初めての闘い
「じゃあ、お話しようか、牛。」
「モー」
「いや、牛だと流石にアレだから名前は付けようか。ちなみに元々持ってる?」
「モー」
「無いのね。じゃあ君の名前はモー。・・・君、オス?メス?」
「モー」
「じゃあモーちゃんだ。」
まず使いの牛の名前を決めた。牛と呼ぶのが何とも言いづらいというか悪い気がしたのだ。
そして僕は彼女に尋ね始めた。
「この世界は何?明らかに昨日までと違うよね?」
「モー」
モーちゃんは世界融合の結果だと言った。なんだそれ?と聞くと、僕がいた世界に別の世界を融合した結果この世界が出来たらしい。
「それってつまり、ここは異世界ってこと!?」
「モー」
「世界自体は変わっていないから異世界じゃないって・・・じゃあなんで記憶とは違う状況と、違う世界があるんだい?」
「モー」
世界を融合した結果内側では多少の変化が出たが、世界の枠組み自体は変わっていないらしい。正直、意味は分からない。
「モー」
「世界融合が出来たのは元の世界と似たような並行世界だったから・・・つまり、生きている人間や生態系、物理法則が一緒だったからみたいな話?」
「モ。モー」
肯定された。なので生きている人物は元の世界とまったく一緒らしい。ただし、人間関係や世界情勢などは並行世界の方に合わせているらしいので、僕の知らないメイドがいたわけだ。
「・・・起きた時に気づくべきだったな・・・。」
僕はパソコンは持っていなかった。だが、今の僕の部屋にはまったく見覚えの無い高そうなパソコンが置いてある。立派だね。君いくらだい?
そして僕はパソコンを起動した。
「・・・デスクトップには知らないゲーム。ブラウザにも知らないブックマーカー。そして・・・」
検索サイトの見出しの多くは女性。男に関する話題は非常に少ない。時々ある物でも、男性が強姦された というニュースがよくある事件のように報道されている。
「・・・モーちゃん。この世界の男女比はいくつ?」
「モー」
10分の1。
この世界は女性10人に対して男性が1人生まれるような世界らしい。いったいどうやってここまで文明を保ちながら種を繋いで来れたのか不思議でしょうがないが、その比率上男性は貴重なのだろう。とりあえず先程の桜さんの反応を見る限り大事にされてると考えて良いと思う。
「・・ん?ちょっと待って。さっき生きている人間は一緒だって言ってなかった?一緒だったら男女比も一緒のはずでしょ?」
「モー」
「魂が一緒だから一緒って、人間には一緒じゃないよ!!?」
流石推定女神不審者の使い。人間の判別方法が魂だった。
「・・・はぁ。でもとりあえずわかったよ。情報をもらったら、後は僕の選択次第だ。」
「モー」
モーちゃんは励みの意図があるのか、「この世界では男性であるだけで一定の地位を保証されるので大丈夫だと思います」と言われた。
そこまでこの世界の人間を理解しているなら人間の判別方法も理解してほしい。
「・・・・・・いや、僕の生き方とやる事は変わらないか。普通に生きて、家族を守る!そのためにあの女神不審者に協力するんだから、ちゃんと気張っていこう!」
「モー」
「うん。戦うときはアシストよろしくね。僕、喧嘩もろくにしたこと無いからさ」
自分のあり方を定め、目標もはっきりさせた僕は・・・・家にある教科書やノート類のチェックを始めた。
さっきの桜さんの反応。あれは明らかに僕が学校に行く事に驚いていた。つまり、前の僕は超絶馬鹿だった可能性が高い・・・。ある程度把握しとかなきゃ・・・
そうしてお昼までチェックをし、桜さんの昼食を戴いてから午後は制服やら友人関係でもチェックしようかと思った矢先、事件が発生した!
「モー!」
「うお!?ど、どうしたの?モーちゃん」
「モー!」
「災厄を発見!?じゃあ僕が行かなきゃ行けないってことね!」
「モ」
「よし!」
なんだかんだで期待していた変身だ。時間は短かったが、多少カッコ良さそうなのも考えられた。あとは・・・
「モーちゃん。何をどうするの?」
「モー」
モーちゃん曰く、変身の意を込めた言葉を言うのと同時に変身したい姿を思い浮かべれば変身出来るらしい。アイテムとかいらなくて利便性が高い。
「・・・はぁ~~~。」
先に変身先を思い浮かべ、息を吐き出し、両足のかかとをあわせて左手を上げ、体の左側を前に出しながら左手も上から前に構え親指と人差し指を合わせる。
そして指を勢い良く擦りながら一言。
「変っ身・・・!」
すると、僕の体が少し浮き上がり、服や下着が無くなり、どこからともなく別の服が体に巻き付き想像した通りの得物が右手に握られる。
そして地面に降りると、変身は完了していた。
「・・・ん?なんかベッド高い・・・・え?」
変身は完了していた。が、予想とは違うものだった。
明らかに体が縮んでいる。ていうか子供じゃん。
「え!?これなに!?」
「モー」
「災厄に対抗できるよう生命エネルギーを圧縮して純度を上げたらその量に合わせて体が縮んだ・・・?」
まさかの僕の体が原因?だった。まあ、モーちゃん曰く沢山戦って慣れていけばエネルギー量が増えるからどうにでもなるようになるらしい。それを信じることにした。
衣装は想像通りだった。燕尾服みたいなデザインに黒マント、ステッキ、ハット。ただ、体が子供だからか全体的にミニマムだし、ズボンに至っては何故か半ズボンだ。合わないだろと思ったが、ごっご遊び衣装みたいな趣はあった。
ちなみにテーマは怪盗である。変身と言えば日曜朝アニメだと思うが、1人しかいないので○○戦隊みたいなタイツは合わない。その後の時間帯のは、独自のデザインがまったく思い付かなかったのでこれにしたのである。
「よ、よし!声が高くて気持ち悪いけど、行こう!モーちゃん、案内して!」
「モ」
モーちゃんは窓をすり抜けて外に行くとそのまま近所の屋根の上で止まった。
「それって、僕も乗れってこと?」
そんな事出来るのか?と思ったが軽く体を跳ねさせるとこの体は異常だと分かった。膝を曲げずに指先だけで跳んだのに天井に指先が届いたのだ。
「これ、訓練しないと自滅しそう・・・」
でもこれならモーちゃんに追い付けそうだ。
そう考えながら僕は怯えつつも二階の自分の部屋のベランダから跳んで屋根の上になんとか着地し、モーちゃんを追いかけた。ついでにその間にモーちゃんに今の僕のスペックを聞いた。
曰く、本気でジャンプすれば20mは軽く跳べる。魔法も使えるが物理の方が威力が高い。魔法はモーちゃんがアシストするから具体的に想像すること。物理攻撃は相手を殴る!もしくは蹴る!という意思を強く込めて攻撃すると威力が上がる。
こんな感じらしい。後は感覚で掴めと言われた。
「モ」
「着いた!?災厄は、どこに・・・?」
モーちゃんが止まったのは公園だった。オフィス街近くで昼休みが終わったので人も疎らだ。人目が少ないのは多少助かる。
「ていうか僕丸見えじゃない?」
「モ」
モーちゃんが透明魔法を掛けてくれていた。なんと有能なモーちゃん。
それでどれが災厄なのかと聞くととある方向を向き、つられてそっちを見ると荒れた女性がいた。
「なぁ!ーーーにが婚約決まりましただぁぁ!!??ふざけんなよ!なんで後輩の方がはえーんだよ!なんで私の身の回りばっかりが結婚に成功するんだよぉぉぉ!!類は友をよぶんじゃねぇのかよぉぉぉぉ!!!」
とんでもない荒れ方だった。涙によって化粧は崩れ、髪をかきむしったりどたばたした結果完全にホラーになっている。
「でも、ただの女性だよ?」
「モー」
災厄は女性の中に潜んでいるらしい。潜んでいる災厄は母体の負の感情を餌に成長しそれに応じて母体は強化されていき、最後には母体と融合するらしい。僕殴る蹴るしか出来ないんだけどどうやって倒せばいいんですか?
「モ」
「うわ、手が」
モーちゃんが何かの魔法を使ったようで手が輝いていた。内側から光が溢れてくるという不可思議体験である。
「モー」
「聖拳、ね。わかった。これであの人を軽く抑えて中から引っこ抜けばいいんだね!あ、でももうちょっと後にもう一回かけて?」
「モ」
二度手間ではあるが、やはり変身ヒーローとしてはこれをいわなければならない。
「うへへ・・・そうだ、良いこと思い付いた。男女比が1:10なのが悪いなら、女を9割殺せば絶対に結婚出来る世界が出来るのよね?そうよ、なんで気づかなかったのかしら。私より優れた女を9割殺せばいいのよぉ!あははは!」
「待ちなさい!」
「ん!?男の、いや、それにしては幼い」
「このお天道の下、そのような邪知暴虐はこの僕が許しません!」
「くんくん、まさか・・・!?」
「貴女に名乗る名などありません!速やかに倒れなさい!」
「ショタァァァァ!!!キタァァァァァァ!!!!??!!!」
「うぇ!?」
いきなりスパーク度合いが爆発してついビビってしまった。
「可愛い子ねぇ~♥️決めました!邪魔な女共を消すのはやめて、あなたを私の旦那様にします!」
「へえ?!」
「そうすれば他の女共は羨ましさの余りに爆発四散する事間違いなしでしょう・・・ぅふふふふふふふフフフフ!!!!」
とんでもないことを言い出した。というか、僕の身の危険レベルが一気にカンストしてしまった。
この女、やばい。
「さぁ、坊や。その愛らしい顔も、華奢な腕も、女を惹き付けてやまないつるっつるの膝小僧も・・・」
「・・・ゴクッ」
「・・・全部舐め回して上げるわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
「ひぃあああああああ!!!!こんなピンチは覚悟してなーーいいいぃ!!!」
光源氏作戦を企む変態OLと紫の上に成る気はさらっさら無い僕の地獄の鬼ごっこが始まった。
オタク業界によくいそうな偏見のつまったショタコンの図。(思想は別とする)