メイドと和解(弱)
桜さんの作った煮込みハンバーグは非常に美味しかった。
まあ、何故学校に行くからという理由で煮込みハンバーグなのかと思ったが、前の僕の大好物だったとかなのだろう。
た・だ。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
食卓上での会話は一切無い。そして桜さんの顔は平常心にポーカーフェイスしながらも隠しきれない緊張が見えている。味分かってるのかな?
・・・流石にこれから先ずっとこれは不快だから強行突破しますか。
「・・・桜さん、自分で食べてみてどう?」
「非常に、良く出来ていると思います」
「ふーん、嘘だね。美味しいと思ってないでしょ?」
「え!?い、いえ、そんなことは」
「だって美味しいものを食べてるんだとしたらもっと顔が和らぐはずだよ。もっと言えば、幸せな気持ちになるはず。でも桜さん、まったく幸せ感じてなさそうだよね。」
「そ、それは・・・」
「いやー、雇い主である母さん達がいないから適当に仕事するなんてねぇ。後で電話しとかないと」
「そ、そんなことありません!私は、適当な仕事など!誠心誠意、心の底からお仕えしております!!」
「うぉ」
僕の罵倒に反応した桜さんの勢いが強すぎて気圧されてしまった。でも、ここまで感情を見せてくれたなら手応えありだ。
「あ・・・申し訳ございません」
「いいよ、別に。でも、本当に心の底からやってる?」
「勿論でございます」
「じゃあ、」
ここで僕はたぶんこの世界では強い刺激になるであろう行動に出た。
僕の食べ掛けのハンバーグを一口サイズに切り分け、それを持ち・・・
「これ食べて、「美味しい」って顔、見せてよ」
「!!!!????に、二兎きゅ、お坊っちゃま!?な、何をされて??」
必殺のアーンです。
まだ完全な確証は持てていないが、今の世界の女性は男性に対して過剰な反応を起こす傾向にあると思われる。程度までは把握出来ていないが、こういったアーンをすれば大きなリアクションが返ってくると思った。動転してか僕を名前呼びしてるし。
特に今回は、食べ掛けハンバーグ、食器は僕の、という条件も含まれてるから尚更ね。
「食べられないの?」
「・・・・・・・・・い、いただいて、も?」
「早くして欲しいかな。意外と腕疲れるんだよね、この体勢」
「では、い、頂きます。あーんぅ」
桜さんがもきゅもきゅと食べている。後、口を開けながらこちらに迫ってくるのはちょっとエッチかった。
「どう?自分が作った煮込みハンバーグは?」
「・・・非常に、美味です!」
桜さんの顔は先程までの緊張にまみれた顔では無く、だらしなーく崩れた顔になっていた。笑顔とは違うけれど、「今私、幸せに溺れてます」と言ってそうな顔だ。
「そっか。良かったよ、桜さんが適当に仕事をしてたんじゃないって分かって。あ、おかわり」
「は、はい!只今お持ちします」
意外とお腹が減っていたようで、煮込みハンバーグをおかわりした。今日20分しか外出してなかったんだけどなぁ?ゲームがカロリーを使うのかな?
「それで、」
「僕に聞きたい事が沢山あるんじゃないの?」
「!!・・・・・・」
桜さんと多少近づいた所で残りの面倒事を済ませる事にした。ついでに情報収集。
「その、急に学校に行くなどと、どのような理由で決断されたのかお聞きしたいです」
「学校?それは僕が高校生だからかな。それ以外に理由は無いよ」
後は、妹が学校に行ってるのに兄が完全ニートというのは個人的常識として受け入れられない。
「先月、入学式から戻ってこられた際は、「もう二度と行きたくないね。あんなところにいたら俺死んじゃうよ」と仰っていたのですが・・・」
こっちの僕は一人称俺だったのか。・・・僕には似合わないかな?
「それは先月の僕だからね。今の僕は違う意見なんだよ。それとも、桜さんは僕には学校に行って欲しくない?」
「い、いえ!そんなことは。ただ、男子生徒の学校生活は非常にハードだと伺っていましたので。」
「ただ学校に行って授業受けるだけなんだから平気だよ。部活も今のところやる気ないしね」
ちょっとオンラインゲームをしたいという欲の方が今は強いので、とりあえず入らない事にした。後々落ち着いたら入るかもしれないけど。
「そうですか・・・。」
「他には?」
「え、えっと・・・。その。お坊っちゃま、昨日何かありましたか?」
たぶんこれは桜沢二兎の核心を問われると感じた。
少しだけ見構える。
「何かって?」
「気のせいでは無いと思うのですが、本日のお坊っちゃま非常に活動的と仰いますか、いつもはお食事もお部屋で摂っていらしたのに今日は三食ダイニングにて摂られてて。その朗らかな顔といい、明らかに何かがあったとしか思えず・・・」
僕は食事すら一人で摂っていたのか。ボッチ飯を悪いとは言わないが、家族がいる時に一緒に食べないのは、宜しくないな。
「そうだねぇ~。じゃあ桜さんはさ、僕が別世界の桜沢二兎だって言ったら、信じる?」
「以前のお坊っちゃまを良く知っている私としては、信じてしまうかもしれません。」
こんな与太話を信じてしまうほどに変わったという事か。
「・・・まあ、ただ思っただけ。家族はもっと大切にしなきゃいけないなー、とか。女性が何をしていようが僕に関係ない間はどうでもいいなーとか。そんな事を思っただけだよ。」
実際は常識から無意識まで全部変わっちゃってるんだけど、それは言う必要無いだろう。知ってもどうしようもないし。
「そう、ですか。」
「だから桜さん、これからもよろしくね?」
親愛の印として手を差し出す。
「え!?」
「?どうしたの?」
「い、いえ、えっと・・・・・・・」
桜さんは何かにびっくりして、目線を右往左往させ、戸惑いながらも僕の手を握った。
「よろしく!」
「は、はい。よろしく、お願いします・・・///」
なんか桜さんめちゃくちゃ顔赤くなってきてるんだけど、もしかして握手が初めて・・・いや、これはこの世界特有の反応、なのかな。この程度でここまで反応されるとなると、明日の学校がちょっと不安になるな・・・。
「そういえば、つぼみは?」
「お嬢様は外で食べてらっしゃると」
「・・・いつもこんな感じ、じゃないよね。」
「はい。その、友人達と急に食べることになったからと・・・」
「ふーん・・・」
・・・はぁ。まさかこっちでも妹との関係にこっちでも悩む事になるなんて。明らかに避けられてる、よなぁ。どうやって近づけばいいか・・・
「ご馳走さまでした」
妹との事で悩みながら食事を終えた僕はひとまず悩みごとを未来に送ってゲームに逃避した。
妹関係の悩みが1日でどうにかなるならこんな世界で魔法少年みたいなマネやってないよ