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6 解決 Part 2 高校生活一番の思い出

 この地には、未解決の殺人事件があった。最初は6年前、次は3年前、そして、去年。

 この時期に、この付近で起こる殺人事件。

 被害者は全員女性。被害者たちには、なんら、接点はない。だけど、手口は似通っている。

 ドイルの推理では、同一犯の犯行だった。


「この事件は、どうにも、不思議だったんです。犯人の動機は、おそらく無差別な快楽殺人。死因は絞殺。最初の事件は通り魔的ですが、それ以降は多少、計画性が見られます。死亡推定時刻は、いつも深夜。ひろめにみつもっても、午後10時から午前2時の間です。そして、なぜか、俺たちの学校の修学旅行の時に起こっている。この旅館のすぐそばで。といっても、生徒も先生も、みんな旅館にいる時間だから、学校のみんなには、アリバイがある……」


「そういえば、去年、京都に宿泊した後、この旅館のすぐ近くの殺人事件のニュースが出ていました。怖いと、みんなで話をしていたんですぅ」


 小州先生は、ふるえながら、そう言った。 


「俺は、どうしても、この事件を未解決のままにしておきたくなかったんです。なにくわぬ顔で暮らし続ける殺人鬼を許せなかったんです」


「な、なるほど。許せないとは、その殺人犯のことだったんじゃな。わしゃ、てっきり、修学旅行からドイル君を追放したクラスのみんなのことを許せないのかと思ってしまったぞ」


 校長先生は、ほっとしたような顔で、汗をふいた。


「みんなに恨みなんてありませんよ。だって、あれは、俺が頼んだことですから。俺は、この事件を解決するため、先週、みんなに頼んで一芝居うってもらったんです。俺が、この旅館にいたら、犯人は警戒して動かないかもしれない。かといって、あんなに修学旅行を楽しみにしていた俺が、突然行かないと言い出すのも、不自然です。だから、ドイルに修学旅行に来てほしくないと、みんなに発言してもらうことで、俺が修学旅行に行かないのが自然な状況を作ったんです」


 ドイルがそう語るのを聞いて、校長先生は、うなずいた。


「なるほど。そうじゃったのか。わしはてっきり、久しぶりに、学内で重大イジメ事件発生だと思って、『ドイル君イジメ対策室』を設置したのじゃが」


「ありがとうございます。校長先生。そういうところは、迅速な対応で。でも、必要ありません」


「じゃが、すでに発注してしまった『イジメ・ダメ・絶対』ポスターは貼っておくよ。あのポスターのアイドルがかわいくて、多めに発注してしまったんじゃ。各教室に10枚は貼れるぞ?」


「そんなにあったら邪魔なので、全部、校長室にはってください」


 ドイルは、すげなく言った。校長先生は、そこで首をかしげた。


「それにしても、そこまでしなくても、犯人はドイル君が修学旅行に参加するかどうかなんて、わからないと思うんじゃが」


「いえ、ここまでする必要があったんです」


「ま、まさか、ドイル君。学内の者を疑っておるのか?」


「はい、残念ながら。6年前の殺人事件では、被害者のそばに、この旅館の備品が落ちていたんです。ですが、この旅館には、3件の殺人事件を実行可能な人も、わざわざ俺たちの学校が宿泊する時だけに犯行を行う動機がある人もいませんでした。となれば、一番あやしいのは、うちの学校の人たちです。でも、生徒が修学旅行に行く機会は、一度しかない。つまり、6年前、3年前、去年、すべての修学旅行に参加していたのは、先生がただけなんです」


 校長先生、小州先生、森先生は、ドイルのセリフに、びくっとした。


「じゃが、わしらは全員、いつも夜はこの旅館にいたんじゃぞ? しかも、その時間、全員、同じ部屋におるんじゃ」


「たしかに、そのとおりです。各部屋の窓からも外に出ることはできますが、同室の人に見つかってしまう。犯行時刻の頃、先生たちは、同じ部屋で打ち合わせや翌日の準備をしている。だから、先生たち全員にアリバイがあるんです。先生たち3人全員が犯人じゃない限りは」


 校長先生は、うろたえながら言った。


「な、なにを言い出すんじゃ、ドイル君。わしら3人が殺人犯なわけ、なかろう」


「そのとおりです。土井君。いくらなんでも、先生たちを疑うのはひどすぎるでしょう」


「そうです。ありえませんよ。私たちの中に、ひとりだって殺人犯がいるなんて、ありえません」


 先生たちは、全員、否定した。ドイルは、たんたんと言った。


「複数犯説は、可能性があるというだけです。犯行現場の様子から見て、犯人は、1人だと思っていました」


「じゃ、じゃあ、全員に、アリバイがあるんですよね? やっぱり、ありえませんよ。殺人犯なんて。校長先生も、森先生も、みんないい方たちですよ。長いつきあいなんですから」


 小州先生は、ほっとしたように言った。でも、ドイルは言った。


「最初は、俺も、そう思っていたんです。だけど、先生たち、見まわりはひとりで行いますよね?」


 校長先生は、ぎくっとした様子で言った。


「た、たしかに、そうじゃが。見まわりで、ひとりでいるのは、長くてもほんの30分程度の時間じゃぞ?」


「犯行現場は、すべて徒歩5分以内の場所です。30分あれば、十分なんです」


「じゃが、見まわりをするのにも、時間がかかるんじゃ。誰にも気がつかれずに、外にでて、戻ってくるなんて、無理じゃよ」


「たしかに、校長先生のように、生徒とおしゃべりをしながらまわっていたら、無理です。でも、俺は、3年の先輩たちに、去年の修学旅行の話を聞いたんです。去年の先輩たち、いたずら好きだから。先生たちにドッキリをしかけようと、待ち構えていたらしいんですよ。でも、見まわりは、最後が午前0時だったと言うんです。日付が変わる頃に小州先生が回ってきたのが最後だったと。でも、本当は、午前1時にも見まわりがあったはずですよね? そして、午前1時の担当は、去年、病気のクラス担任の代わりに修学旅行を引率していた森先生、あなたです」


 部屋の中の全員が、森先生を見た。

 森先生は、むしろ落ち着いた様子で、言った。


「土井君、そんな証拠もない憶測で、疑わないでほしい。去年も今年も、午前1時の見まわりは、手をぬいて、部屋の中をちゃんと確認しなかったから、生徒達は気づかなかったんだろう」


「いいえ。森先生、あなたは昨夜、午前1時の見まわりにはいかなかった。かわりに浴場の窓からこの旅館を抜け出て、そして、こっそりと戻ってきた時に、中からあの窓のカギをしめたんです。あなたの手の傷は、窓を閉める時ではなく、窓枠を乗り越える時に、切ったものです。あの窓、好都合なんですよね。簡単に外に出ることができるけど、生け垣があるから外からは見えない」


「そ、そんなことは……。た、たしかに、昨夜、窓はしめたよ。その時に、手を切ったのはたしかだ。だけど、それが、外にでた証拠にはならない」


 反論しようとする森先生に、ドイルは指摘した。


「では、なぜ、密室の話をした時に、先生は知らんぷりをしていたんですか? 先生は、あの風呂場の窓のカギがあいていたことに、気がついていましたよね? さっき、校長先生が、みんなが外に出たのかもしれないと言った時に。俺が、みんなが外にでたのなら窓のカギがあいているはずだと言った時に。気がついていましたよね? 何も言わなかったのは、隠しておきたいことがあったからですよね?」


「……そ、そこまで、頭がまわらなかっただけだ。窓のカギがあいていたかどうかなんて、おぼえていない……」


「カギがあいていなければ、カギを閉めることはできないんです。森先生、窓のカギを閉めたことは、否定しなかったですよね?」


「窓のカギを閉めたとして、窓の外に出たことにはならない! それに、窓から外に出ていたとして、それが、殺人の証拠にはならない! だいたい、見まわりの時間に外に出ることができたというだけの理由で、どうして殺人犯だと疑われないといけないんだ!」


 ドイルは、あっさり森先生の主張を認めた。


「もちろんです。夜中にひとりで外に出たこと。それだけでは、犯人だということはできません。犯行が可能だというだけでは、犯人とはいえません。だから、俺はこの計画をたてたんです。……だから、証拠なら、すでにたくさんありますよ。昨夜起きた、殺人未遂事件の証拠ですが」


「なに?」


「俺がなぜ、修学旅行からの追放を演出したんだと思いますか? 犯人を泳がせ逮捕するためです。昨夜、森先生は、この旅館を抜け出て、事前にSNSで呼び出した女性を殺害する予定でしたね? 背後から首を絞めているところ、バッチリ、桜田君に動画を撮られてますよ? すでに、ユーチューブにあがっているはずです」


「な……」


 校長先生が、あわててスマホを取り出した。


「ほ、本当じゃ! 桜田君の、New動画……『殺人鬼を捕まえろ!』。すでに、再生回数が10万回超えておるぞ!? いつもの1万倍じゃ! それに、このサムネ。被害者はかくしてあるが、森先生はバッチリ映っておる……」


 校長先生は、そこで、動画の再生を始めた。


『チェキラッチョ―! バタバタバタフライなチェリーダです!』


 痛々しくおバカな桜田君の声が流れだした。


~~~

「今日は、俺たち、名探偵ドイルといっしょに、殺人鬼を捕まえるぜ。ほら、ドイル、こっちゃ見ろ」

「桜田君、静かに。まだ、ターゲットは動き出していないけど、深夜に騒いでいたら、俺たちが通報されちゃうよ」

「わりわり」

~~~ 


 ドイルは、森先生にむかって言った。


「なぜ、みんなが、姿を消したんだと思いますか? 殺人犯を捕まえるためです。実は、昨日の夜、先生があの風呂場の窓から旅館を抜け出た後、みんなで協力して待ち伏せをしながら、森先生の行方を追っていたんです」


「なんと、そうじゃったのか!」


 校長先生のスマホでは、桜田君が、小声で、ささやいている。


~~~

「これから、殺人犯が来ます」

 その後、場所が変わり、画面には、ベンチが映っている。そして、ベンチに座る女性。

 その後ろから、近づく男……森先生だ。そして、男は、さっと、背後から首にロープをかけ、締め上げる。被害者は苦しみ、暴れるけど、どうしようもない。

 その時、向こうから、バカップルが大声でイチャイチャしながら歩いてきた……。

~~~


「先生が、あの女の人を殺そうとしたところで、あんな場所をイチャイチャ歩いてきたバカップルいたでしょ? そのせいで、先生は、あわてて逃げていきましたけど。あのバカップル、実は元木君と佐々木さんです。元木君は髪型を変えて、佐々木さんもウィッグをかぶっていたから、暗がりでは、わからなかったですよね?」


 校長先生が、動画を見ながら、感嘆の声をあげた。


「なんと。全然わからん。この元木君のギャル男風の服は、どうしたんだね?」


「昼間、佐々木さんが購入していたらしいです。こんなことをする必要はないんですが、佐々木さんは、元木君をギャル男に変身させたいとずっと狙っていたらしくて。この機に乗じて、実行したらしいです。ちなみに、その動画で、森先生が逃げていく時に、後ろから追いかけて転んでいたのは、岡本君で、その岡本君につまづいて転んでいたのは、郷田君です。卯西君たち運動神経のいい人達は、別の地域に配置していたので、現行犯逮捕はしそこねました。でも、証拠は十分につかめたので、刑事さんに連絡して、朝、ここで捕まえることにしたんです」


 ドイルの説明を聞き、小州先生が、人間不信になったように、つぶやいた。


「じゃあ、まさか、本当に、森先生が殺人を? そんな、信じられません……。……やっぱり、裏切らないのは、筋肉だけ……」


 実は、小州先生は、人間不信エネルギーを筋トレへの情熱に変換することによって、すばらしいマッチョボディをたもっているのだ。次回のボディビル大会は、優勝まちがいない。

 ドイルは、うなずいた。


「地元では、温厚で真面目な教師。小さな事件やトラブルさえ、起こしたことはない。むしろ、うちの学校で唯一の常識人で、まともなツッコミができる先生です。だけど、森先生、あなたは、どこかで知ってしまったんだ。殺人の快楽を。そして、あなたは、修学旅行のたびに凶行を犯していた……」


 森先生は、笑いながら、首をふった。


「ふふっ。まいったな。さすが名探偵ドイルだ。それにしても……。まさか、よりによって、あのおバカ底辺ユーチューバー桜田君にビデオをとられるとはね……」


 ちょうど、校長先生が再生している動画の最後で、桜田君の声が響いた。


『殺人鬼には逃げられちゃったけど。後で、名探偵が逮捕するとこ、撮るべや! この動画が気に入ったら、チャンネル登録よろしくー! チェキラッチョー! バタバタ!』


「……これ以上の屈辱は、ないよ」


 森先生は、首をふりながら、ため息をついた。


「森熱史、今日未明の殺人未遂事件で逮捕する」


 刑事が森先生に手錠をはめ、連行して行った。


  ・

  ・

  ・


 森先生が逮捕され、集められた人々が、宴会場から去った後。校長先生が、感動したようすで言った。


「ドイル君。さすがのお手並みじゃった。修学旅行の直前に、先生たちの見まわりスケジュールを聞いてきたのは、このためじゃったんだな?」


「はい。約束通り、見まわりのスケジュールを守ってくれて、ありがとうございます」


「もちろんじゃ。わしは、てっきり、今年もみんながドッキリをしてくれるのかと思って、期待して見まわりをしてたのに、何もなくてがっかりしてたんじゃ。それにしても、お見事じゃ」


 ドイルは、頭をふった。


「いえ。今回は、けっこう大変でした。俺ひとりだったら、簡単だったんですが。みんなが、どうしても、いっしょに殺人犯を捕まえたいと言ってきかないので、全員参加の計画をたてたんだけど……。みんな、勝手に、計画にないことをしでかすんだから。絶対に先生たちに見つからないように、こっそり抜け出るように言ったのに、勝手に、部屋にあんな演出をほどこしているし」


「なるほど。あの人形は、生徒達の演出じゃったのか。すっかり、肝を冷やしたわい」


「はい。みんな、文化祭かなにかと勘違いしているみたいです。人形の幽霊の話をもとに人形を作ったのは、まぁ、良かったんですけど。倉木さん達なんて、血の池に触発されちゃったらしくて。血のダイイングメッセージを描こうとして、タライいっぱいの赤い絵の具を派手にこぼして、布団が悲惨なことになってますよね。あれ、弁償しないと」


「あれは、絵の具じゃったのか。すっかり血だと思っていたよ」


「絵の具に糊をまぜたものです。倉木さんの手帳に作り方のメモがのっていました。たしかに、見た目はよくできていました。臭いがないので、本物の現場を知っている人間は、すぐに違うとわかるんですが」


「ドイル君は、違いがわかる男じゃね」


 校長先生は、ウィンクしながら、親指をたてた。普通はあまり知りたくない違いだと、つっこんでくれる人は、ここにはいない。


「それに、岡本君たちの部屋の時計が30分進んでいて。そのせいで、予定より早く計画をスタートしそうになっちゃったらしいんです。まだ、小州先生の見回りが終わっていないのに。偶然、佐々木さんが気づいて止めてくれたので、助かりましたけど」


「なるほど、それで、佐々木さんと岡本君がもめていたんじゃな。青春のドロドロ劇じゃなくて、よかった、よかった」


「その時一緒にいた卯西君たちは小州先生には発見されずに逃げたみたいです。小州先生が、おばけを信じるタイプでよかったですよ。去年の先輩たちが、幽霊のふりをして小州先生を心底怖がらせていたおかげもあるけど。小州先生が聞いた物音って、ぜったい、みんなが逃げる時にたてた音ですから。それに、勝手にカッターの刃なんて窓に置いちゃって。たしかにおかげで証拠は増えたけど。森先生があやしんだら困るのに」


「なるほど。そういうことじゃったのか。ところで、みんなはどこにいるんだね?」


「あらかじめ予約しておいた別のホテルに宿泊しています。みんな朝まで起きて騒いでいたから、今頃、寝ていると思います。桜田君も、結局、爆睡中でした」


「そうか、そうか。それでこそ青春じゃな」


 やたらとものわかりのいい校長先生は、満足そうにうなずいた。


 森先生が逮捕されたにも関わらず、校長先生は、修学旅行を計画通り続行すると決めた。

 だから、その後、ドイルはみんなと一緒に京都から奈良へと移動し、残りの修学旅行を楽しんだ。


 無事に全員(森先生を除く)、学校に帰ってきた後。クラスの誰もが、この修学旅行は、高校生活で最高の思い出になったと語った。

 もちろん、ドイルにとっても、一番の思い出になった。




End.


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― 新着の感想 ―
[一言] 桜田君、逮捕するとこ撮れてないじゃん だから底辺ユーチューバーなんだ もっと頑張れ
[良い点] これまで出会った題名という題名の中で一番好きな題名です! ・題名のテンポが良い(題名のテンポって何だよ、だ感じなんですけど、とにかくリズムが好きです) ・題名だけであらすじが想像できる ・…
[一言] 上手いっ! 此れは予想不可能でしたW
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