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5月の日差しは初夏みたいです

いつも巧馬の見る夢に出てくるのは桜の木と彼女、今日もその夢のおかげで巧馬は幸せな一日になるはずだった

昼下がりの校舎…


あれはいつの事だったんだろう

つい昨日の事のような

いやもっと昔のような


駅を降りて直ぐの桜並木を抜けると校舎が現れる。

その校庭の隅に他の木と離れて一本だけ植わっている満開の桜の木の下から、優しくて懐かしい透き通ったフルートの音色が聴こえてくる。

そっと近寄ると彼女が楽しそうにフルートを奏でていた。

気配を感じた彼女が演奏をやめてこっちを見てふわりと花のように微笑み近付いてきた。


「新入生だよね、もしかして迷っちゃったの?ヤバイよ入学式もう始まっちゃうよ…よし行こう」


そう言って腕をとり走り出した彼女の長い髪が光に透ける。


手を伸ばして触れたらどんな顔をするんだろう


そんなことを考えながら体育館へ駆け込んだ。


ジリジリジリ〜


うわぁ!!


目覚ましの音にビックリして飛び起きた彼の名前は永塚巧馬。

巧馬は3年前の夏に事故にあい大学を1年休学していた。

そんな彼に不思議なことが起こり始めたのは復学してからまもない頃だった。

行ったことも見たこともない場所の夢…

だがとても懐かしく感じる夢を時折見るようになった。

その夢にはいつも同じ少女が出てくる。

それは高校時代の彼女


またあの夢か…あれは誰なんだろう


「って、いま何時だ!」


時計を見て一瞬固まったあと


「うっ嘘だろ!?マジか遅れる」


急いで着替え冷蔵庫から牛乳を取りだしイッキに飲み干した。


「うめっじゃなかったあと携帯と財布と」


肩にかけた鞄の中をごそごそと確認する。


携帯はあるし定期に財布に他に忘れ物はないよな


確認が終わり玄関で靴を履きながら


今日も彼女の夢を見るなんて懐かしくて優しくて不思議な気分だ

でも最近はなんだか夢か現実か分からなくなる時間が増えた気がする

気を付けないと


巧馬は急いで部屋を出て鍵をかけエレベーターに乗り込み一階で降りた。


正面玄関を出てふと見上げると、そこにはまっ青な空が広がっている。


巧馬は眩しそうに空を見上て


あちーな真っ青かよ本当に今日もいい天気だ。

そういえば夢の中も穏やかでいい天気だったな。

彼女も楽しそうだったし本当にいい天気だ。


「洗濯しておけばよかったなミスった。じゃないマジで時間無いって遅刻だ」


真っ青な空の下を駅に向かって走り出した。


その頃の彼女はボサボサの髪を必死でとかしていた。


あーまた徹夜してしまった。この新刊たちが悪いのよぉ!!

仕方ない仕事に行くか、POP作んなきゃだしな


と言い立ち上がった彼女は瀬名李々子。

李々子は赤池書店(あかいけしょてん)に勤めている。


焦っているせいかクローゼットから何枚も服を取り出しては


これは色が合わないし

これはたけが中途半端だし…

あーもう


「いつものジーパンでいいや」


ウダウダしながら着替え慌てて鞄の中身を確認し部屋を出た。


ふと見上げると真っ青な空が広がっている。

李々子は眩しそうに見上げて


うわぁ~まぶしい良い天気だぁ

でも暑いったらないな

もうすぐ8月だから仕方ないけどそれにしたって暑い


「もうグレてやる」


かってにグレてくださいと言わんばかりに強い日差しが李々子に降り注いだ。


電車を乗り継ぎようやく店についた李々子は


「おはようございまぁ~す」


と元気よく挨拶をした。その異様にテンションの高い李々子に店長の新井ひかるが


「リーコそのテンション高さは、また寝てないわね」


と言いズンズン近寄って来た。そして


「まだ32歳だからって油断しちゃダメよ。あっという間に40が来るんだから」


と言った。李々子が満面の笑みで


「確かひかる店長はあと3年で50ですもんね」


と言うと


「うるさい、つべこべ言わずとっとと飲む!!倒れる前に飲む!!」


とひかる店長が栄養ドリンクを李々子の目の前に差し出した。

李々子は少しビビりながら


「はいっ分かりました、ありがとです」


とドリンクを受け取るとひかる店長が


「本当に倒れられたら困るんだからね!!分かった」


子供を叱るように言った。そこに汐崎沙代子が


「そうよ〜リーコさんに倒れられると重いんだから、とっとと飲んでよね」


毒づきなからやって来た。


彼女は李々子と同期入社で李々子より3歳年下なのだが、回りの人たちはしっかりしている沙代子の方が年上っぽいと思っている節がある。

李々子はちょっとムクれて


「どうせ重いわよ!!でもね私だってあと10㎝伸びて160㎝くらいになればね」


と、10センチ高い沙代子に背伸びをしながら言うと川久保伊織が


「やだ今から身長伸ばす気、もうリーコったらぁ無理に決まってるでしょ」


と加わってきた。


彼女は40歳手前でエリート商社マンと最近電撃入籍したので玉の輿のやり手姉さんと密かに呼ばれている。

そんな彼女が


「身長伸ばすより今はドリンク飲みなさい」


と言い捨てた。

李々子がため息をつきながら


「あのさ伊織さんって結婚してから更にきつくなった気がするんだけど」


と言うと


「私のどこがキツいのよ、こんなに美人で優しいのに」


自分で美人言うかこの悪魔め


そう思いながら李々子はドリンクをイッキに飲みほした。

空ビンを洗いゴミ箱にいれ、よしっと気合いを入れなおし


「じゃあPOP作ってきますっ!!」


と言いバックグランドへ向かった。


「はいはい無理しないのよ~」


と背後から聞こえるひかる店長の声を聞きながら李々子は急ぎ足で去っていった。


ったく、あれ以上いると何を言われるか分からないんだから


と呟いてデスクに向かった。


李々子は昨日読んだ本とPOP用の紙とペンを用意し一息深呼吸をして


「よし!やるぞお~」


と製作を始めた。


このPOP広告の良し悪しで売り上げが変わるし、注目されていなかった作品に光を当てることも出来るなんて何てステキな仕事なのかしら


目をキラキラさせて書き出した。


その頃の巧馬は同学年で同学部の友人、北代十矢と一緒に教室に向かっていた。


「今日はどこまで見たんですか?その夢」


十矢が興味津々で巧馬に話し掛けた。巧馬は微笑んで


「どこまでって、そんなの教えるかよ」


気恥ずかしそうな巧馬を見て


ほ~かわいいじゃないですか巧馬さん今のはモエ確定だな


と十矢が呟いた。


「ん?なんか言ったか」


「本当に巧馬さんって可愛いなぁってね」


目が点になった巧馬は


「悪い十矢聞き間違いだと思うんだけど今可愛いって言ったか?」


と聞くと


「うん言いましたよ」


といわれ


「誰が可愛いって言うんだよ」


「だから巧馬さんが」


「いやいや、どこが?」


戸惑い右往左往する巧馬の肩をつかみ、ズイッと前に出て十矢は巧馬の顔を不適に笑いながら覗き込んだ。


巧馬はゾクッとして


「おっおいお前なぁそのニヤっての気味が悪いからやめろよ。なんか最近その笑い方が多くないか…まさか変なもんでも食ったのか?」


と巧馬が言うと、ふいに十矢が真面目な顔で


「やだな巧馬さん、これはね可愛い巧馬さんに萌って事なんですよ」


と言うとすぐさま硬直する巧馬。

そこに女性の声がした。


「永塚さ~ん見~付けた」


同じ学部の甲斐観月が駆け寄ってきた。


「うわっ甲斐観月だ逃げないと」


と逃げ出す巧馬


「えっもう甲斐さんここに来てるけど」


と十矢が言うのが先か巧馬のうでを観月はしっかりとつかみ


「今日は逃がしませんよ。サークルにはいるの考えてくれるって言ってましたよね、ね」


と言った。

ヤバイとあせる巧馬に観月は必死になって


「天文サークルですよ、考えるって言ってくれたじゃないですかひどいです」


と食い下がった。


「だからサークルは考え中って言ったけど天文サークルとは言ってないし…

前にも言ったけど興味ないんだよね。

だいたいなんで俺な訳?他にもいるよね」


と言うと恥ずかしそうに観月が


「そだからそれはぁ」


と言うので


「用事があるからごめん行くぞ十矢」


巧馬は彼女の手を腕からはずし十矢の腕を引っ張り歩き出した。

そんな2人を観月は唖然と見送った。


クスクスクス


「何だよ十矢」


笑いの止まらない十矢。


「ったくなに笑ってんだよ、こっちは必死だったんだぞ」


とむくれる巧馬に十矢が


「いいんですか?彼女は巧馬さんの事…まぁいいか。

それより多分スゴい誤解されただろうな俺は巧馬さんなら構いませんけどね」


と言い巧馬を見た。


「俺がなんだよ誤解ってどんな誤解するってんだ」


「そりゃあもちろん俺と巧馬さんが」


「俺とお前がなんなんだよ」


と不思議そうに巧馬が聞くと


「だから俺と巧馬さんでBLってやつ」


「BL?」


なんだそれ訳わからん


と頭に❓️マークのついている巧馬に


「本当に巧馬さんは、だからボーイズ」


「やっやめろー」


やっと意味がわかった巧馬は真っ赤になって十矢の隣から体をのけぞらし


「俺はお前の事は好きだけどその好きとは違うから、ダチとして好きって事だからな。

だからそういうのは無理だから絶対に無理だからな」


と言うと十矢がポカンとしたあと大笑いをし出した。


「なんだよ、なに笑ってんだよ」


やっと笑いをこらえた十矢が不敵に笑い


「本当に可愛いなーそんなにムキになって拒否らなくてもいいのに、巧馬さん本当に年上ですか?ったくイジリがいがあって面白いな~そんな巧馬さんだから好きなんですけどね」


と言い歩き出した。

巧馬はポカンと十矢の後ろ姿を見て


まさかな


と呟きながら青くなったりぐるぐる考え込んでいると、先を歩いていた十矢が振り返り


「いつまでやってるんですか授業に遅れても知りませんよ」


と声をかけた。巧馬はハッと気付き


「うわっやば」


と駆け寄ったが微妙に少し離れて歩く巧馬に十矢が


「変に意識しすぎ大丈夫冗談ですよ」


と言うとホッとした巧馬が


「お前なぁ今度言ったらマジで殴るからな」


「え?これくらいで俺は巧馬さんに殴られるんだ、わりに合わないな」


「黙れ十矢」


そんな2人の背後から


「昼間っからラブラブっすかぁ~」


と呑気な声がして振り返ると同じく友人の塩沢 航一郎がいた。


「おいコウ、ラブラブって何処をどう見たら言えんだよ」


と巧馬が目を点にしながら焦って言うと


「あっ違ったか、そんじゃ仲良しさんかなぁ~じゃまた後でぇ」


と言い元気に教室に向かって去っていった。

ワンコのようなフワフワな栗色の髪にフットワークの軽い航太郎。


「何なんだアイツはチャラすぎる」


半ば脱力と諦めの思いで巧馬が言うと


「でもなんか憎めない奴なんだよな」


と十矢が微笑んだ。


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