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18)モニカの仕事

宿のお袋の仕事は、モニカが手伝っていた。ケヴィンが宿に住み込みで仕事をするようになってから、十日もしないうちにモニカは宿にやってきた。


「モニカ」

「今日から私もここで働くの」

抱き締めたモニカが、ケヴィンの耳元で囁いた。

「公爵様よ」


 ロバートが、二人で一緒に暮らせるように取り計らってくれたと思うと嬉しかった。


 半年経た頃、宿の老夫婦の引退が決まった。生まれ故郷の田舎に帰ると、老夫婦は周囲に告げた。

「まぁ、放蕩息子が立派になって、いい嫁さん連れてきたんだ。爺さん婆さんも安心だろう」

旅芸人の言葉に、周囲も頷く。


「それになぁ、年寄がいないほうが、上手くいくこともあるしなぁ」

卑猥な仕草をした別の客にむかって、親父が杖を振り上げた。

「おぉ、まだまだ元気だなぁ」

囃し立てる声に、親父の機嫌が益々悪くなる。

「親父、やめろって」

ケヴィンが慌てて止めたが、長年宿を切り盛りしていた男は、なかなかの怪力だ。親父を止めたのは、咳払いだった。

「あら、あんた、お願いした洗い物は。鍋がまだですよ」

お袋の言葉に、親父は振り上げていた杖を下ろした。


「妬けるねぇ。二人共」

「いくつになってもお若いことで」

王都にやってくる旅人が泊まる宿だ。王都にいる間、束の間の我が家としてこの宿に繰り返し泊まる常連は多い。彼らに取り、宿の主とその妻は、王都にいる家族のような存在らしい。


親父、お袋と呼ぶ客に、「お前みたいな子供なんぞ知らん」と親父は愛想のない返事を、「おやまぁ、知らない間に立派な子供が出来たよ」とお袋は人好きのする笑顔を浮かべて相手していた。


 親父は愛想はないが、目や手や足が不自由な吟遊詩人達のために、壁を削って印をつけ、手すりをつけてやる心遣いの出来る男だ。お袋の料理を食べに来るという客も多い。


「うるせぇ。ひよっこどもが」

杖の音を響かせながら、出ていく親父のあとを、お袋がゆっくりとついていく。


 あの二人の跡を継ぐと思うと、ケヴィンには身の引き締まる思いがした。

「寂しくなるが、まぁまた頼むな」

客の言葉に、ケヴィンは頭を下げた。

「はい、よろしくおねがいします」

「ぜひこの宿をご贔屓に」

モニカも一礼する。

「あぁ、こちらこそ頼んだよ」

身が引き締まる思いがした。


 数日後、目立たない馬車で、簡素な装いで男が現れた。いつか会うことになるだろうと、予想をしてはいたが、突然の訪問にケヴィンは驚いた。


 背の高い男は、ケヴィンに案内されるまでもなく、宿の一室に落ち着いた。

「あなたに、改めて職務の内容を伝えます」

そこに居たのは、宰相、ロバート・マクシミリアンではない。影の長、ロバートだった。



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