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11)芽吹き

 早朝の鍛錬の後、すぐに厨房で仕込みを手伝い、一段落したら庭師の仕事を手伝い、気づいたらケヴィンは、一日中体を動かすようになっていた。


「随分と、足腰が強くなりましたね」

早朝の鍛錬のときに、ロバートに言われた。

「ジェームズの薪割りを代わってやったからだろう」

黒い布で顔を隠した誰かが言った。相変わらず覆面で誰が誰だかわからない連中だ。


「薪割りは、足腰を鍛えるのに良いですよ。子供の頃は、よくやらされましたね。アレキサンダー様と、どちらが沢山出来るか、競争したりもしました。懐かしいです」

言葉通り、ロバートは懐かしそうな笑みを浮かべていた。


「厨房も手伝ったりしたとか」

ケヴィンは、とうとう本人に聞くことにした。

「えぇ。アレキサンダー様と私は、王都を離れた地方にある屋敷で育ちましたから。いろいろ手伝って、それはそれで楽しかったですよ。子供ながらに。大人に褒めてもらうと、少し一人前に近づいた気がしたものです」


 ロバートは揺り籠で眠る赤子のユージーンを見た。

「この子は王都で育つことになるでしょうが。腕白な年頃になったら、あの屋敷で過ごさせたいですね。冬の狩りも楽しかったですし」


「面倒見た連中に、色々聞いてみたいなぁ」

やや年嵩の男の声に、ロバートは苦笑した。

「先日、ローズに口を割らされました。塀をよじ登ったり、蛇の尻尾を掴んで振り回したことを、今更になって、妻に呆れられるとは思っていませんでした」

男達が腹を抱えて笑い出す。


「なんというか、今と全く違うな」

丁寧な口調と上品な物腰のロバート・マクシミリアン公爵が、蛇を振り回す悪童だったなど、ケヴィンには信じられない。

「大して変わっておりませんよ。必要とあれば、鉤縄で壁を登ることもありますし」

当然と言わんばかりに丁寧な口調のまま豪快なことを言う元悪童に、ケヴィンは、どう相槌をうったものかわからなかった。


 厨房での仕込みの手伝いをするうちに、包丁の扱いにも慣れた。厨房の見習いが、少しずつ調理を任されるようになるにつれ、ケヴィンは厨房では、見習いとみなされるようになってきた。


 厨房で調理師になっても、いいかもしれないと思っていた頃だ。ケヴィンの育てていた球根から芽が出た。


「本当に芽が出た」

「当たり前だろう。おまえさん。誰が教えてやったと思っているんだ」

「ありがとう。ジェームズ、あんたのおかげだ」

ケヴィンの言葉に、ジェームズが照れくさそうに笑った。


 ケヴィンの目の前にある小さな植木鉢では、小さな緑色の芽が土を押しのけていた。

「これから育って花が咲くのか」

「お前さんが、きちんと面倒を見てやれば、の話だ」

ジェームズのお小言に、ケヴィンは苦笑した。

「咲かせるさ。そのためだ」


 ニコラスは、部屋の隅が好きで、知らない人が怖い。ケヴィンが知るのはその程度のことだ。


 花を嫌いな人は居ない。鉢で育てたら、ニコラスが、部屋の隅にいるままでも花を見ることが出来る。切り花よりもずっと長く楽しめる。庭師の手伝いをするうちに、ケヴィンなりに考え出した、受け取ってもらえそうな御礼だ。

「さぁ、他の面倒もみるぞ」

ジェームズに促され、ケヴィンは立ち上がった。




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