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16)家族

 本来ならば、屋敷の主、ロバート・マクシミリアン公爵に挨拶すべきだ。ローズとの再会を喜んでいたモニカも気づいて、慌てた。


「お気遣いなく、久しぶりの再会だと聞いております。ローズが、いえ、当時はリゼでしたか。親しくしていただいたそうですね。ありがとうございました」

常に相手が誰であってもロバートは丁寧な態度を崩さない。そんなロバートにモニカは慌てた。


「いえ、そんな、恐れ多い、公爵様に」

慌てるモニカに、ケヴィンは、貴族と平民に本来あるはずの、立場の違いを思い出した。

「公爵となったのは最近です。長く使用人でしたから。長く秘めていた先祖のことが明らかになり、最近叙爵されたばかりです」

ロバートは、気にするなと言いたいのだろう。身分にこだわらないのは、ロバートくらいのものだ。


 多くの貴族は、武王マクシミリアンの子孫に無礼を働いていたことを死ぬほど後悔しているだろう。


「マクシミリアン公爵様、公爵夫人様、こちらが私の妻、モニカです」

ケヴィンは、一礼し、簡単な挨拶を述べた。


「モニカさん。私はロバート・マクシミリアン、こちらが妻のローズ、この子が息子のユージーンです。妻が幼い頃、お世話になりありがとうございました」

二人揃っての美しいお辞儀だ。


「モニカです。お世話だなんて、恐れ多い」

「うー」

モニカの不器用なお辞儀に、可愛らしい声が答えた。


「おや、ユージーンもご挨拶をしたいようですね」

ロバートが抱いていた子供を、モニカに見せた。

「まぁ、可愛らしい」

緊張していたモニカの表情が緩み、声が弾んだ。


 這い回るようになったユージーンは、元気いっぱいだ。可愛がられて育っているためか、愛嬌たっぷりだ。愛嬌を振りまくユージーンのおかげで、モニカの緊張も徐々にほぐれた。


「本当にどうもありがとうございました」

屋敷を去る頃には、モニカの緊張も随分ほぐれていた。


 帰りの馬車で、モニカは笑顔だった。

「幸せそうで良かったわ。ご夫婦の仲も随分と良さそうで、お子さまも可愛らしかったわ」

「良かった」

モニカの笑顔に、ケヴィンの緊張もほぐれた。迷ったが、会わせて良かったのだと思えた。


「マクシミリアン公爵家で働けないかしら。今の仕事も、やりがいはあるけれど、ローズ様のお側で働けたら、素敵だもの。公爵様もお優しい方のようだったし」

ロバートを褒めるモニカに、ケヴィンは少し不快になった。

「まぁな」

「あら、何、あなた嫉妬してるの。あんな若い人に」

笑うモニカに、ケヴィンは顔を顰めた。


「それにしても、あなたいいところのお坊ちゃんだろうと思ってはいたけれど、リラツのお貴族様だなんて知らなかったわ」

「まあな」

「それにしては、お上品じゃないわね。あなた」

「もう、貴族じゃない」

「いいの」

モニカが微笑んでいた。

「何が」

「貴族じゃなくて」

「いい。今は居候だけど、ちゃんとお前を養えるように、仕事もするから、心配するな」

ケヴィンは、モニカの手をとった。

「一緒に暮らそう。モニカ。そのための仕事を探すから、一緒に暮らそう」


 モニカの目が潤んだ。

「一緒に暮らそう。そのために、帰ってきたんだ。そのために探したんだ。遅くなったけど、一緒に暮らそう。モニカ。愛している」

モニカの頬に涙が流れた。

「モニカ。なぁ一緒に暮らそう」

泣きながら頷いたモニカをケヴィンは抱き締めた。



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