2 そして誰もいなくなった Part1 校長先生の話
修学旅行先は、京都・奈良だった。
修学旅行1日目の夜は京都で宿泊だ。そして、さっそく事件は起こった。
「朝、起きたら、全員いなくなっていたんじゃよ。しかも、生徒達の部屋には、不気味な人形や血で描かれた記号があるんじゃ。ああ、いったい、どうすれば」
小太りで両サイド爆発白髪頭の校長先生は、ろうばいした様子で、ドイルにそう語った。
ちなみに、校長先生は、一時期、何を血迷ったのか、頭の半分だけを黒く染めていた。
「校長、マジやめろだし~」「その頭の校長とドイルがいる学校とか、殺し合いさせられるのまちがいないっしょー」と生徒達の大ブーイングを受けて、やめたんだけど。その後は、全体を緑や赤に染めていた。
そしたら、先月、校長先生は呼び出されて、「学校の評判にかかわるので、そんな髪の毛の色では修学旅行への参加は認めません」「頭髪は、自然な色であるべきです。許されるのは、黒、白、茶、金までです」と、生徒達から厳しい頭髪指導を受けて、白に戻すことになったのだ。
「うちの生徒は、きびしすぎるんじゃー」と、校長先生は、なげいていた。
さて、ここは、宿泊先の小さな旅館。かなり古くて、いまにも文字通りにつぶれそうなボロい旅館だけど、ドイルの高校は、修学旅行の時には、いつもこの旅館を貸し切りで利用している。
名探偵がいれば、事件のにおいしかしない、貸しきり宿泊だ。
修学旅行から追放されていたドイルは、今朝、校長先生から、生徒達が全員消えてしまったという連絡を受けて、ここに駆け付けた。
今、ドイルは、校長先生から、くわしい事情を聞いているところだ。
「落ち着いてください。校長先生。ちゃんと、はじめから説明してください。まず、消灯は10時だったんですね?」
「ああ。10時消灯で、その後は、わしと森先生と小州先生の3人が交代で見回りをしたんだよ。10時に森先生、11時にわし、12時に小州先生、午前1時に森先生が見回りをしたんだ」
「では、まずは、その時の様子を教えてください」
「では、まずは僕から」
森先生は、話はじめた。
「10時消灯だったけど、寝ていた人は、まだほとんどいませんでした。早く寝るように注意しながら、まわりましたが。その時は、特に気がついたことはありませんでした」
次に校長先生が話しはじめた。
「わしが回った時も、特に異常はなかったんじゃ。気になったことと言えば、元木君と郷田君がちょっと言い争いをしていたくらいじゃな。たしか、「おい、元木。こんな日に、ずっとゲームなんてしてんじゃねぇよ」と、郷田君が言ったところで、佐々木さんが、「郷田こそ、今日、昼、不良とケンカしてたじゃん。そういう余計なこと、マジすんなだし」と言っていたんだよ。じゃから、わしは、「修学旅行で他校とケンカ。青春じゃの」と言ってたんじゃ」
そこで、森先生がたずねた。
「校長先生、百歩ゆずって郷田君のケンカをとがめない点はいいとして。元木君と郷田君の部屋に、なぜ、女子の佐々木さんがいるんですか? 消灯後ですよ?」
やたらとものわかりのいい校長先生は言った。
「修学旅行なんじゃ。ちょっと異性の部屋に忍びこむくらいふつうじゃろ?」
「そこで注意をしないと、我々が見まわりをする意味がないのでは? 特に佐々木さんの厳格なご両親からは、事前にお願いされていますから。「うちの娘は、ギャル雑誌に影響を受けていて、不安でしょうがないので、ちゃんと見張っていてください」と。しかも、佐々木さんが元木君を狙っていることは、みんな知っていることですよ?」
という森先生の言葉を無視し、校長先生は話を続けた。
「それから、女子の部屋で、倉木さんと牛田さんが会話をしておったな。「ドイル君、みごとに修学旅行から追放されていましたが。ついつい、ざまぁを期待してしまいます」「やめてよ。そういう不気味なこと言うの」と」
「校長先生、ドイル君に、それを言うのは……」
森先生がそう言ったけど、ドイルは、校長先生に言った。
「気にしないでください。正確な情報を知りたいので、すべて話してください。では、校長先生、続きを」
「うむ。あと、牛田さんが言っておったな。「今日、怖い所ばかり回ったから、今、なんだか、すごく怖いんだけど」と。なにやら、あだしのや血の池をまわったらしいんじゃ」
「なるほど。平安時代から風葬地としてしられる化野、嵯峨天皇のお墓の近くにあって、見ると呪われると言われる血の池、ですか。嵐山のオカルトめぐり、と言った感じのコースですね。きっと、ホラーが好きな倉木さんが選んだんでしょう。校長先生、他には?」
「後は、男子の部屋で、桜田君がスマホで動画編集しながら、卯西君に「今日、俺、100人の女子に声かけたんだぜ。すげぇべや?」と言っておったな。じゃから、わしが、「そりゃすごい。何人に連絡先もらえたんじゃ?」と、たずねたら、沈黙しておったな」
「連絡先をもらっても、教師には言いませんよ。ナンパをしていたと知られたら、ふつうは怒られますから。ふつうは」
と、森先生は言ったけど。みんな知っている。生徒の夢をいつでも応援する校長先生は、桜田君のナンパを応援することはあっても、叱ることはないと。
だから、桜田君がもらえた連絡先はゼロだったに違いない。これは、誰にでもできる推理だ。
ちなみに、桜田君のユーチューブのチャンネル登録者数は1桁だけど、そのうちのひとりは、校長先生だ。動画再生回数の半分くらいも、校長先生だ。
「それで、卯西君が、彼らしく正直に、「桜田は、ほんと人気ないな。動画もダサいしさ」と言ってしまっての。わしが、「そんなことはないぞ。桜田君の動画は、わしの感性にビンビンくるナウさ爆発動画じゃ」と言って、なぐさめたら、なぜか桜田君が、叫んで頭から布団にダイブしておった」
「そりゃ、校長先生の感性ですからね」
森先生が、一言コメントをした。
「それくらいじゃの。わしが見回りをしたときには、異常はなかったんじゃ」
ドイルは、先生たちに、たずねた。
「では、次に小州先生のお話をききたいんですが。小州先生はどこに?」
「小州先生は、旅館の人達といっしょにまだ館内を探しておるよ。ひょっとしたら、みんな、かくれんぼをしているだけかもしれんから」
その時、悲鳴が聞こえた。
「キャーー!」
「小州先生の声じゃ!」
「あっちは、お風呂場の方です」
ドイルと先生たちは、急いでお風呂場に向かった。