1 名探偵、修学旅行から追放される
やつの名は、土井流。通称、名探偵ドイル。高校2年生にして、超多忙な名探偵。
ドイルは、小学1年生の時にウサギ殺しの犯人を捕まえ、中学の時には本当の殺人事件を解決してしまった天才名探偵だ。
高校生になってからは、全国、そして世界を飛び回り、ほぼ週1のペースで、殺人事件を解決している。事件がやつを呼ぶのか、やつが事件を呼ぶのか、そのナゾだけは、誰にも解けない。
そんな名探偵だ。
さて、そんなドイルは、実は、ごく普通の高校生活をみんなといっしょに過ごしたい、とずっと思っていた。
ドイルは、過疎地の小さな高校に通っている。1学年20人くらいしか生徒がいない小さな学校だ。
校長がドイルのじっちゃんの知り合いで、出席や色んなことに融通をきかせてくれるため、ドイルはこの高校に通っている。
ドイルが通信制の高校を選ばなかったのは、みんなと高校生活を送り、たくさん思い出をつくりたかったからだ。
でも、高校に入ってからは、事件の解決でいそがしすぎて、ドイルは学校のイベントに全然、参加できていない。
体育祭も文化祭もろくに参加できなかった。せめて、修学旅行だけはちゃんと参加して、高校生活の思い出をつくりたい。
そう思っていたドイルは、修学旅行の日だけは、すべての依頼を断って、用事をいれずにいた。
その、待望の修学旅行が近づいたある日。久しぶりにドイルが通学したその日のホームルーム。
「先生、ちょっと、修学旅行について話し合いたいことがあるんですけど」
学級委員の岡本君が、手をあげて、そう発言した。
岡本君は、見た目も言動もすべて優等生タイプで、みんながいやがる雑用や学級委員を進んでやってくれるので、みんなよろこんで岡本君に仕事を押し付けている。
「いいよ。じゃあ、少し時間をとろう」
担任の森先生は、あっさり許可した。
「じゃあ。修学旅行について、意見がある人、発言してください」
岡本君がクラスのみんなに、そうたずねると。
「はい!」
全国大会に出るほど足が速い陸上部エースの卯西君が手をあげ、元気よく発言した。
卯西君は、考えたことをウサインボルトを超える速度で口に出すけど、性格は良いやつだとみんなに思われている。
「修学旅行には、ドイル君には参加してほしくありません!」
それを聞いて、あぜんとしたのは、ドイルと、担任の森先生だ。
「な、なにを言ってるんだい? 卯西君?」
担任の森先生は、耳を疑っている様子で、そう言った。
この小さな高校には、いじめなんて起こらず、みんな仲良し……と、先生たちは信じている。
だけど、今日は、いきなり元気に、爆弾発言だ。
でも、考えなしの卯西君だから、しかたがないか。と、森先生が考えたところで。
他の生徒たちが、口々に発言しだした。
「ドイル君には、来てほしくないよ。だって、名探偵がホテルや旅館に泊まると、ぜったいに殺人事件がおこるんだもん」
オタクの元木君が、そう言った。
元木君は、純度100%のオタクなのに、目にかかっている前髪をあげると実はアイドル並みの美少年だと、校内全員に知られている。でも、二次元にしか興味がないので、こっそり乙女のハートをブロークンしまくっている、いけずな男だ。
「元木君。それは、アニメやマンガの中の話であって、現実には、そんなことはありません」
森先生は、そうたしなめた。でも、生徒達は黙らない。
「そんなの、わかんねーだろ」
教室の後ろのほうから、机に足をのせたまま、郷田君がどなった。
郷田君は、不良ファッションに身を固め、信念をもって一人暴走族をやっている努力型の不良だ。郷田君は、がんばって自分でバイクを改造して、毎晩、爆音を響かせて1人で暴走している。このあたりに他に不良はいないから1人だけど、へこたれない。
郷田君は、だいたい午後9時から10時くらいに暴走するので、この辺りの人は「ほら、郷田のお兄ちゃんのバイクの音が聞こえてきたから、もう寝る準備をしなさい」と、子どもに言うのが習慣になっている。
ちなみに、郷田君は、このバイクで毎日通学しているので、朝も郷田君のバイク音を時計代わりにつかっている人たちがいる。
「事実は小説より奇なり」
ぼそっと、そう言ったのは、小説好きの倉木さんだ。
倉木さんは、とにかく暗い感じでぼそっと話す。文化祭では、悪役令嬢劇の脚本を書いてくれたけど、本当は、グロくてスプラッターなホラーが趣味らしい。
「やっぱ名探偵といっしょに泊まるとか、なまらびびるべや。ドイルと旅行だけは行きたくないしょ」
バスケ部の桜田君がそう言った。
桜田君の夢は、将来都会に出てナンパをしまくるユーチューバーになることだ。その夢を力強く語っては、おばあちゃんをなげかせている。
ちなみに、バスケ部の部員は2人しかいなくて試合ができないけど、それは誰も気にしていない。
それと、桜田君は、自分では東京と同じ標準語をしゃべっているつもりだから、方言がかわいいなんて、言っちゃだめだ。
「とゆーか、毎週殺人事件に遭遇してる人とか、ありえないんですけど」
ド田舎でもいつもギャル系ファッションでがんばる佐々木さんが、お化粧をしながら、そう言った。佐々木さんの洋服やアクセやコスメは、渋谷のマルキューで売っているのと、たぶん同じだ。
「ネットがある時代に生まれて、マジラッキー。じゃなきゃ、あたし、生きていけないんですけど」という佐々木さんの意見には、この辺りの誰もが同意している。
あと、佐々木さんの成績は学年1位だ。
そして、いつでもジャージなジャージー牛牧場の看板娘で学校一番の美少女、牛田さんが言った。ちなみに、この辺り、人より牛の方が多い。
「ほんとうは、ドイル君が事件を起こしているんじゃないの? 超能力とかで」
ついに、担任の森先生が、大きな声で叫んだ。
「君たち! いい加減にしなさい! そんな迷信のような、よくわからないことを言って、土井君に悪いと……」
「いいんです、先生」
そこで、ドイルは立ち上がって発言した。ちょっと、よわよわしい声で。よく聞くと、ちょっとふるえている声で。
「俺、実は、その日、仕事があって、もとから、参加、できない、予定だったんです」
それから、ドイルは、クラスのみんなを見渡して、元気よく言った。
「だから、俺は修学旅行には参加できないけど、みんな、楽しんできてくれよな。お土産、頼んだぜ?」
ドイルの目には、ちょっと涙が浮かんでいた。
こうして、ドイルは修学旅行に行かないことになった。
このクラスには、実は、殺人鬼がひそんでいるのに。




