第2話 リゾートへ
数日後。
西の大陸西海岸の王国「ミギナ第二王国」
リニカル国際空港。
「とーちゃーく!!」
「いい天気だねぇ」
「ですね」
晴れ渡った青い空、端島を彷彿させる暖かいが過ごしやすい風、これぞリゾート地!という天気だ。
俺は白シャツの上に薄水色のボタンシャツ、濃い青色のハーフパンツを着て。水咲さんはグレーのノースリーブシャツにホットパンツとなかなかに目のやり場に困る服装で、大きいサングラスをスチャッとかける、女優さんかな?啓はライトブラウンのひざ丈のワンピースにつばが大きめのハットを被っている、かわいい。
そして、それぞれでキャリーバックを引いて兄さんが用意してくれたホテルに向かう。
「ホテルってなんて名前?」
なんて名前だったかな、チケットをポケットから出して確認する、無くすなんてヘマはしない。
「えっとー、レクスニディスホテル・・・・・・」
え?
「どうしたんですか?」
隣を歩く啓がハットのつばをクイッとあげて俺の顔を伺う。
「いや、なんでもない!着いてからのお楽しみ!」
「えぇ、知ってるなら教えてよー」
「気になります」
これはマジで百聞は一見にしかずなんだよ。いいからいいからと躱しながらターミナル前にいたタクシーを捕まえてそのホテルに向かった。
●
レクスニディスホテル
ロビー前。
「え?ここ?」
「・・・・・・」
目の前には30階ぐらいあるだろうか、外装はお城のような装いの絵に書いたような超特大ホテルが聳え立っていた。
水咲さんはサングラスを外して圧倒され、啓は空いた口が塞がらない感じだ。
「うん、ここ、すごいでしょ」
得意げにニヤニヤして案内しようとすると水咲さんはすぐに察する。
「ツルギくん来たことあるの?」
「ん?ああ、子供の時ね。年一位で来てたんだよ」
年に一回の家族旅行、いや、兄さんと従姉さんと使用人数人での夏休みの旅行。親はね、ほら忙しいから・・・・・・、兄さんに連れ回されてあんまりいい記憶はない。
でも、今回は水咲さんと啓との旅行、楽しくない訳が無い!
「ほら、ロビー行くよ」
「そうだね」
「はい」
中に入ると、五階ぐらいまで吹き抜けのだだっ広く、真ん中にはシャンデリアもあってザ・ゴージャスなロビーが広がり奥にあるフロントに進む。
「お荷物をお預かりします」
「あ、どうも」
どこからともなく現れたスパッとスーツを着こなしたボーイさんが俺たちのスーツケースを手に取りやけに豪華な台車に載せてくれ、受付には営業スマイルが眩しいお姉さんが待っている。
「えっとー」
受付についてハッと思った、兄さんどっちの名前で予約したんだ?言葉につまりモゴモゴしていると、水咲さんに囁かれる。
(本名じゃないでしょ、死んだことになってるんだから)
確かに、察しが良くて本当に助かるよ。
「ツルギ・ササイです」
そっちの名前を名乗ってチケットを差し出す。
言われたらそうだ、ローレなんて名乗ったら一大事だろう、アポ無しで王家が来るなんてね、パニックになりかねない。
「お待ちしておりました、三名様でよろしかったですね?サヤ陛下から丁重にと伺っております」
「ブッ!」
思わず吹いてしまった。兄さん直々に予約したのか、それはヤバいんじゃないの?俺の事なんて言ってるんだろう。
「どうかなさいましたか?」
「い、いえ!お気になさらず!」
「では、係の者が部屋までご案内します」
「あ、はい」
「では、ツルギ・ササイ様こちらへ」
様呼びは心臓に悪い、王子ってバレてないよね?生きてたってなったら色々面倒だよ?さっき荷物を預かってくれたボーイがエレベーターまで案内してくれて、中に入ると押したのは31階。
「当ホテルのご利用誠にありがとうございます、本日からご利用されるお部屋は、トップスイートの部屋となっております」
「トップ!」
「スイート!」
ボーイさんの言葉に目をキラキラさせる女子二人、トップスイートってことはあそこか、兄さんも悪い人だな、今頃従姉さんに問い詰められてるんだろうけど。
「ローレニア王室御用達のお部屋でありまして、室内は豪華絢爛、室内のものはご自由に使用されて差し支えありませんが高級品も多数ありますのでご注意ください」
そうそう、無駄に高いツボとかね。
「王室!」
「御用達!」
ウキウキが止まらない二人、めっちゃかわいい。
そして最上階に着いた。
エレベーターが開くと、目の前には赤い絨毯が敷かれた通路、その奥に豪華なドア一つ。
「この階はこの部屋のみとなっております、エレベーターも専用ですので他のお客様の目も気にならないと思います」
「この部屋だけ!」
「専用エレベーター!」
マジで二人の反応が面白すぎる。
「それでは中へどうぞ」
ガチャ、と重たそうなドアをボーイさんが開けてくれると、目の前に広がったのは広々したリビング。
「わぁー!」
水咲さんが少女のように中に走って入っていく、啓は感動しているのか目はジトっとしたまま胸の前で手を合わせてキョロキョロして俺の後に続く。
「見てみて剣くん、大きいテレビ!」
そこ?確かに60インチぐらいあるテレビだけどさ。
「それより外見てみてよ」
大きな窓にかけられたレースのカーテンを開けるとそこには。
「わぁーー!!」
「すごいです」
目の前に広がるのは白い砂浜にエメラルドグリーンに光る透き通った海。下の方を覗き込むと波間に浮かぶヨットにホテルのプールにパラソルが幾つも見える。
まさに絶景だ。
「いつ見ても凄いな」
俺は大きな窓ガラスに張り付く二人の後ろで感傷に浸る。
最後にここに来たのは十年ほど前、あの時とは同じ景色でも見え方が違ってなかなかに新鮮だ。
「何かお困り事がありましたらそちらの電話でお申し付けください」
ベッド脇にある黒電話を指され、荷物をその近くへ置いてくれる。
「それでは、ごくつろぎください」
相違言い残してボーイさんは部屋から出ていった。
とりあえずっと、ちょっと長旅で疲れたしベッドに横になろーかなーと寝室に行ってみると。
「あれ?」
確か大きなベッドが二つあったと思った寝室にはクソデカクイーンベッド?が一つだけ設置されてあった。
内装微妙に変わってる??
てかさ!ベッド一つ!?
へぇぇぇぇ!!
と、驚愕している俺をよそに2人はと言うと。
「すごい!!」
「大きい!!」
テンションフルMAXのまま水咲さんはふっかふかのベッドに飛び乗り、啓も飛び乗りはしないがベッドの縁でポヨンポヨンしていて可愛い。
「どうしてベッド1つなんですか?」
急に真顔になった啓に変な目で睨まれる。
「知らないよ!!」
俺がどうこう言えないし。あ、もしや兄さん?!二人に初めて会った時、君たちの義兄になる男だ、みたいなこと言ってたし。あの野郎、変なところに気を回しやがって!
くーーーっ!と頭をガシガシと掻いていると。
「ま、いいですけど。元々剣くんと添い寝する気でしたし」
「ぶっ!!」
ちょいちょい心臓に悪いこと言うのはやめて頂きたい。こうなんかね、胸がキュッとなって苦しいの!
「なんで吹くんですか?」
かなり蔑んだ目で睨まれる。
「あ、いや、ごめん」
これには素直に謝るに越したことはない。
「ちょっと、私も一緒に寝るよ?」
水咲さんもここぞとばかりに主張してきて、なんとも言えない上目遣いで俺を見てくる。
はいはい、わかったから、なんか夜が怖いな・・・・・・。
俺は頭を押さえてベッドの足元にある1人がけのソファーに座る。
「ねーねー、剣くん」
「んー?」
ベッドで跳ねていた水咲さんが俺を呼ぶ。
「ショッピング行かない?」
「行きたいです」
ショッピング?まあ、何かしら必要なものがあるのかな?リゾート生活もしばらくあるし、俺には分からない女の子の事情もあるだろうし。
「別にいいけど?」
「じゃ、行こ!」
「です」
「え、今からぁ!?」
ちょっと休憩したいと抵抗虚しく水咲さんと啓に両腕を引っ張られて、近くの繁華街に繰り出すのであった。
●
着いたのは海辺の近くにある。
「え、ここ?」
水着屋さん。
その中に水咲さんは啓の腕を引っ張って一目散に入ってく。
追って中に入るとキャッキャと水着を物色する二人、空ではかなり頼りになる二人だけどやっぱりこういう時は女の子なんだなと実感する。
「これとか良くない?」
「攻め過ぎじゃないですか?」
水着というか紐のようなものを手に取っている水咲さん、さすがにあれは冗談だろう。
「そーかなー?」
冗談じゃないのかな?それを選びそうになったら全力で止めよう。
「啓ちゃんはどんなのがいいのぉ?」
「私はこういうのは疎いので・・・・・・」
水咲さんにいろいろこれは?と見せられているが、少し頬を赤くして恥ずかしがっているように見える啓、悩んでる姿も可愛い。
「じゃー、剣くんは?どんなのがいい?」
え?俺?どんなのってー・・・・・・。
「二人が可愛いと思うのでいいと思うけど?」
こういうの好みとかよくわかんないし、無難な返事をすると水咲さんに睨まれる。
なんで?
「剣くんは相変わらず察しが悪いねぇ、どんなのを着て欲しいかって聞いてるの!」
えっ、と隣でさらに頬を赤くする啓につられて俺もなんだか顔が火照ってしまう。
「ほら、どれがいいの!」
強引に腕を引っ張られ催促される。
「わ、わかったから!」
胸のサイズとか知らないよ?
チラッと水咲さんの胸を見てはこれかなー?と手に取っては戻しを繰り返す。自分か言うのもなんだけど察してくれないかなー。
啓のも見ようと胸をチラッと見るとまさかの目が合う。
「あっ・・・・・・、ごふっ!!」
気がついた時には時既に遅し、みぞおちにとてつもない激痛が走り立っていられなくなってその場にしゃがみ込む。
「け、啓・・・・・・?」
辛うじて見上げるととんでもなく蔑んだジト目で睨まれる。頭を掴んで膝蹴りしてきそうだ。
「どこ見ました?」
聞くの遅くない?まあさ、水咲さんよりは小さいけどさ、何がとは言わないけど。むしろ水咲さんのがデカいだけだと思うんですけど!気にしても仕方ないよ!なんてことも言えずに悶え苦しんでいると。
「あーあー、啓ちゃん。口より先に手が出るのは悪い癖だよ?」
悶えている俺をよそに水咲さんが注意してくれる、いいぞ、もっと言ってやれ!
「大丈夫?」
「息がぁ・・・・・・」
できません。
「でも、胸を見るのはどうかなー?色とか柄とか選んでくれたらサイズは自分で選ぶのに」
「へぇぇぇっ!!」
そんな、理不尽な!!
男にそんなことは分かりません!俺の察しが悪いだけだと思うけど!
しかし、選ばないと水咲さんにも殴られそうなので痛むみぞおちを擦りながら頑張って立ち上がり、水着を選び直すのであった。