そのイケメンの微笑みは無駄遣いです
授業を終え構内を歩いていた巧馬は掲示板に貼ってあるアルバイトの一覧に気付き足を止めた。
やっぱりバイトすっかな
張り紙を見ていると携帯がなりだした。
「はい、あっ先輩お久し振りです。
えっ今そこにいるんですか近いですねいいですよ今から行きます。じゃあとで」
と言い巧馬は携帯を切り走り出した。
「あ永塚くん永塚く~ ん」
後ろで甲斐観月が叫びながら追いかけてきた。
「永塚くんまって~」
しかし追い付けない。そんな巧馬の後ろ姿に
「次は逃がさないんだから」
と叫んだが巧馬には全然聞こえていなかった。そんな甲斐観月に十矢は近づき
「あのさ甲斐さん」
と声をかけると甲斐観月は驚いて振り向き
「北代くん」
「あのさ甲斐さんって、もしかして巧馬さんが好きなの?」
と聞いた。甲斐観月は突然の言葉に驚きあたふたしながら
「すっ好きって好きってなにいって、そんなことないってばどっちかと言うとそれに付随する」
その言葉を十矢は遮りニコリと微笑み
「ならいいけど巧馬さんには夢にまで見るほどずっと好きな人がいるから諦めてね」
その言葉に甲斐観月が驚いていると冷ややかな表情の十矢がいた。
もしかして北代くんは永塚くんのことが…うそっ
「俺は巧馬さんの味方だからね、じゃあ」
と言い去っていく十矢の背中を観月は悲しそうにじっと見ていた。
巧馬がカフェに入ると奥のほうで抹茶ラテのアイスを飲みながら満面の笑みで手をフリフリしている人がいた。
うわっ無駄に男前が満面の笑みで見てるよ
巧馬はヒキツリながら急いで近寄って行き
「高畑先輩今日はどうしたんですか?ってなに飲んでるんですか」
と言いながら椅子に座ると高畑が
「これ?抹茶ラテのアイスうまいぜぇ~次はマンゴーにすっかな~どう思う?マンゴーやっぱりタピオカもいいかな」
とズルズル言わせて飲んでいた。
「良かったですね美味しくって、それより急用ってなんなんですか?」
巧馬が話を戻すと
「そうそうそっちがメインだった。
この間お前が大学に復学したって慎吾から聞いてさ、あ信吾はもうリハビリ通わなくて良くなったそうだぞ。
あの事故は俺にも責任があるのに暫く見舞いにも行けてなかったからと思ってな」
と言った。巧馬は微笑んで
「そうですね先輩のせいですね」
「お前なぁ笑顔でそれを言うか‼️」
「あれは仕方がなかったと言うか正面衝突ですからね、ああやってこられたら逃げられないでしょ」
と言うと高畑はウンウンと頷き
「本当だよな信吾も俺もビビって動けなかったしな」
そんな高畑を見ながら巧馬は微笑んで
「まあ先輩達が1ヶ月ちょいで退院したんで自分もそうかなって思ってたんですけど、まさか目が見えなくなるなんてね」
突然、目の奥がチカッと痛くなる巧馬
「おい大丈夫か?」
「大丈夫疲れるとたまに痛くなるんで、でもあの頃に比べたら見えるって凄くありがたいんです。
だから気にしないでください。そうだまたテニスに誘ってくださいよ」
と言った。そんな巧馬に高畑は
「そっか、じゃあそんなお前に色々お詫びや退院祝いもかねてってことで今日の合コン一緒に行かないか」
と突然の話に目を白黒させる巧馬に高畑は続けて
「俺の知り合いが主催なんだけど、ってほらお前も知ってるだろ八尾先輩と倉田先輩」
巧馬は懐かしい名前に驚き前のめりになり
「まさかあの俺たち新牧田高校の伝説のバッテリー倉田先輩と八尾先輩ですか」
テンションが上がりまくりの巧馬に高畑はニコニコしながら
「そう、その2人って俺の上の兄貴のダチなんだよね。前に会ってみたいって言ってたから良いタイミングだと思ってさ」
お兄さんの友達って最強じゃないか
巧馬が高畑を珍しく良いやつだと思った瞬間
「と言うのは建前で、本当のことを言うと今日の合コンのメンバーが急に2人足りなくなったからって頼まれたんだよ」
と言われ巧馬はキョトンとした。
「ほらウチの兄貴って新婚だろ代わりに俺にいけって言うんだぜそれで仕方なく。
そこで相談なんだけど俺も行くからお前も行かないか。もちろんちゃんと奢るから頼むよ巧馬」
とお願いする高畑に
「仕方なくって先輩は昔から合コン好きだったでしょ」
と言うとテヘッと笑い
「そうでした」
「たく、そりゃあ2人には会いたいけど尚久は?尚久には声かけたんですか」
と高畑の弟の名前を出すと
「お前あいつが俺の言うこと聞くと思うか?他の兄貴みたく敬ってくれてないんだぞ。何て可愛そうな俺なんだ」
とうなだれるので
「兄弟多いってのもよし悪しですね」
と気遣って言う巧馬に
「ヤロウ五人兄弟っては最悪だな、俺はさお前のような可愛い妹がほしかったよ」
俺のような可愛いって何言いやがる
「全力でお断りします俺は妹にはなりません。でもやっぱり合コンはちょっと」
と言うと
「頼むって急すぎてお前しかいないんだってば」
とウルウルしながら言われて
なっ泣き落としかよ俺より4つも年上のくせに
「頼むよ断ったら兄貴に何をされるか…俺の命がかかってるんだぞ」
食い下がる高畑に巧馬はしかたなく
「分かりました分かりましたから本当に居るだけですからね」
と言った。高畑はすごく喜んで
「マジで、やった~ありがとな巧馬やっぱりお前しかいないよって事でさっそく先輩にメールしよっと。
あ集合は7時だから俺がお前んちに迎えにいくわって今は独り暮しなんだよな、じゃあ後で住所メールしといて」
けろっとしてメールしながら言った。
うそ泣きかよ、くそ~してやられた…
うっかり忘れてたけどこの人って昔っからこんな人だった
巧馬は悔やんだがもう遅かった。
「ほい、これも俺のおごり巧馬って確かブラックだったよな、さあ飲め飲め」
巧馬にアイスコーヒーをわたし宣言どおりマンゴーを嬉しそうに飲む高畑を、巧馬はうらめしそうに見ていた。
その時、不意に巧馬の耳奥でカチッと歯車の合う音がした。
今のは何だ?
不思議に思いながら巧馬はアイスコーヒーを飲み始めた。