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「あたし」

ポーカーフェイスじゃいられない

作者: XI

*****


 先日に出くわした身体の表面の至るところに銃口をまとう「異形」はあたしのバディが――レン君が――相打ちだった。あたしはそれ以前にも真田(さなだ)君という男性に救われている。彼らを思うたび泣きそうになる。あたしのために死んだのだ。あたしが逃げるだけのほんの(いとま)を稼いで。


 いまのバディはジェイ君という。浅黒い肌が健康的で美しい。「飛鳥(あすか)さんはほんとうにきれいです」と嬉しいことを言ってくれる後輩だ。言おうかどうか迷っている。「あたしは真田君と寝た」って。ジェイ君は妬くかな? どうなのかな?



*****


 男は刃物でできているらしい。腕も肩も両肘も両膝も。あたしたちはそんな「異形」を殺《や》る組織にあるのにあまりに無力だ。男はあたりのニンゲンを自由自在に斬り刻む。とてもじゃないけど敵わない。それがわかっていてジェイ君は拳銃を握り締め突っかかった。


「やめて! もうあたしからなにも奪うな!!」

「逃げろ!」ジェイ君が叫んだ。「なんとかしますから!!」


 なんとかなるわけがない。

 強力な「異形」の前では、あたしらは役立たずだ。


「ジェイ君、やめて、お願いだから!」

「逃げろ!!」


 表情がゆがむ。

 逃げるな、あたし。

 ジェイ君と(つい)を共にするべきなんだ。


「逃げろ!!」


 ジェイ君のもう一度の言葉の威力が(まさ)った。

 あたしはジェイ君に背を向け、駆け出した。


 振り返ると、薄くスライスされたジェイ君が見えた。


*****


 自宅のベッドで眠っていた。

 連絡アリ。

 管理官の女性から「具合はどう?」って。

 ジェイ君のことを訊ねると、彼はやっぱりなます切りにされて死んだらしい。

 あたしは顔を覆い――言葉なんて出てこなかった。


「生きなければならない。それがあなたの使命、役割」

「死にたいです」

「あなたが失ったバディは、そんなこと望んでいないはずよ」

「それがなにか?」

「退職の権利は認められているわ」


 あたしは髪を掻き乱し、両手を見て、自分に残されたものに気づいた。

 それはやっぱり、命という名の(タマシイ)だ。


「仕事はします。プロですから」

「いいセリフ。あなたには期待している」

「あんたはかなりのくそったれだと思います、管理官」

「文句を言いたいなら偉くなりなさい」


 電話が切れた、いつもどおり、向こうから。


 朝っぱらから缶ビールをあおる。

 あたしのバディは死んでばかりだ。

 とてもじゃないけど、ポーカーフェイスじゃいられない。


 シャワーを浴びる。

 髪先からしたたる液体を目にし、また少し泣いた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公を嫌いになるか哀れに思うかまたその他の感情も、読者としてのまぜこぜな感想が全てギリギリのところで危うい感じで凄い読後感です! [気になる点] 主人公はいったいどんな宿命を持ってるんや…
[良い点] うう、ジェイ君(つД`) セリフや描写がとてもカッコ良かったです!
2022/12/04 07:03 退会済み
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