事情聴取
ベロニカさんが買ってくれた二杯目のレモネードを飲みながら、サービスエリアのベンチに座って休んでいると、段々と心も落ち着いてきた。自分と同い年くらいの女性に、至れり尽くせりで付き添われるのは情けないところもあるけど、死体を見たんだから仕方ないと割り切ることにする。冷静に対応した薔子さんたちは、ちょっとオカシイと思う。
通報を受けて警察が到着した頃、その薔子さんが何食わぬ顔で戻ってきた。どういう訳か、ズボンの裾に土が付いている。
「何をしてたんですか??」
「青年は知らなくていい事さ」
あからさまに誤魔化されて、何となく嫌な予感がした。やがてそれは的中することになる。
サービスエリアの裏手に戻ると、既に現場には規制線が張られていた。集まってきた野次馬をかき分け、薔子さんは現場の方へズンズンと進む。
「第一発見者を連れて来た。この三人で全部だ」
「ご苦労様です。事情聴取がありますので、しばらくこちらに」
制服警官の指示により、僕たちは木陰で待機させられることになった。規則的に煌めくパトカーの赤色灯が、言い表し様のない不安を煽る。
誰が教えてくれたのだったか、死体の臭いはコーヒーと同じだそうだ。だから僕はコーヒーが飲めない。あの日を、大切な人を失った日のことを、どうしても思い出してしまう。
「――三千院警部、到着なされました!」
不意に軽快なクラクションが響いて、僕はそちらに目を向ける。滑るように停車したパトカーの中から、高級そうなスーツを身に纏った、一人の男が現れた。自信満々の足取りで近付いてきたかと思えば、胸ポケットからいきなり警察手帳を取り出し、見せ付けるかのごとく僕たちの目の前に掲げてみせる。
「ボンジョルノ! キミたちが第一発見者だね?」
「そうですけど、あなたは……」
「ボクは三千院奏芽。三十歳で警部に上り詰めた、広島県警の超エリートさ! 悪いけど話を聞かせてもらうよ」
洗練された動作で前髪をかきあげる。歌舞伎町のホストにいそうな感じだ。僕の中にあった「警部」のイメージと、あまりに雰囲気が別物で、僕は思わず瞬きをした。隣ではベロニカさんが言葉を失い、薔子さんはこのタイプが苦手なのか、警部から露骨に目を背けている。
「ピアチェレ、ボーイ。名前は?」
「えっと、東雲伊吹。大学生です。よろしくお願いします」
「伊吹クンね。次、そちらの茶髪ガール?」
「ベロニカ・イングリッシュと申します。よしなに」
「清楚な娘は嫌いじゃないよ。そして最後…………おお、なんということだい、マンマミーア!」
僕、ベロニカさんと順繰りに握手を交わしていき、薔子さんの番になったところで、三千院警部が唐突に跪いた。
「神よ、この美しい御方と出逢えた奇跡に感謝いたします。喩えるならミロのヴィーナス、あるいは美の女神アフロディーテ! 願わくはこの若輩者に、貴女の麗しき名前を聞かせていただけるだろうか」
「……茨薔子だ」
「レディ・薔子! あなたは運命を信じるかい?」
「いいや」
「だったらボクが信じさせてあげよう! いかがかな、事件が解決次第、この三千院と共にランチなどッ!」
「拒否する」
「うぅん! 反応が芳しくないねぇ。それもまた、良いだろう!」
大仰な仕草で頷いた後、警部は真っ白な歯を見せて笑う。
「遺体を見つけて動揺しているのだろうけど、どうかご安心を。ボクはこれまで、数多の難事件を解決に導いてきたんだ。果敢な調査と明快な推理で、隠された真相を赤裸々に暴く。人呼んで――」
そこでいきなりウインクをしたかと思えば、
「“千里眼三千院”ってね」
場を和ませるためのジョークなのか、本気で言っているのか判別が出来ない。
ともあれ僕たちは警部の要望で、死体を見つけたときの状況を詳しく説明することになった。




