9 橋の上の乙女
ナーナー弁はクシャミにも適応される事を知ったオレは(ホンマにどうでもええわ)、
カバトンの家を後にし、すっかり夕暮れに染まった空の下、
自分の家に向かって歩いていた。
そして途中にある大きな川にかかる橋にさしかかった時、オレはある光景を目にした。
一体何を見たのかと言うと、
セーラー服を着た一人のお姉さんが橋の欄干(柵、手すりの事)の際にたたずみ、
街の中に沈む夕日をジッと見詰めているのやった。
背中まで伸びたきれな栗色の髪と紺色のスカートがゆるやかな風になびき、
夕日を眺めるその瞳は、どこか悲しそうな光を放っている。
それはまるで映画のワンシーンみたいで、
愛しい人を失った彼女が、悲しみに暮れながら夕日を眺めているようやった。
はぁ~、キレイな人やなぁ。
高校生やろうか?
オレにもあんなキレイな彼女が居ったらええのになぁ。
と、シミジミ思っていると、そのお姉さんはおもむろに自分の履いていた靴を脱ぎ、
橋の欄干に膝からよじ登ろうとした。
ん?何をしているんやあのお姉さんは?
ま、まさか、そのまま川に飛び込むつもりとちゃうやろうな?
この川はあんまり深くないから溺れる事はないと思うけど、
落ち方が悪かったら怪我するで!
危ない危ない!
そう思ったオレは咄嗟にお姉さんの元へ駆けだし、
背中のランドセルをその場に放り投げ、お姉さんの腰を両手で押さえて叫んだ。
「何やってるんですか⁉そんな事したら危ないでしょ!はやまっちゃ駄目ですよ!」
するとお姉さんは驚いた様子で目を見開いたが、
すぐにオレの手を振りほどこうとしながらこう返す。
「放して!放してください!私はもう死にたいんです!
生きていてもしょうがないんです!」
「そんな事言うたらダメですよ!
何があったんか知らんけど、自分の命はもっと大事にせんと!」
オレはそう言いながら何とかお姉さんを欄干から引きずり降ろそうとするが、
お姉さんも必死に抵抗し、なかなか欄干から降りようとしない。
「放して!見ず知らずの人にそんな事言われる筋合いはありません!」
「筋合いがあろうがなかろうが、とにかく自分の命を自分で投げだすのはダメですよ!」
オレはそう叫び、しまいにはお姉さんに後ろからガバッと抱きついて、
大木を地面から引き抜くつもりで持ち上げようとした。
と、その時やった。
フニュウッ。