不老不死のお味噌汁
魔術師の男は、不老不死の秘薬を多分、創り上げた。
「遂に、この世界に復讐する時がやってきた!」
男は既に狂っていた。
天気予報を見て傘を持たなかったのに雨は降るし、小説シリーズの抜けていた刊を買ったら何とダブったし、この前の休日なんてゆっくり寝てたらもう日が暮れてた。
酷い。この世界は酷い。だから復讐するのだ。
復讐の魔術師たるもの、常にカッコよくありたいが、食事は必要。だが自炊はなんかカッコ悪いので、野菜の種蒔きから収穫、料理になるまでを、魔術で自動化した。
食事は賄えたが、復讐に没頭するには健康も必要だ。風邪気味で復讐ってのもカッコ悪い。
そこで、野菜に知能を魔術で植付け、“人間がより健康になる様に進化する事”という目的を持たせた。
そこが分岐点だった。
意思を持った植物は、自らを改良し優良種を選抜、料理自動化魔術を経て勝手に出来たのが、不老不死の秘薬という訳だ。恐らくではあるが。
「ちょっくら不老不死になってきますかね!」
魔術師は、知能ある野菜が作った秘薬を見た。見た目は…具沢山の味噌汁である。
飲みやすい事に越したことはない。そう思い、味噌汁を一口飲む。
旨い。
植物自身が意思を持ち優良品種を生み出しただけはある。素材そのものが旨い。味噌は芳醇な香りと程よい塩気、口の中で揺れる豆腐は心地よい食感で良いアクセントになっている。
「これだけ美味しく、そして不老不死になる。最高ではないか」
興奮を抑えきれず、味噌汁を飲み進める。
ああ、旨い。
完食したその時、えも言えぬ達成感に満たされ、これから始まる不老不死へのエネルギーが体に染みるのを感じる。
コレでつまらない世の中とはおさらばだ!
そう思った瞬間、体の中に声が響く。
「…ぎ…た…さい」
神の祝福か、はたまた地獄の入り口か。そう思い、声に意識を添わせる。
「ねぎも ちゃんと たべて ください」
「ん?」
味噌汁にネギはあった。しかし、ネギは苦手なので残したのだ。
復讐の魔術師としては、好きなものは好き、嫌いなものは嫌いと言える大人を目指している。なので、ネギは残した。ちなみに、セロリとピーマン等、苦い野菜全般嫌いだ。
「やさいを ぜんぶたべれば ふろうふしは ちかづきます」
「…え、えええ!?」
かくして、復讐改め、野菜嫌いの魔術師のお陰で、世界は復讐を免れた。
字下げと改行を若干修正しました12/12