第4話 遊び
さてさて、何して遊ぼうかと持ってきた荷物を一旦ロッカーに仕舞いビーチをうろついていると。
「剣くん、あれあれ!」
水咲さんがテンション高く、ぴょんぴょん跳ねながら何かを指さす。
「んー?水上バイク?」
アレに乗りたいの?俺、免許ないけど?外国だし特に決まりとかないのかな?一応聞いとくか。
「俺、免許無いよ?」
「え?私が運転するの、免許持ってるし」
マジで?まあ、トラックの免許を持っているぐらいだ、今更驚くほどでもないか。
てっきり運転する俺の後ろに乗りたいのかな?と早とちりしていた俺を殴ってやりたい。
「聞いてくるね!」
「あ、うん」
止める間もなく水咲さんは受付っぽい所にすっ飛んで行き、直ぐに帰ってきた。
「三人乗りがあるって!行こ!」
問答無用で連行される俺と啓、啓はなんだか顔が引きつっているような気がするけど大丈夫かな?
何が何だか分からないままライフジャケットを頭からスポッと着せられ、三人乗りらしい少し長めの水上バイクの後ろに乗せられ俺の前に水咲さん、その股の間に啓が座る。
「なんか違うくない?」
こういうのは俺が主導した方がいいんじゃ・・・・・・、なんて言ってる暇も与えてくれない。
「いいの、行くよ!捕まって」
「わ!!どこに!?」
「っ!!」
発進と同時にフルスロットル、すっ飛ばされそうになりながらも思わず水咲さんのお腹に手を回してしがみついてしまう。柔らかくスベスベしているが、程よく筋肉のついた水咲さんはの腹筋が・・・・・・、じゃなくて!!
「水咲さん、飛ばし過ぎ!!」
「えー?なにー?」
いくら空の上では音速で飛ばしてるとはいえ、水面をジャンプしながら滑走している、眼帯が飛んでいきそうだしクビがもげそうだし、油断したら振り落とされそうだ。それなのに運転手たる水咲さんは聞こえないふりときたもんだ、生きた心地がしない。
前にいる啓もフラフラしているし、水着をがっちり掴んで落とされないようにする。
すると前方からやや高い波が迫ってくる。
「ちょっと水咲さん!?」
「行くよ捕まって!」
「ひー!!」
俺たちは宙を舞った。
〇
「はー、楽しかった!」
ものすごい笑顔でやり切った顔をしている水咲さんに。
「死ぬかと思った・・・・・・」
顔を青くした俺、そして。
「・・・・・・」
目を回しフラフラしている啓、大丈夫かよ。
手を貸すと、もう無理と言わんばかりに俺に体重を預けてくる。かわいい。
「次、あれ!」
もう次?勘弁してくれと思いつつも、また指を指された方を見るとパラグライダーが見えた。アレか、ボートで引っ張って空を飛ぶヤツ。
まあ、そんな激しそうじゃないしいいか。
そう思った俺がバカだった。
〇
「すごーい!」
「た、高くない??」
「・・・・・・」
横一列の四人乗りの座席が着いたグライダーに三人で乗り、初めはボートに引っ張られ風も強くなく低空を飛んでいて。お、これぐらいなら爽やかでいいじゃん、なんて思っていると、あれよあれよという間にワイヤーが伸びて気がつけば海面から30メートルぐらいの高さだろうか、足元は宙ぶらりんだし、シートベルトなんてあって無いようなものだから相当怖い。
右隣にいる水咲さんはキャッキャとはしゃぎいろいろなものを指さしてはすごいすごいと言い、啓は無言で汗ばんだ右手で俺の左手を必死に掴んでいた。意外とこういうのは怖いのかな?かわいい。そんな啓に癒されつつ、結構な高さに恐怖しつつ空中遊覧はあっという間に終了、ビーチに戻る。
「楽しかったね!」
水咲さんはね!!
満足そうだから怒るに怒れない。
「怖かったな・・・・・・」
「はい・・・・・・」
啓なんて俺の手を握ったまま離してくれないいんだからね!
いかに戦闘機に乗り慣れてると言っても飛行機とグライダーでは訳が違う。自分で操縦できる分戦闘機の方が安全に感じてしまうよ。
「もー、二人ともお子ちゃまなんだからー」
どっちが!と喉まで出かけたが心の中でツッコんでおこう。
「次は何する!?」
まだ次行くの!?
「ちょ、ちょっと休憩したいかな」
「同意です、疲れました」
「えーー」
啓の鋭い眼光に敗れた水咲さん、俺たちは近くの海の家のような木造のオシャレなカフェに入った。
〇
壁もなく外風が吹き抜けの店内、隅の四人がけのテーブル席に案内され俺の向かいに水咲さんと啓が座る。他にも水着姿の観光客が何人かいて、そんなに騒がしくもなく高級リゾートだなぁ、って感じがしてちょうどいい。
「何にしようか?」
「そうだねー」
「・・・・・・」
メニューを広げて何がいいかなと物色、水咲さんはペラペラと手早くメニュー表を捲り、啓はジト目でじっくり品定めしていて、その光景を微笑ましくみていると、ふと懐かしいものを見つけた。
「俺はミルクコーヒー、おっ、チョコワッフルあるじゃん」
俺が大好きなミルクコーヒーとチョコワッフルがあった、しばらく食べてないし頼んでみようかな。
「じゃ、私もー」
「私もそれにします」
ホットパンツにお店の名前がプリントされたタンクトップと、なかなかに際どい服装の金髪美女の店員さんを呼んでミルクコーヒーとチョコワッフルを三つ注文。去り際、真向かいにいる水咲さんに思いっきりスネを蹴られた。
「ッ!!」
なんだよ!と言おうと目を合わすも、なにか?と両手の甲を顎に当ててニコニコしている彼女、恐ろしくて反抗するのを辞める。そりゃね、見ちゃうでしょ普通、それが男の性ってやつよ。
隣の啓はメニュー表に夢中で状況が分かっておらずジト目のまま首を傾げる、かわいい。
少しピリピリした空気が流れるも、相変わらず状況が分かってない啓は我関せず、観光マップを広げている。
「次はどうしましょう?」
「そうだねぇー」
肩を合わせ、顔を近づけマップを眺める二人、水咲さんの豊満な谷間がチラ見えしてるこっちは眼福極まりないのだが。
「まだしばらくいるんだからさ、そんなに一日で回らなくても良くない?」
正直疲れたし、軽い提案だったが水咲さんに一蹴りされる。
「楽しめる時に楽しむの、それを教えてくれたのは剣くんだよ?」
「いつ死ぬか分かりませんから」
「啓ちゃん、ストレート過ぎ」
「事実ですので」
そう言うことね、確かに二人の言う通りだ。
この国は平和そのものだが明日生きている保証なんてどこにもないし、死ななかったとしても風邪を引くかもしれない。
「・・・・・・わかったよ、ごめんね」
俺は深く考えることをやめて一緒に観光マップを覗いた。
そして、しばらくして注文の品が届いた。
「美味そう!」
「けどリュウちゃんのとはやっぱり違うね」
「安っぽいです」
そんなこと言わないの、と水咲さんに怒られる啓を微笑ましく見つつミルクコーヒーを啜り、チョコワッフルを一口。
んー、ちょっと薄いかなー、チョコワッフルも今ひとつサクサク感が足りない。
こう考えてみるとリュウって凄かったかのかな?と今更ながら感心する。
「リュウのが一番だね」
「同感です」
「国が違うんだからここではこれが普通なんじゃない?」
水咲さんの言うことも一理ある。だけどね、やっぱあの端島の喫茶店「カフェ・スカイ」で食べてた味は忘れられないよ。
いろいろあってあの島には帰れないんだけどね。
幸い水咲さんも啓もそれは理解してくれてる。
「懐かしんでも仕方ありません」
「まあね」
結局は啓の一言で過去を振り返るのは辞める、これはこれでまあ美味しいし、よく味わって食べることにした。
〇
そして、それから二人にかなり連れ回された。
次に行ったのは人工サーフィン。
人工的に作られた波形をしたコースに水流を作って擬似的にサーフィンを楽しむと言うやつで、初心者でもできるという謳い文句だったのだが。
「のわっ!!」
俺は酷い有様。
波に乗れたかな?と思った矢先にサーフボードの頭が水流に突っ込んで吹っ飛んでしまう。
「なにやってんのー」
場外から水咲さんと啓に笑われる始末、恥ずかしい。
いやでもこれ意外と難しいよ?
「じゃあやってみてよ!」
俺はわざとふくれっ面をして先ずは啓と交代。
若干顔が引き攣っている気がしたが俺は失敗しろ、としか思っていない。
とまあ、現実はそんなことも無く、ちょっとぎこちないが俺よりも長く啓は波に乗ってみせ、俺のように吹っ飛ぶこともなかった。
「楽勝です」
結構眉間にしわ寄せて真面目な顔してたけど?フフンと若干ドヤるものだから笑いそうになってしまうと、ギロッとジト目で睨まれ、慌てて水咲さんに早く行って!と話題を変える。
そして、水咲さんときたら上手いのなんの、水流をがっちり捉えて、スタッフさんも拍手をするほど縦横無尽に波に乗ってしまう。
「なんで!」
「学生の時にちょっとねぇ」
「それでそんな上手くなる??」
超絶美人でスタイル抜群で運動神経も抜群、この人言うこと無しだな。昔、ちょっとやったからってあんなグルングルンってできるもの?ヤバいな。
そして次はスキューバダイビング。
水咲さんは文句なしに普通に泳げて、俺も人並みには泳げるが、啓が泳げなくもないが得意ではないらしく、3~5メートルぐらいの浅瀬を俺の手を握って離れないように海中散歩を楽しんだ。
水咲さんは先先行きたい気持ちが前に出過ぎて、インストラクターに離れるなと怒られていたし、イソギンチャクに隠れるカクレクマノミかな?それを見つけた時のテンションの上がりようはとても可愛かった。
啓も海中散歩を楽しんだ後、ボートに上がった時、手を引いてた俺に、「ありがとうございました」と少し恥ずかしそうに言ってくれたのも可愛かった。
そしてそして俺たちは水着から私服に着替えて、次は水族館。
そんなに大きくない建物だったが魚の種類は豊富で、入ってすぐの熱帯魚コーナーにいたクマノミに「さっきのやつ!」と再びテンションの上がる水咲さんに癒され。啓は意外や意外、クラゲコーナーを見つけるとそこからしばらく張り付いて動かなかった。
「剣くん、クラゲって脳が無いらしいですよ」
「お、おう・・・・・・」
どういう感情?
笑うでもなく普段のジト目で水槽を覗いてるもんだから反応に困る。
そして、あっという間に全て見終わり、出口にあった売店を物色して外に出ると、二人の手の中には小さめのクマノミのぬいぐるみと、毒々しいクラゲのクッションがあった。
「いつの間に!」
俺なんも買ってないのに!
「可愛いでしょ?」
ぬいぐるみを顔の横にやって眩しい笑顔で笑う水咲さん。どっちも可愛い。
「クラゲは癒されます」
そんないかにもヤバそうなクラゲが?と頭の上にクエスチョンマークを浮かべるが、大事そうに両手でクッションを抱えている啓を見ていると可愛くてどうでも良くなる。
「そろそろ帰る?」
気がつけば太陽は陰り夕方だ、そろそろ俺の足がやばいし正直なところ帰りたい。しかし、水咲さんは「うーん」と悩んでいる、お願い!ホテルに帰って少し横になりたいの!
「帰ろっかぁ」
「ですね」
ホッ良かった。
俺は笑顔で二人の荷物を手に取ってホテルまで先導した。