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5 解決 Part1 犯人は、俺だ!

 旅館のうす暗い宴会場に、不安げな3人の教師、そわそわと落ち着かない3人の旅館の人達、そして無表情な2人の刑事が集まった。


 ドイルは、ぐるりと部屋に集まった人達を見まわし、落ち着いた声で言った。


「修学旅行で、20人もの生徒が一夜にして全員消えてしまった。しかも、この旅館は密室の状態。一見、不可解で、不可能のように見えるこの事件。しかし、真相は、意外と単純です。そして、みんなを消した人間は、この部屋の中にいます」


 集められた人々が、どよめいた。校長先生と小州先生が、信じられないという様子で、ドイルにたずねた。


「犯人がこの中にいる? ド、ドイル君、それは、どういうことじゃね?」


「これは、殺人事件なんですよね? ということは、殺人犯がここに?」


「ま、まさか、当館の従業員を疑ってはいませんよね……?」


 旅館の女将が、うろたえた様子で、そうドイルにたずねた。


「安心してください。旅館の方たちは、この事件には無関係です」


 旅館の人たちが、ほっと、胸をなでおろした。

 校長先生が、おどろいたように言った。


「しかし、それでは、ドイル君。残りは、わしら、教職員3人しかいないじゃないか」


 ドイルは、うなずいた。


「はい。先生方3人と俺だけになりますね」


「でも、ドイル君は、ここに宿泊していなかったのだから、関係ないじゃろ?」


 校長先生が首をかしげているが、ドイルは、校長先生の言うことを無視し、ゆったりと歩き回りながら、言った。


「一番の謎は、一見、この旅館が、密室の状態にあることなんです。20人の生徒が全員、深夜から朝までの間に、旅館から消えてしまった。監視カメラがある玄関からは誰も出入りしていない。ただし、窓から出入りはできるから、生徒達が外に出ることは可能……」


 校長先生は、うれしそうに叫んだ。


「そうか! 外からは入れんが、中からは外にでれる。実は、みんな、外に出て、徹夜で遊んでいるんじゃな?」


 だけど、ドイルは言った。


「窓のカギがあいていれば、その可能性があります。だけど、窓はすべて中からカギがかかっているんです。生徒達が全員窓から外に出たのなら、少なくとも一か所の窓のカギは、あいたままになっているはずです」


「そうじゃなぁ……」


 校長先生は、意気消沈したようすになった。小州先生が、つぶやいた。


「や、やっぱり、みんな、殺され……」


 校長先生が、そくざに否定した。


「あの子達は、キタキツネよりスマートで、ヒグマよりパワフルな子たちじゃ。きっと、元気に生きておる!」


「でも、外には出ていないんですよ? だけど、館内のどこにも、いないんですから……」


 真っ青な小州先生に、森先生が冷静に言った。


「ですが、殺されているのなら、なおさら、どこにも遺体がない状態というのは、おかしいじゃありませんか。20人もの生徒ですよ? もし遺体を小さく解体したとしても、それでもかなり大きなスペースが必要になります。発見できないはずがありません」


「な、なるほど……。ますます、謎が深まるのう」


 小州先生と校長先生は、つぶやいた。


「やっぱり、幽霊にさらわれたのかも……。悪霊に異界に連れ去られて……」


「あるいは、血の池の呪いかもしれんのぉ」


 ドイルは、きっぱりと言った。


「幽霊も、呪いも、関係ありません。さて、まずは、この密室の謎について説明しましょう。この密室状態を作りだしたのは、それは、あなたです。森先生」


 ドイルは、森先生をゆびさした。森先生は、うろたえた。


「な。土井君、なぜ、そんなことを?」


「先生、手のひらを見せてください」


「な、なぜ、そんなことをしろと?」


「先生、手のひらに、切り傷がありますよね? 風呂場の窓枠のところにあったカッターの刃で切った傷が」


 森先生は、答えなかった。

 校長先生が、ドイルにたずねた。


「で、では、生徒達が消えたのは。みんなを消した犯人は、森先生なのかい? ドイル君」


 森先生が、そくざに否定した。


「僕は、消えた生徒達のことなんて、何も知りません!」


 ドイルは、はっきりと、うなずいた。


「はい。みんなが、なぜ、どこに消えたのか、森先生は知りません。森先生は、午前1時過ぎに、何も知らずに、カギがあいていた風呂場の窓を中から閉めたことにより、この密室の状態を作りだしただけです。みんなの体は、別の人間の企みによって、その時刻、森先生の午前1時の見まわりの時には、すでに、この旅館の外にあったんです」


「そ、そうか。では、いったい、その、みんなを消した犯人は、誰なんじゃね?」


 校長先生の質問に、ドイルは答えた。


「みんなを消した犯人は……それは、俺です」


「き、君じゃと!? ドイル君!?」


 びっくりして校長先生は叫んだ。ドイルは、顔色一つ変えず、たんたんと言った。


「そうです。おかしいと思いませんでしたか? 校長先生。まるで、俺を名指ししているかのような、あの、みんなの部屋」


 森先生がつぶやいた。


「たしかに、人形の傍にあった漬物、壁のダイイングメッセージ、どちらも、土井君のことをさしていた」


「そうです。それに、これでもかと置かれていたのは、俺がみんなに頼んだ、修学旅行のお土産です。そして、今朝、校長先生が電話をかけてから、30分もしないうちに、俺は到着しました」


 校長先生は、青ざめた。


「そ、そういえば、妙に早く君は、到着したのぉ……。たしか、仕事で福岡に行くと言っていたのに……」


「ええ。なぜなら、俺は、すぐそばにいたんです。実は、俺はこっそり昨日から京都にいたんですよ。ある目的のために」


 校長先生は、うろたえた様子で、ドイルにたずねた。


「じゃが、ドイル君。いったい、なぜ? なぜ、みんなを消すなんてことを? それに、みんなは、今、どこにおるんじゃ? みんな、無事なんじゃろうな?」


「それは……」


 ドイルは、ゆっくりと落ち着いた声で言った。


「俺は、どうしても、許せなかったんです」


 そして、ドイルは、すべての説明をはじめた。


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