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理想と違った生活  作者: izyi
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1話

「なあなあ隼人、お前バイトとかしないの?」

「あぁ 、ちょうど金欠でバイト探してたんだよ。何かいいところ知ってるの?」

「ちょっと怪しいけど日給が10万円もあるんだ」

「まじかよ!教えてくれ!」

「怪しいし、本当にあるかはわからないけど、ネットでPR動物園って調べてフィルター:一時間以内を掛けると出てくるらしい」

「ありがとう、これで金欠から脱出出来る」


俺、雪木 隼人は初瀬大学に通う学生だ。今日友人から教えてもらったバイトのおかげで金欠を解消できる!

「えっと、PR動物園でフィルター:一時間以内と」

検索結果が一つだけ出てきた。PR動物園公式というところをタップすると、そこには日給10万円と電話番号が書かれていた。その電話番号を選択し、電話をかける。

ープルルル、プルルル、ブチッー

「はい、こちらPR動物園です」

「あ、あのバイトの広告を見たのですが…」

「バイトですね。わかりました、ではそちらの携帯にショートメッセージを送らせて頂くのでそれを御覧ください」

受付の人はそう言い残し電話を切った。さっき言っていたショートメッセージはホーム画面に戻るころには届いていた。

「えっと、ん?」

中身はほぼなく、集合場所と合意のボタンがあるだけだった。何も分からないが取り敢えず合意のボタンを押し、その日は寝ることにした。


次の日、俺は大学が終わった後、すぐに集合場所へ向かった。

「マップによるとこの辺りだな」

場所に目星をつけそこで待機していると一台のバスが来た。運転手のおっさんが俺を後ろの席に座るように促した。この人がバイト先の人かと思い俺はバスに乗った。その後にも5箇所バスが停まったが誰も乗っては来なかった。


それからしばらくしてバスは停まり、目的地らしきところに降ろされた。

「連いてこい」

運転手はそう言って目の前のビルへ入って行った。俺も急いで後を追った。ビルは見た感じ古びていた。 ビルの中も古びていて明かりも無く、運転手の手元のLEDライトの明かりが淡々と道を照らすだけだった。しばらくすると地下へと続く階段があり、そこを一人で降りるように言われた。

「この先にお前の雇い主がいる」

それだけを聞いて俺は下へ降りた。


階段は長く約2分ぐらいだろうか、目の前にドアが現れた。ちょっと怖いなと思いながらもドアを開けた。そこには意外と綺麗な部屋があった。奥にあるイスに人が座っている。すると、ゆっくりとイスが回り座っていた人はこちらを見た。

「君がバイト志望の子かな」

「はい、今日からここで働かせて頂ます」

「うむ、それでは頼むぞ。連いて来てくれ」

まだ歩かされるのかと心で思いながらも渋々連いていった。すぐに、机とイスが二つある部屋へと到着した。

「仕事時間は午後5時から午後8時までの三時間だ。このマニュアル通りに働いてくれるといい、この階の下が君の担当だ。後は頼んだぞ」

そういうと満足したのか部屋を後にした。今はまだ4時48分。実習無しでのバイトとは珍しいなと思いながらマニュアルを開いた。

・動物(人間)で遊ばないで下さい

・動物達のお願いは極力聞かないでください

・御飯は午後6時に与えて下さい

・掃除はこまめにしてあげて下さい

何だこれ。最後の二つはかろうじてわかる。前二つはおかしい。3時間で10万円とはいえおかしいだろ。一つめはマジキチだろ。まぁ金貰えるからいいだろ。1ページ目から内容がやばいと思い、そこでマニュアルを閉じてしまった。


スマホをいじりながら5時まで過ごし、遂にバイトの時間がきた。マニュアル読んでもあんまりわからなかったし実際にやってみるしかないと思っていたものの、その時間が来ると緊張して出来なくなる。緊張しながらも部屋の奥の扉を開けると腐敗臭のような匂いがして咽せそうになった。取り敢えず掃除に取り掛かろう。近くにあった箒を手にとり、更に奥へと進んだ。少し進むと開けた場所に辿りついた。横には格子で分たれた部屋が何個もあり、そのなかには人が一人ずつ部屋に入っていた。

「なんだこれ…」

違和感しかない光景を目にして、ただ唖然としてしまった。まるで、囚人を収監しているみたいだった。ぼーっとしていると格子の中にいるひとに話かけられた。

「あんたが新しい担当か。せいぜい頑張ってくれよ」

「あ、はい」

聞きなれた小悪党みたいな台詞に少しだけ安心した。それからは黙々と掃除をした。1時間が過ぎると食事の時間になり、部屋へ戻りマニュアルを見返した。マニュアルによると格子で分たれた部屋の奥に料理を作っている人がいて、その人から20人分の晩御飯を受け取り、中の人へ手渡すらしい。簡単な仕事だなと思い部屋の奥へ向かった。


「はい」

配膳室の前までいくといきなり料理の乗った皿が手渡された。すぐに持っていけということに気が付き、せっせと働いた。そっけない態度だったが声から女の子だとわかったので運び終わったら話し掛けよう。2皿取って格子部屋へ向かった。

「ありがとな、兄ちゃん」

「気にしなくていいですよ。仕事ですから」

こんな感じで13人目まで運び終わり、14人目に運びにいった時に話し掛けられた。

「兄ちゃん、働いてるねー」

「さっきの人」

さっき話し掛けてきた小悪党みたいな人がまた話し掛けてきた。

「俺は宮野 公路。覚えときな」

「覚えときますね」

早く女の子と話したかったのでその場を立ち去り、全員分の御飯を急いで配り、配膳室へ戻った。

「全部配り終えたよ」

「そう」

彼女は配膳室の奥へ行こうとした。

「ちょっと 待って!」

急いで彼女を引き止めた。

「何か用?」

「あのさ、もう帰るの?」

話題の無さに今考えてた事を聞いてしまった。

「見てわからないの」

ですよねー。わかってた。それにしても冷たいなー。もっと何かあるんじゃねって思ってしまう。

「止めちゃってごめんね」

そう言い残し掃除にもどった。


それからは真面目に仕事をし、気が付けば就業時間の20分前になっていた。あとはさっき配った皿を回収して終わりやな。それぞれの部屋へ向かい、皿を回収していたらまた宮野が話し掛けてきた。

「よう、兄ちゃん」

「今度は何のようですか?」

相変らずうっとうしい声だ。

「俺に何か聞きたい事があるんじゃねぇか」

「いえ、特にないです」

俺が立ち去ろうとしたら宮野が必死に手をつかんできた。

「ここの施設の事、気になるだろう?」

「まぁ、人並には」

「ここにいる奴は皆、犯罪歴があるんだよ」

「えっ」

「へへ、初めて聞く奴は大体そんな顔をするな。けど、安心しな。俺らは実際に手を出したりはしねぇからよ。あと、そろそろ就業時間だろ?今日はもうかえりな」


俺はさっき宮野に言われたことが頭から離れないまま家に帰る事にした。就業時間通りにバイト先から出たので、まだ8時過ぎだ。外に停まっていたバスへ乗り込み、駅前に着くのを待つ。

「腹も減ったし、どっかに寄ってから帰るか」

スマホを取り出し、通知が来ている事に気付いた。友人からかと思い、メッセージを開けると母親からだった。内容はいつも通りの元気にしてるかのようなもの。大学に通うようになってからは大学の近くで一人ぐらしをするようにしている。父は気にしないタイプだったが、母は心配性で一月ごとにこういった内容のメッセージを送ってくるのだ。実家から仕送りと家賃は貰っているのでそれなりの生活は出来ている。今月はちょっと課金をしてしまったので食費が足りないだけだ。勿論、母にそんな事は言えないのでバイトをしてる。そんなわけで大丈夫とメッセージを返信した。正直、バイトをしてて損することはないし、社会経験にもなるから暫く辞めるつもりもない。返信した傍から母がメッセージを返してきた。ならよかった、との事だ。母に余計な心配を掛けさせるわけにはいかないのでバイトの事は黙っておこう。なんやかんやで15分くらい経っており、バスは駅前に着いた。

「ありがとうございました」

運転手に礼をいいバスを降りると、近くにあったファミレスに入った。中は人で賑わっており、暫く待つ覚悟をした。

「あれ、隼人じゃね」

聞き覚えのある声が耳に入ってきた。夕貴の声だ。

「隼人こっちこいよ」

夕貴が俺の肩を叩いて誘ってきた。

「おう、サンキュー」

正直待ちたく無かったのでかなり助かった。周りの客には申し訳ないが夕貴の連れとして入る事にした。席には夕貴一人しかいなくて、知らない人がいないのは好都合だった。

「夕貴は何で一人なんだ?」

「彼女が家の用事で今日無理になっちゃったからね」

はは、と力が抜けたような笑い方をしているから悲しいんだろうな。彼女いないからわからないけど。夕貴には悪いが俺にとっては、やはり都合がいい。友達が彼女と乳繰り合う中、御飯は食べ辛いからな。

「おう、まじか。元気だせよ、な」

「そこまで落ち込んで無いから気にしないで」

夕貴がそう言ってるし気にしないでおくか。それよりも何を食べるかだな。いつも通りカルボナーラにするか、肉系にするか悩み所だな。

「よし、ハンバーグとライスとドリンクバーにするわ。隼人は?」

「俺はカルボナーラとドリンクバーで」

ピンポーン ピンポーン

夕貴がベルを押してくれて、その音を聞き、電子掲示板をみた店員がすぐにきた。

「ご注文は何でしょうか」

「えっと、ハンバーグにライス付きで、それにカルボナーラとドリンクバー二つ」

「カルボナーラの方はスープはお付けになさいますか」

「いえ大丈夫です」

「かしこまりました。しばらくお待ち下さい。ドリンクバーは正面にあるカウンターの横にございます。では、ごゆっくり」

そう言って厨房の中へ戻っていった。

「さっきの娘可愛かったね」

「お前、彼女いるのにそんなのでいいのか?」

「隼人はかたいなー。可愛いのと彼女は関係ないだろ?」

「そういうものなのか?」

「そんなもんだよ」

どうやら俺はかたいらしい。彼女がいたことが1回しかないからわからないが。そういやフられた時にも似たような事を言われたな。

「隼人、バイトはどしたの?」

「やることにしたよ。課金したしな。それに日給10万なんてうますぎる」

「犯罪じゃないのか?大体そういうのって知らぬ間に犯罪に荷担してたりするんじゃないのか?」

「よくわからないんだ。今日から初めたし、マニュアルにもよくわからないことしか書いてないしな」

「ま、せいぜい気を付けなよ」

夕貴はそういうとドリンクを取りに行こうと誘ってきた。俺は夕貴と一緒にドリンクを選び、料理が来るまで駄弁って、料理が来るとそれを食べ、共に食後のコーヒーを飲んでファミレスを後にした。


ファミレスから家までは近いので歩いて帰った。もの数分で自宅に着き、それから風呂に入った。自宅はマンションで4人家族が住むような部屋を借りて一人で住んでいる。いつか彼女を連れ込むのが今の目標だ。風呂から上がり、冷蔵庫からチューハイを取り出し、グラスに注ぐ。ビールは結構苦手なのでチューハイぐらいしか酒を飲まない。

「さて、マニュアルを読むか」

鞄の中からマニュアルを取り出して読んでいると携帯がなった。もう23時だというのに誰だと画面に目を通すと、夕貴からの電話だった。

「こんな時間にどうしたんだ?」

「課題の提出っていつまでだったっけ?」

「確か、明後日までじゃなかったか」

「隼人はもう終わった?」

「終わらせたよ。課題がどうしたんだ?」

「まだ終わってないから写させてくれ!」

正直驚いた。夕貴は今まで課題の提出を遅らせた事はなかったからだ。

「いいけど、どうしたんだ?」

「忘れててメモをみて思い出したんだ。流石に今からは間に合わないだろうし、隼人なら終わってるかなって」

「そうか、なら明日、うちに来てくれ」

「ありがと。助かる」

その言葉を聞き、電話を切った。酒が入ったせいか、マニュアルの続きを読む気にはなれなかった。時間を確認すると23時10分だったので歯磨きをして布団に入った。


面白かったでしょうか?楽しんで頂けたら幸いです。

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