事件編《前編》
高層ビル同好会所属 〆野 和洋
1
大学は、単位という制度を採用している。卒業までに何単位取らなければならないと決まっているのだが、大学1年生にとっては、単位という概念が非常にわかりにくいものだ。だから、履修登録という作業が困難に思える。
約7千人の生徒を抱えているこの大学は、1回目の授業はお試しとして受けられる。もし、その科目が気に入ったのなら登録すればいいし、嫌だと思ったら登録をしない。授業の最初の1週間は、その科目は自分にとっていいか悪いかを見分ける期間なのだ。
履修登録も完了し、授業も軌道に乗ると、次第にその科目担当の教授の性格が見えてくるものだ。
黒縁眼鏡をかけた〆野和洋は、この英語の講義をとるべきではなかったと後悔していた。こんなにもここの教授が自分の性に合わないとは、最初の1週間では見抜けなかった。
大きく突き出た腹のたるみでベルトなど必要ないと思われる〆野は、今にもはち切れんばかりにベルトで綿パンをきつく締め付けていた。緑のトレーナーの背中には何かのキャラクターが印刷されているが、そのキャラクターも今は〆野同様に大きく丸かった。彼は、3人分はある身体を左右に揺らしながら座り直した。
間もなく、授業開始のチャイムが鳴る頃だ。50人収容可能な教室はほぼ満席だった。始業前だというのに教室内は静かで、誰もが先生がやってくるのを心なしか緊張して待っている様子だった。
〆野は、その授業で使用するテキストを開いた。そこに書かれた問題文は、ほとんどが穴埋め問題だった。わからない単語があったら、あらかじめ辞書で調べておくよう言われている。しかし、穴の前後の意味がわかっていてもヒヤリングは苦手である。会話のスピードが少し上がっただけで、単純な単語すら聞き取れなくなってしまうのだ。日本の教育制度が文法中心の為、中学高校の英語の授業で流暢に英会話なんて無理だ。これはどう考えても国が悪い。と、〆野は心の中で思うだけだった。
この授業はリスニングの授業だった。授業内容は、主にテープを聞いて答える為、視聴覚室で行われる。視聴覚室にはテープレコーダーに限りがあるので、50人という少人数でしか授業ができないのである。
〆野にとって、この授業が1週間の中で1番の曲者だった。本当は英語なんてとりたくないのだが、学則で英語の授業を必ずとらなければならないとしているので仕方がない。
いつものようにテキストを眺めながら頭を悩ませていると、ついに担当の射場佐和子教授が教室にやってきた。彼女は教卓に鞄を置くなり、教室の前と後ろのドアに鍵をかけた。遅刻してきた学生を授業に参加させない為だ。
40代の小柄で目の細い射場教授。そんなに大学教授はボロ儲けなのか、身に着けている衣服はやけに洒落ている。しかし、〆野にとってはただの派手なおばさんにしか見えない。
見たくもない顔だし、自分の顔も見せたくなかった。果たして彼女は、先週あったことをまだ憶えているのだろうか。恐らく憶えていることだろう。先週の出来事も、彼にとっては学生生活で忘れられない思い出となった。
それは、いつものようにテープを流して、聞き取れた言葉を空欄に埋め、それを答えさせるというときだった。
「じゃ、次、〆野君」
「わ、わかりません」
射場は実に気分の悪そうな顔をすると、腕を組んで説教を始めた。
「あなたね、わかりませんでいいと思ってるの? 例え聞き取れなくたって、この文章を見れば文法的にわかるじゃないの。こんなの高校生の問題なのよ。あなた中学、高校と何習ってきたの?」
射場の言い方はきついのだ。そんなことを聞かれても何も答えようがない。ただ彼女の話を黙って聞くしかなかった。
「これがわからないって言うなら、私の授業に出る資格ないわね。これじゃ授業が進まないわ。もういいです。次、杉村君」
そのまま〆野を飛ばして授業は続行した。〆野はホッとして、他の生徒が答えるのを聞いていた。
いつもこんな調子だった。射場の授業形体は必ず全員を当てるようにしている。だから、必ず1回は答えなければならないのだ。〆野は大抵答えられなかった。何となく単語が聞き取れたとしても、その答えに自信がないといつも「わかりません」で済ませていた。
もし、答えが間違っていると、射場はすぐさま突いてくる。どうしてその単語だと思ったのか、と。
そんなこと聞かれても、そう聞こえたんだから仕方がないじゃないか。他に何と答えればよいのか。だから答えに自信がないと「わかりません」で済ました方がいいのだ。
そんなことが先週あったのだから、あまり顔を合わせたくなかった。
いつもの緊迫した授業が始まった。席順は予め決められており、座席表を持っている射場には全ての学生の名前を把握できていた。
〆野は窓際の後ろから3番目に座っていた。射場がどこから当て始めるのかが重要なポイントとなる。彼は最悪の事態にならぬように祈っていた。しかし、数分でその最悪の事態となってしまった。〆野の後ろから当てたのだ。つまり、もう1巡して2度当たってしまう可能性があるのだ。だが、彼は今まで2度当たったことは奇跡的になかった。2度目に当たりそうになると、リスニングビデオ鑑賞会になって、授業の流れが変わったり、いいタイミングで終業チャイムが鳴って授業が終わったりと、いつも免れてきた。
今回、またもその悪運を試されるときが来た。
相変わらず教室はシーンとしていて、テープの音だけが流れている。今回は楽勝だ。今日はセクションの始まりなので、問題は比較的易しい。〆野が答えるのは電話番号を聞き取るものだった。
「はい、じゃ3問目。〆野君」
その問題は無事答えられた。これで2回目が来なければ、今日はもう終わったようなものなのだが。
しかし、世の中そううまく行かない。中盤の問題が難しかったのか、射場は1つの問題を多くの学生に答えさせた。その為、すぐに自分の番が近付いてきた。演習問題はセクションの後半になるほど難しくなってくる。
頼むから当たらないでくれよ。
しかし、悪運はここで尽きた。遂に初めて、1時限に2度当たってしまった。
「次、〆野君」
この前と同じようにわからなかった。だが、そう何度もわかりませんと答えたくはなかったので、ここは冒険と思って適当な答えを言ってみた。
「toです」
「to? どうして?」
しまった。やっぱり間違っていたようだ。〆野は何も答えることができなかった。
「ここにはtoはこれないよ。どうしてあなたはそう思ったの? そこが問題だわね」
「…………」
しばらく教室は、物音1つしなかった。やがて、射場の皮肉のこもった声が流れた。
「あのね、私はあなただけのために授業をやってるわけじゃないの。そうやって黙ってる間は、ここに座ってるみんなが迷惑するの」
彼女は喋っているうちに興奮してきたのだろうか。次第に声が荒くなっていた。
「みんな高いお金を払ってわざわざ学校にやってきてるんだから、あなたみたいな人のために、授業を中断することはみんなに失礼なの。それにこの問題は、予習をやってくればわかる問題。あなたはやってきてないって証拠なのね。予習してない人は授業に参加する資格はないの。だから出てって!」
射場は外を指差した。
〆野は初め、射場は冗談で言ったのだと思った。しかし、彼女の目を見ると冗談ではなさそうだ。彼女の大きな怒声で、〆野は軽く腰を抜かした状態にいた。だからすぐに立ち上がることができなかった。そんな〆野の心身の状態など知らない彼女から、またも怒声が飛んだ。
「早く出てって!」
2度目の言葉をきっかけに、〆野は荷物をまとめてすごすごと退散した。外に出るまで、他の人間の目線が痛かった。自分のことを見て笑っているに違いない。
ドアの鍵を開けて外に出る。一気に緊張感から開放された。しかし、開放されたと同時に怒りが込み上げてきた。
なにもあんなに大勢の人のいる前で言わなくてもいいではないか。何が早く出ていってだ。お前が出てけ。けど、今日はこのあとどうすればよいのか。まだこの時間が終わるまで45分もある。いや、そんな心配より、来週のこの時間はどうすればいいのかが1番の問題だ。
とりあえず、〆野は階段を降りて校舎を出ると、暇つぶしにその足で大学の図書館に向かうことにした。
大学内はまだ授業中なので閑散としている。
約5分歩き続けると、ようやく視界に図書館が現れた。大きな図書館である。市内図書館と同じ規模の図書館だろう。
扉を開けると受付が左手にある。右手には視聴覚室があり、ビデオデッキとステレオ、パソコンが置いてある。音楽を聴いたりビデオを見たり、インターネットがいつでもできるように完備されているのだ。
図書館は2階建てになっていて、1階は新聞・雑誌・百科事典・辞書・ビデオ・音楽CDなどが置かれている。そして、学生が座って勉強できるようにテーブルと椅子が設けられている。また、図書館内にある膨大な量の中から目的の本を検索できるように、検索専用のパソコンが3台設置されている。更に、館内には貸し出し厳禁の図書があるので、コピー機が各階に1台ずつ設置されている。
2階へ上がった。館内は授業中の教室のようにいつも静かだった。ここはどんなに人が多くても静かな場所だ。
〆野は、今まで館内に入ってじっくりと本を眺めたことがなかったので、どんな本が置いてあるのかを奥の棚から順に見ていくことにした。
文庫の中には、海外の小説などもあった。〆野が1つ驚かされたのは『刑事コロンボ』まで置いてあったことだ。こんな物まで大学の図書館にあったとは。
政治・経済・法律などは当たり前のように本棚に並んでいる。また海外文学や洋書までも置いてある。ざっと見た感じだと、ここに置いてないのは漫画と芸能人が書いたエッセイくらいなものだ。
〆野は最後に、隅にある壁際の本棚に目を向けた。そこには、ここの大学の教授が書いた本が集まっていた。著者名を見ると、なるほど、確かに見たことのある名前がずらっと揃っている。
大学の教授なんて所詮は副業だからな。本業がわけのわからない研究とか言っているが、こういう本を出して生計を立てているんだからしょうがない。お前らほんとに社会の役に立っているのか? 大体、自分で本を書いて、それをテキストとするから本を買え、というのはやり方が汚い。でも、そうしないと売れないのだろう。
そんなことを考えながら、〆野は一通り本棚に目を通した。するとその中に、射場佐和子著の本があった。
あの射場ではないか。あいつはこんな本まで書いていたとは。
B5判のハードカバーで、タイトルは『英国の歴史』だった。開いてみると、わけのわからないことがダラダラと日本文で書かれている。著者のプロフィールを見てみると、去年、名誉教授になったようだ。ここに載っている経歴を見ると、まあまあその業界で活躍しているようだ。いやらしく、射場の顔写真も載っている。それを見ていると、〆野の脳裏はオーバーラップしてさっきの出来事が蘇ってきた。
「予習してない人は授業に参加する資格はありません。出てって!」
射場が外を指す映像が蘇る。
「早く出てって!」
みんなに見られて教室を後にする悲痛。そして、以前の記憶も蘇ってきた。
「こんなの高校生の問題なのよ。あなた中学、高校と何習ってきたの?」
「私の授業に出る資格はないわね。これじゃ授業が進まないから。もういいです」
〆野は目の前の射場の顔写真をにらみつけた。そして、反射的にその本を床に叩き付けた。大きな音はしなかったが、本の表紙に傷が入った。
思い出すと腹が立ってくる。こっちは学生なんだ。わからないものはわからないじゃないか。だから学校に来てるんだ。どうしてあんなおばさんにここまで言われなければならないのか。
やがて、〆野は頭をかきむしると、ポケットからライターを取り出した。点火すると射場の本に火をつけようとした。彼にはそれくらいしか感情をぶつけることができなかった。
〆野はその本を元の場所に戻すと1階へ降りた。館内の様子をうかがう。さっきと何の変わりもない。彼は身体を上下にゆっくり揺らしながら新聞のコーナーに行き、今日の朝刊を手に取った。そして、今一度周りの様子を確かめる。誰もが本や雑誌に目を向けている。今がチャンスだった。〆野の呼吸が一段と荒くなった。襟足からは小さな汗が一筋の道を描き、額には真夏の外に放置された冷たい空き缶のように小粒の汗が滲み出ていた。緊張が高まる。しかし、彼には勇気がなかった。新聞を元に戻し、もう1度2階へ上がった。
彼は仕方なく、鞄から法学の教科書を取り出した。ついでにタオルで顔を拭う。そして、コピー機へ向かった。今のところ、教授の書いた本が置かれている本棚には人がいる気配はない。早くしなければ。いつも誰かしら並んでいるコピー機には、今は幸いにも人がいなかった。
小銭を入れ、法学の教科書を開いてコピー機に伏せると、スタートボタンを押した。すぐに複写された紙が2枚出てくると、〆野はそれを引っつかんでそこを後にする。すると、彼の後ろから声をかける者がいた。
「あのぅ」
それは、甘い美声なのだが滑舌の良い声だった。
誰だ? どうして僕を呼び止める?
〆野は恐る恐る振り向いた。彼の視界に飛び込んできたのは、まず頭に乗せた黒のサングラスだった。そして、バランスのとれた眉毛に綺麗な瞳、真っ赤な口紅。美顔の彼女は、笑顔で1冊の本を〆野に渡した。
「これ、コピー機に置きっぱなしでしたよ」
「ああ、すみません」
〆野はそそくさとその場を立ち去って、図書館の奥に姿を消した。
*
静かな図書館で、やたらにペンを走らせている体の細い小柄な女学生が座っていた。
佐々木原ののかは、白のジーパンにグレーのパーカーを着こなしている。ショートカットに度の強い銀縁眼鏡をかけていて、ほとんど化粧をしていない。アクセサリーも身に付けていないので、あまりパッとしない地味な女性だ。彼女は眼鏡をずり上げ、再びレポート用紙に鉛筆で絵を描き始めた。運動靴を履いた足を机の下で伸ばし、何やら気だるそうに絵を描いている。
やがて、絵を描くのも飽きたのか、鉛筆を放り投げて両手を頭の後ろで組み、背もたれに身を任せた。
「はぁ、疲れた」
「ののちゃん、何リラックスしてるのよ」
佐々木原は眠たそうに見上げると、サングラスを頭に乗せた彼女に訴えた。
「もうヤだよ。手が疲れちゃった」
「ほら、コピーしてきたよ。もうちょっとなんだから頑張りなよ」
サングラスの彼女は、佐々木原と向かい合って座った。
「いいよな、華奈は。レポート1つもないんだもん」
「ののちゃんもまだまだ甘いわね。もっと要領よくやんなきゃ。わたしもレポート書きたくないから、わざわざレポートのない授業ばっかりをとったんだから」
「あっ! ずるい!」
「でもその分、サークルの会長としてやんなきゃなんないことが沢山あるんだから。そういえば『ののちゃん歓迎会』はいつがいい?」
「いつでもいいよ。私はあんまり飲めないから。でも、華奈ってすっごいお酒強いよね。顔は赤くなるのに、全然酔わないもんね」
いささか佐々木原の声が大きかったようだ。周りもそれに同調されて声が大きくなっていた。しかし、すぐに図書館の独特の雰囲気で元の静けさに戻った。
「さぁ、とにかくこれ書かないと終わんないよ」
「はぁーあ。やりたくないけど、やるしかないか」
佐々木原は背筋を伸ばし、気合いを入れ直してレポート用紙に書こうとしたときだった。突然、非常ベルが鳴り響いた。
「えっ、なになに?」
佐々木原は辺りを見渡した。すると、奥の方から煙がうっすらと立ち昇っていた。
「やばいよ華奈、火事だよ」
佐々木原がそう言うや否や、火事の近くにいた者が一斉に立ち上がって、燃えている本を本棚から床へ落としていた。そして、それらの本を足で踏み付け、少しでも火が消えるように努めていた。
「誰かが消してくれたね」
と、佐々木原は振り向くと、既にサングラスの女は現場に向かって歩いていた。
「あっ、華奈待ってよ」
彼女はレポートをそのまま放り出し、現場へ駆けていった。
佐々木原が現場に着く頃には、火は完全に消し止められていた。どうやら大した騒ぎにもならず、ボヤで済んだようだ。だが、損失は免れなかった。ちょっとでも焦げてしまったのも入れると50冊は損害を被った。しかし、幸か不幸か、その50冊は全てここの大学の教授が書いた本ばかりだったのだが。
「うわぁ、すごいね」
上から3段目以上に置いてある本は真っ黒になり、床には荒れ果てた書籍の残骸が散らばっている。天井も少し焦げてしまったようで、茶色くなっていた。
サングラスの女はその現場を見ると、すぐに佐々木原に頼み事を言いつけた。
「ののちゃん、ちょっといい? すぐに図書館の人に頼んで、ここを閉鎖してもらって。誰も出入りさせないで」
「うん、わかった」
佐々木原は走って階段へ向かった。すると、向こうから図書館の事務員がどやどやと走って来てすれ違った。階段を降りて受付に行くと、そこにはしっかりと1人だけ中年女性の事務員が残っていた。
「あ、あのぅ、すみません。い、今、上でボヤがあって、ちょ、ちょっとの間ここを、ふ、封鎖してもらっても、い、いいですか?」
受付の中年女性は、全く納得いかない表情で佐々木原をにらみつけた。
「言ってる意味がわからないんだけど。ここは午前9時から午後4時半までやってるんだけど、今、何時かわかる?」
目一杯、皮肉を浴びせられた佐々木原は気分は良くなかったが、この事務員がそう言いたくなるのも分からないわけではなかった。確かにそうだ。突然やって来た女学生に封鎖しろなどと言われて、そう易々と従うはずはない。しかし、わかっていても、ただただ強くお願いするしかなかった。
「お、お願いします。ちょ、ちょっとの間だけで、い、いいですから」
「できません。大体、何の権限があるの?」
「だ、だって、か、華奈が言ってるから」
「カナ? 誰それ?」
「わ、私の友達です」
女性事務員は呆気にとられた。
「あなたの友達はそんなに偉いの?」
嫌味たっぷりに言うと、女性事務員は下を向いてしまった。もう何も聞く耳を持たないと言った態度だ。佐々木原も言葉を失ってしまった。
「封鎖してくれ」
佐々木原の後ろから太い男の声が轟いた。佐々木原は後ろを振り向き、事務員は顔を上げた。そこに立っていたのは学生課の茅ヶ崎だった。スーツをしっかりと着こなし背筋を張っていたので、貫禄はあるが若々しく見えた。
「君、今、華奈って言ってたね。それは水咲君のことか?」
「は、はい」
「水咲君が言ってたことなんだから重要なはずだ。おい、すぐに封鎖してくれ。生徒を出入りさせるな」
さっきとは打って変わり女性事務員は素直にうなずくと、出入禁止と黒板に書いて入口に立てかけ、ドアに鍵をかけた。
学生課の人間が自分の友人を知っていることに、佐々木原は少し驚いた。一体どういう関係なのだろうか。
「火災警報が鳴ってたから様子を見に来たんだが、大丈夫か? 怪我人は?」
「だ、大丈夫です。ボ、ボヤで済んだみたいですから」
「そうか、それは良かった。彼女は元気か? 以前彼女には世話になってね。神田川さんというのはショックだったけどな」
意味のわからない佐々木原は、とりあえず茅ヶ崎を現場へ案内した。それは、1時限目が終了したときだった。
第7話 ローマ数字の罠~事件編《前編》【完】