#10 ペタの村へ
ソワソワ・ワクワク・ドキドキ……
「天ちゃん、これからペタの村へ向かうんだけど、天ちゃんに乗せてもらっても良いかな?」
断られはしないだろうけど、ちょっとドキドキする
天ちゃんは私が乗り込み易い高さに高度を下げてくれた
くぅ〜っ、やっぱり天ちゃんは賢いっ!
嬉しいよ〜
そんな事を思い悶えていると
「まだかな? 」って雰囲気が天ちゃんから伝わってきた
なんだろう? 理屈抜きで何となく天ちゃんの気持ちが分かる
ちょっと待たせちゃったけど、そろりそろりと天ちゃんに乗り込む……
うわぁ〜ふわふわだぁ〜
程よく沈んで身体が天ちゃんにフィットしてる感じがする……
「じゃ!ペタの村に向かって出発進行!」
ビュン!
……風が……痛い……
い、息が……じゅ、重力が……
まっ、待って天ちゃん、速い、速すぎる……
……でも……声が出せない……
シェリーが「天ちゃんストップ! ストップ! 止まって! 」と声を掛けてくれる
ピタっ……天ちゃんが止まってくれる……
天ちゃんからずり落ちる様に地面に座り込んだ
「サクラ様っ!!大丈夫ですか?!」
「だ、大丈夫……」
なんとか生きてる……
し、死ぬかと思った……
いきなりトップスピード?
……いやきっとこれでも手加減してんだろうな……
身体と気持ちを落ち着けるまで少し時間を有した……
気を取り直して、再度天ちゃんに乗り込む
「天ちゃん?
そんなに急がなくて良いからね?
ゆ〜〜〜っくり動き出してみようか?」
天ちゃんがゆっくりと少しずつ進む……
「そうそう、そんな感じ、良いよ〜
少〜しづつスピード上げて行こうか?
少〜しずつだからね?」
歩くスピードから駆け足のスピードへ
そして自転車くらいのスピードまで上げる事が出来た
頬を撫でる風が気持ち良い……
「天ちゃん、これ位のスピードでずっと飛べる?」
こくんと頷く様に雲の先頭部分、天ちゃんの頭? が動く
良かった……もうあんなスピードは懲り懲りだ……
「そうだっ、ねぇ天ちゃん?
シェリーも天ちゃんに乗せてあげたいんだけど
シェリーの事、上手に掴めるかな?
お外が見える様にそっと……優しくね?」
シェリーの入っているケータイを出すとスタンドの様に伸びた雲にシェリーが固定される
「ありがとう天ちゃん、凄く良い感じだよ
シェリーもこれで状況把握しやすいかな?」
「はい、ありがとうございます、サクラ様……」
「……ありがとう天ちゃん、ワタクシも乗せてくれて」
天ちゃんの想像以上の能力にびっくりし過ぎた私とシェリーはしばらく口数が少なくなった
「天ちゃん? 疲れてない?
そろそろ休憩しようか?
お日様も大分傾いて来たから今日はここまでね?」
天ちゃんから降りて「う〜ん」と伸びをする……
「ありがとう、天ちゃん、頑張ったね」
と天ちゃんの頭らしき部分を撫でる
嬉しそうに頭を掌に擦り付けて来る仕草はホントわんこやにゃんこの様で可愛い
癒される〜
「シェリー、今日ここで……」
野宿しようか? って言おうとしたら、
既にテントが設置されていた……
野営3日目にして自主的にテントの用意をしてくれる
……凄いなシェリー……
呆然とした後に「ありがとうシェリー準備してくれて、助かるよ」と声を掛けた
「ワタクシの力ではございません
サクラ様の能力……
アイテムボックスの仕様でございます」
……アイテムボックスが凄いのか……
いや、シェリーも凄いと思うんだけどな
「そうやって自主的にやってくれてる事に感謝なんだよ、ありがとう!!」
改めて凄いな異世界……まさに未知の力……
ん? ……いや? ……私を転移だか召喚だかした人物が凄いのかな?
「ねぇシェリー、アイテムボックスって元々この世界にあるんだよね?」
「はい、ございます。
スキルとして保有している者もおりますし、
魔法道具の一種で袋形やバック形等の物もございます」
「サクラ様の様なスケール……大きさや仕様の物はそうないとは思いますが……」
「そっか、分かった、ありがとう」
……やっぱり私をこの世界に送り込んだ人物が凄いんだ……
テントの中に入ると、朝出掛けた時のままの状態がキープされていた……
……明日からはちゃんとキレイに整理整頓します……
ずっと飛んでて疲れたかな?。と思い、まずは飲み物、スポーツ飲料系をチョイスして天ちゃんへ
ごくごくと美味しそうに飲んでくれる天ちゃん
私も少しご相伴にあずかる
落ち着いた所で……
まずは天ちゃんの能力……
保冷・保温効果のある器を作ってもらおう!
天ちゃんに様々な形の食器を渡して同じ形の雲の食器を作って貰った
これで温かい物は温かいまま、
冷たい物はずっとヒエヒエって事だよね?
ふっふっ〜
夕飯は『ピザ』にした
天ちゃんに作って貰ったお皿にピザを乗せる
どういう仕組みなのかは分からないが、お皿自体は熱くも冷たくもないのに、盛られた食べ物や飲み物の温度をキープしてくれる様だ
鉄板に乗せられたハンバーグやステーキって油断して鉄板に触っちゃったりすると、「熱っつ〜! 」ってなったりするんだよね〜
この天ちゃん製の器はその心配がなくて良い感じ
ホント不思議だけどハイテク? 優秀だ
数種類購入したピザをお皿に並べて天ちゃんと食べ始める
どうやら天ちゃんは雑食なのか何でも食べれる様なので私と同じものを食べて貰う事にした
……器も食べて心配だったけど、その後も元気そのものなので一安心だ
「ごめんね、シェリー……私たちだけ食べて
これっ、ホンの気持ちだけどシェリーの分」
と、シェリーの前にホットミルクティーの入ったマグカップを置いた
ちなみにシェリーは、天ちゃんから雲を少し分けて貰って作ったクッション型の携帯スタンドに収まっている
「お気遣いありがとうございます……ですが……」
何か言いかけたものの言い淀むシェリー
「気持ちよ、気持ち! 受け取って」
「……はい、ありがとうございます」
初日はキャンプ用品に囚われすぎてしまった……
温かいお茶やコーヒー紅茶を飲みたかったけど、お湯を沸かす術がないって諦めちゃったのよね〜
キャンプ用品の料理道具って使い方が難しそうで……
でもよく考えたら、キャンプ用品じゃなくてもお湯は沸かせるのよ!
カセットコンロがあるじゃない!
カセットコンロにヤカンとミネラルウォーターがあれば、コーヒー紅茶にお茶も飲める!
缶やペットボトルのホット飲料もあるけど、やっぱりお湯から作った飲み物の方が美味しく感じられる気がするのよね〜
これまでは電気ケトルを愛用してたからヤカンでお湯を沸かすのは何だか久しぶりでちょっとテンションが上がった
ちょっと食べすぎたかな? って勢いでピザを食べ終えて、ミルクティーを飲む
天ちゃんにはオレンジジュースとりんごジュースを出してみた
どちらも美味しそう? 嬉しそうに飲んでいるの気に入ってくれたんだと思う
天ちゃんの作ったマグカップはよく出来ていて、入れたては沸騰後の温度をキープしていた
でも飲もうとしてフーフーと息を吹き掛け少し冷ますと、今度はその少し下がった温度のままでキープしてくれる
凄いな〜至れり尽くせりだ
「シェリー、天ちゃんのマグカップ凄いよ
沸騰したお湯のままだったら飲めないかな? って思ったんだけど、フーフーして温度下げたらその温度で固定してくれたよ、万能だね〜」
マグカップをシェリーに向けて説明した
「……そうだっ! シェリーのミルクティーはどう?」
見た目はまだ湯気が立っていてアツアツっぽく見えた
「確認して良い?」
「はい、……火傷なさらない様に気を付けて下さい」
シェリーの前に置いたマグカップは淹れたての熱々の温度をキープしたままだった
――つづく――




