえる。3人はこれで心配ないかな
「セバスチャン、足止めするよ。電気ショック、金縛り」魔物は感電した様に動きが止まる。既に魔物の後方に回り込んでいたセバスチャンが魔物の足を切り付ける。あそこは『腱』とかそんな箇所? う〜痛そう……
魔物が顔を顰めて膝を着く。唸り声と共に
「今のうちに我々も休息の間に向かいましょう」
魔物を置き去りにして私たちは休息の間へ入った
「天ちゃん、ありがとう」休息の間で天ちゃんを抱き締める
《うん。ボクちゃんと出来た?》
「完璧だよ。天ちゃん。シェリーとレイを連れて逃げてくれたから私とセバスチャンは魔物に集中出来たよ。ありがとう」
「さっきの魔物はなに? やけに大きかったみたいだけど?」レイはちょっと不服そうな声色だ
「ワタクシ達からはかなり離れていましたがそれでも大きな魔物である事は確認出来ました」シェリーは少し青ざめてる
「うん。なんて名前の魔物かは分かんないけど『退却案件』の魔物だったと思う。足止めして逃げて来た」
「あの魔物はかなりの硬さがありました。防御力の高い魔物だと思われます。戦うと持久戦になる可能性が高いです。まぁ……我々の敵ではありませんが」セバスチャンがドヤ顔で説明する
「あんなのに出会って逃げないで戦いを挑む人っているのかなぁ。見た目勝てそうな気がしなくない?」
「そうでございますね……ワタクシは足がすくんで動けなくなりそうです」シェリーが呟く様に発する
「これは推測になりますが……」セバスチャンが少し考えて話し出す
「あの魔物は攻撃力は高くはないのではないでしょうか……アレと退治して逃げられずに攻撃を受ける……即死級かと思った割に受け止められてしまった……いけるかもしれない……そんな思いが脳裏を過ぎる……ですがアレは防御力は相当に高い……何度攻撃しても大してダメージを与えられない……そこで退却すれば問題ないのですが……あれほどの大物を前に欲が出る……倒したい。と……」
「そして長期戦になり自滅する……」レイが呟く
「ええ。こちらの体力が尽きる方が先でしょうから」
「なるほどね〜。撤退の見極め? そんな感じなのかな?」
「よく出来てるわね」レイはなんだか不機嫌?
「うん。アレが見た目通りの攻撃力を持ってたら一撃で終わりだよね……でも攻撃力はそうでも無いからたとえフリーズしても持ち直して逃げる事が出来る。スピードも全力で逃げれば追いつかれないよね多分。あれ?……って事はアレはここ『鍛錬の森』のオリジナル魔物なのかな? 対峙した時にあんまり強く感じなかったのよね……攻撃力が低いせいだったのかな? 普通そんな魔物はいないよね?」
「どうでしょうか……見た目で威嚇する魔物もいるので……」シェリーが考え込む
「そうですね。魔物にも色々なタイプがござ……ありますから。ただアレはここ限定の魔物ではないかと。これまで見た魔物とは気配も違いましたから」
「ノーム様のオリジナルって事ね。ふふっ」
ここまでの鍛錬成果を報告し合いながら私達は休息を取った
「どうする? 『逃げる』も体験できたし、それぞれ得るものもあった。そろそろ鍛錬も終了にする?」私の言葉に全員頷く
「レベルも十分上がりましたし戦いにも慣れました……完璧ではございませんが……」
「これからは実践……野生の魔物やダンジョンでの経験になりますね」シェリーとセバスチャンの言葉に頷く
「よっしっ。じゃあ明日から旅の始まりね。今日はここでゆっくりして明日に備えましょう」新たな旅立ちにワクワクする
――つづく――




