第1話 兄からの手紙
ローレニア民主王国。
その南西に位置する空軍基地「西部方面隊本部・レニス基地」
俺はその基地の駐機場にベンチを出して宙を見上げていた。
このレニス基地、気候は乾燥していて周辺には荒野ってほどでもないが何も無い。
小さな街が近くにあるぐらいで、その何も無い土地に、どデカい滑走路が二本あるローレニア空軍の西部本拠地があり。今、俺たちはここの配属となっている。
「あ・・・・・・」
轟音と共に3機の無人機と暗灰色のSu-57が滑走路に降りてきた。主翼の両端は赤く塗られ、垂直尾翼にはフクロウのマーク、俺の従姉さんだ。
しばらく帰ってこないなと思っていたらどこに行ってたのだろうか、ゆっくりと誘導路を走って俺のいる駐機場に誘導されてくる。
「どこに行ってたんだろうね?」
後ろから声がして振り向くと、肩あたりまで伸ばしたサラサラとした焦げ茶色の髪を乾いた風になびかせるナイスバディで超絶美女、そして俺の二番機、吉田水咲さんがいた。
「嫌な予感がする・・・・・・」
俺の直感が頭の中でサイレンをけたたましく鳴らしていた、なんか面倒事に巻き込まれるんじゃないのか、そんな気がした。
いや、正確には既に巻き込まれている。
傭兵になった俺たちはグレイニア解放空軍を除隊後、従姉さんやヒナの誘いもあって、さも当然のごとくローレニア空軍に入隊。兄さんの反対とかも特になくバルセル戦線に参加していた。
つい最近まで領土問題で揉めているトーリークグラードとウィジクランとの極地戦闘にも参加していたし、あっちこっち飛び回っている。それはエルゲートにいた頃からあまり変わっていない。
まあ、まだ兄さんには面等向かって会ってないからかなに考えてるのかも分からない、従姉さんに上手く言いくるめられたのかな?
せめているなら、あいつら強いしこき使おうって魂胆か?酷い!休みたい!
だけど、エルゲートに帰る訳にも行かない俺達にはちょうど良かった、それならなんで俺は亡命したんだろ?ってなるがあの時とは状況が違う、詳しくは聞かないで欲しい。
「何があっても剣くんは私が守ります」
水咲さんの後ろに続いているのは水咲さんよりも焦げ茶の前下がりショートヘアーが可愛らしい少し小柄な美女、東條啓だ。ちなみに俺の三番機、感情を全く表に出さない・・・・・・、いや、変に敬語なだけで怒ると普通に怖い、殴ってくるし・・・・・・、可愛いから許しているのはここだけの話だ。
「なんですか?」
「あ、いや、なんでも!」
それに水咲さんも啓も俺のエレメントだけあってかなり察しがいい、変なことなんてできたもんじゃない。
ちょっと普段より長めに見つめたからって普段からジトッとした目をさらにジトつかせた視線を俺に向ける。怖い怖い。
そうこうしているとSu-57が俺の機体、深青色のF-35の横に駐まりコックピットから俺の従姉さんが降りてくる。
ヘルメットを取り、青く鮮やかなスカイブルーのロングヘアーを可憐になびかせるローレニア王室第三王女シール・メイセンジャー・ローレ、その美貌から国民の人気は絶大、背も高いし体つきも水咲さんといい勝負だ。
「ツルギちゃーん!」
だが、ブラコンって言うのかな?俺を見つけると手を振りながら走ってくる。
俺の前だと一国の王女があんなだよ?
「水咲さんたちの前でちゃん付けはやめてって!!」
顔を赤くしてプンスコと怒鳴り後ろの水咲さんを見ると酷い顔でニヤニヤと笑い、啓は俺から顔を背けて肩を揺らしていた。非常に失礼だ!!
「え?ツルギちゃんはツルギちゃんでしょう?」
ポカンと首を傾げる従姉さん。
「もうわかったよ・・・・・・」
他の人の前ではテキパキしていて王女の風格もあって威圧感凄いのにね、困っちゃう。
「で、なに?どこ行ってたの?」
無駄話していると日が暮れてしまう、早速本題を聞く。
「えぇ、従兄さんに呼ばれて王宮に行ってたんだけどね、ついでにツルギちゃんにこれをって」
はい、と小さな箱を俺に差し出しそれを受け取る。兄さんから?何だ?
「まぁ、それが本来の理由なんだろうけど」
フフフと笑う従姉、なんだろ?どういうこと?
恐る恐る箱を開けると手紙が目に入った、それを手に取り目を通す。
『シールに脅されたのは秘密だが、しばらく休暇をやる、エルゲートにいた頃からろくに休めてないだろう。「ミギナ第二王国」のリニカルという海に面したリゾート地に行くといい』
脅された?従姉さんをちらっと見るとニコニコしている、そういうことなんだろう。ミギナ第二王国と言えばこの西の大陸の西海岸に位置し、ローレニア王族ローレ家の親戚にあたるミギナ家が統治する王国だ。傀儡という程でもないがローレニアの属国で、ローレニアみたいに手当り次第戦争を仕掛ける国ではなく、役割としてはローレニアの西の防波堤になっている国だ。
そこのリゾート地に休養?裏がありそうで素直には喜べない。
再び従姉さんをちらっと見るとニッコニコで首を傾げている。
「なんて書いてたのかしら?」
「従姉さんに脅されたって」
「あら、今度問い詰めるとしましょうか」
言わない方が良かったかな?口は笑っているが目が笑っていない、従姉さん怒ると怖いからなぁ。まっ、兄さんがどうなっても俺は知ーらない。
そして、手紙をめくると旅行券が三枚入っていた。
どうやら嘘では無いみたい。
「どうしたの?」
「です」
俺の両肩から水咲さんと啓が顔を出してそのチケットを見つける。
「しばらく休みだってさ、兄さんがリゾート地の旅行券くれた」
その言葉を聞くと水咲さんはパァァァァァ!と今までに見た事ないぐらい目をキラキラさせて頬を緩ます。
「リ、リゾート!?」
すごく嬉しそうで俺まで頬を緩ませて笑ってしまう。
一方の啓は。
「やすみ??」
首を傾げている。どうした?
「休みってなんですか?」
「「え?」」
水咲さんと顔を合わせる。
た、確かに今までろくな休みなかったよ?無かったけどさ。あ!これは俺への当てつけだ!休みがなかったから休みという単語を忘れたというアピールだ!当てつけだ!
「嘘です。いいですねぇリゾート、温泉とかありますかね?」
真顔で言うな、まったく変なところでボケるんだから、啓らしいけどよ。
しかし、温泉かぁ、俺も入りたい。
「って、なんで三枚なのよ!」
怒ってる人もいる、えっとー、従姉さんも行く気だったの?
「シールさんはほら、赤翼として国防があるからじゃないですかね?」
水咲さんがすぐさまフォローを入れる。ローレニア最強たる戦闘機部隊、通常「赤翼」がホイホイどっかに行く訳にもいかないだろうしね。そして、水咲さんと従姉さん、表面上は仲良くしているが男の直感でわかる、多分仲良くない。
まあね、何かと理由をつけて常に俺と一緒にいたがる従姉さんと仲良くはなれないか、ことある事に俺に寄ろうとする彼女をいつもさりげなく離そうとしているし。
「そうだけどねぇ、でもそれならあなた達にもその一翼は担って貰ってるのだけれど?」
「私たちは非正規部隊ですので」
おっと、なんかバチバチ始まってしまったか?
二人とも口は笑っているが目が笑っていない、怖い!
どうしようとオドオドしているとガシッと左腕を掴まれた。
啓?
「今のうちに二人で行きませんか?」
「ーーっ!!!!」
今のは心臓止まるかと思ったぞ!ジト目を上手く上目遣いにして言ってくるもんだから久しぶりの心拍数バク上がり案件、さりげなく水咲さんよりは小さいがそれなりにある胸が俺の腕に当たっている。
「ちょっと啓ちゃん何してるの」
「抜け駆けは許しませんわよ」
こういう時は息ぴったり、冷たいトーンで啓に問いかける水咲さんと従姉さん、二人に睨まれた啓はビクッとしてスススッと俺の後ろに隠れる。
守らなくては!!
「まあまあ、二人ともそんなに熱くならないで」
何とか宥めようと試みるも。
「あーあ、せっかく久しぶりにツルギちゃんと寝れると思ったのに」
「ちょっ!!!!」
なんて事を言ってくれるんだ、めちゃくちゃ悪い顔をしている従姉さん、いったい何年前の話をしてるんだよ!!当の彼女は爆弾を放り込んでしたり顔だ。
「一緒に?」
「寝てた?」
あーあー、やばいやばい!俺の後ろに隠れていた啓も俺から離れ、二人にハイライトの消えた蔑んだ目で見られる。そりゃね、そこだけ聞けばやばいよ?
「いや、これはですね水咲さん、啓さん。十年以上前の話でして・・・・・・、そう、子供の時だって」
「でも、一緒に寝てたんだよね?」
「ま、まぁ・・・・・・」
おっしゃる通り!やめて!黒歴史を掘り返さないで!
「あの時は可愛かったなぁ。あぁ、今も可愛いけどね」
「従姉さん!」
ウインクするなっ!従姉さんも従姉さんで水咲さんに対抗しているのかな?本当にやめて欲しい。
「まあいいわ、先に休んでらっしゃい。私も仕事はちゃんとしないとね」
この人あとから来る気だ、どうしよう・・・・・・。
「ああ!ちょっと隊長、帰ってきてるなら早く教えてくださいよぉ!偵察に行きますよ」
遠くから従姉さんを呼ぶ声が聞こえた、従姉さんを隊長って呼ぶことはクロウ隊の二番機、リルスさんだ。
「もうあの子は本当に騒がしいわ。じゃあ、ゆっくり休むのよー」
背の高い従姉さんの隣に小柄なリルスさんがついて戦闘機に戻っていく、彼女はそばかすがチャームポイントで三人とはなんとも違う活発的な感じだが、どこか面倒くさがり屋で、だけど面白い人だった。
「何見てるんですか?」
俺の顔の真横で冷めたジト目を向けている啓。
「いえ!なにも!」
確かに従姉さんとリルスさんの後ろ姿を見ていたけど、そんなことは口が裂けても言えない。
「リルスさん?あの子も可愛いもんねぇ」
察しのいい水咲さん、女性は目線が分かると言うし、ホント俺を困らしてどうしたいのやら。「違うよ!」と否定はしておく。
「でも休みかぁ、啓ちゃん何するー?」
「とりあえずゆっくりしたいですね」
「そーだよねー。でも、買い物とかもしたいよね」
「したいです」
俺そっちのけでキャッキャと話を進める二人、買い物か、そりゃここ数年ショッピングとかて全くしてないし何かしら欲しいよね、大丈夫、金ならいくらでもある。んで、俺は何しようかなぁ、そう考えていると。
「剣くんは何したい?」
水咲さんがニコッと太陽のような笑顔で話を振ってくれる、ここはバシッと言わないと男が廃る!
「俺は二人と一緒に居られるならそれだけで!」
数秒の沈黙が流れる。お?
「あ、そういうのはいいよ」
「キザ過ぎます」
「ヒドイ!!」
もう泣きたいよ・・・・・・。
しかし、そうは言うものの水咲さんと啓は俺の困り顔を見て笑っていた。