力ある者による救済
ショウ「さて!今回は久し振りにうるさい筋肉ゴリラじゃない、このイケメン主人公の回!」
ラータ「本当のイケメンは自分をイケメンだなんて言いません。」
ショウ「いいじゃんかちょっとくらい調子に乗らせなさいよー。」
ラータ「嫌です。第9話が始まりますよ。」
蛸のエンディアとショウが戦闘を繰り広げていた。
「あいつの墨、やっかいだな…。」
『以前の霧と違って液体ですからね。』
「どうすれば…。」
厄介なことに、墨で黒く塗られると力が入らなくなる。そのためか、ショウの膝が小刻みに揺れていた。
「あーもう! 洗い流したいくらいだ!」
『洗い流す…』
エンディアが吐き出した墨を避けるが、それでも水滴が付着してしまう。
堪らなくなってついに片膝をついてしまう。それを見たエンディアが触手のような手を伸ばしてショウを攻撃してきた。
「くそ…! ズルいぞ、おい!」
『…弱らせてからじわじわと攻撃する…実に生物的でなにも言えません…。』
襲ってくる触手を手で払うが、無駄だと感じてそれを掴む。だがぬるぬるしていたそれが手の中から滑り、そしてショウの腹部を思いきり突く。
堪らず“くの字”の姿勢になったショウは、苦しそうに腹を抑え、両膝を地面に着ける。
『戦力低下。これ以上の戦闘は不可能です。撤退を推奨します。』
「まだだ…まだやれる…!」
相手の吐き出した黒い墨によって極限まで力を奪われたショウは、もはや立ち上がることもままならない。
『無理です。撤退しましょう。』
アームド状態の解除はアーマーロイドからでもできる。一旦解除してラータ相手を目眩ましさせて撤退するという作戦だ。しかしショウは諦めずにいる。
「まだやれる!」
『これ以上は危険です。主の命令を拒否します。』
ラータはいたって冷静に対処する。
さすがにここまでかと諦めたのか、ショウは静かに地面を見つめていた。
しかし、どこかから聞こえねくる泣き声がその気持ちを遮った。
「子供だ…。」
『言ってる場合ですか! 速やかに撤退を_ 』
「_ ラータ! 力を持つ人間が、力を持たない人間を助けなきゃいけないんだ…。俺はヒーローなんだから余計にな…!」
『……しかしどうするんですか? 』
エンディアがとどめを刺すために接近していたが、泣いていた子供の声に気が向いたのか、進む方向を声のする方に変えて走り出す。
「回復機能!」
『待ってください! あなた…ただでさえ力を奪われているのに!』
「体力を全快にして武器を召喚して一気に叩く! どうせ全快にしても力を奪われておしまいだ。地道に攻撃しても間に合わない…だったら一か八か、一気にぶちかます!!」
これは賭けだ。勝てる保証は無いといってもいい。いや、無い。けどショウはその一人のこどもの命と引き換えに自分の運命を賭けた。
「魅せるぜ“勝利”…! 見えたぜ活路!!」
『なんですかそれ。』
彼女が辛辣にコメントする。
「決め台詞でしょうが。いいから早く!」
幸いなことに声だけするので、姿が見えない。エンディアは立ち止まって辺りをキョロキョロする。
『全快しました。武器を召喚します。』
やっとのことで上体を起こし、剣にも銃にもなる万能の武器を銃モードにしてからトリガーを長押しする。銃口に光の粒子が集まり、そしてそれはやがて1つの赤色の球体に成長した。
「まだ…くそっ…まだなのに…!」
力を奪われていくため腕がプルプルと震え出す。狙いが定まらないなか、それでもトリガーを押し続ける。
その手もそろそろ限界のようだ。
『ショウ、これ以上は_』
「回復、全快!」
『これ以上やったらどんな影響が出るか分かりませんよ!?』
「構わない! 」
『……ッ!』
「大丈夫だ死にはしない…! 多分!」
『ショウ…!!』
「この一発で終わらせる!」
ショウが叫ぶと、ラータはその覚悟を信じて回復機能を起動して全快させる。
やがて充分の大きさに成長すると、標準を未だにキョロキョロするエンディアに向けてからトリガーを離す。
赤色の球体は銃口から離れてそいつへ一直線に進む。
高速でエンディアにぶち当たると、断末魔をあげて爆発した。といっても肉体が爆発四散したわけではない。
ショウが力なく膝から崩れ落ちた。
「…はぁ……序盤からの戦闘がここまで長引くなんてな…。」
そう言って携帯を取り出して政府にいつもの連絡を済ますと、堪らなくなってアームドを解除した。
「ショウ! 大丈夫ですか!?」
ラータが墨で真っ黒になりながら倒れた状態のショウを起こそうとする。
「いい…こども……たの……む…。」
ショウの指示に従ってこどもの位置を探しに行った。
「お母さんどこー!」
煤で顔を汚した少女が大声で泣き叫ぶ。その声が響いてこだまするのが聞こえている。皮肉にも晴れ渡った青空の下は、エンディアが暴れたせいでボロボロになっている町があった。瓦礫が自然に崩れ落ちる音やサイレンの音、爆発したせいで引火した火の燃える音が聞こえてくる。そしてそこに紛れ込んでいた母を探し迷い混む少女の声。その声は母に届くこともなく、ただひたすらに無意味に響いているだけだった。そしてその声の主である少女は無意味でも大声で喚くだけだ。
「いた…! 大丈夫!?」
ラータがその女の子を見つけて保護しようとするが、突然、目の前で背の高い大人の女性が何者かに連れていかれるビジョンが見えた。女の人はこちらに手を伸ばして必死に叫んでいた。その人が一体何者なのか、なによりもそれは一体なんなのかの一切が分からない。だけどラータには1つだけ分かったことがある。この視点から察するに…私の視点だ…と。
「な…つ……み……?」
無意識に誰かの名前を呟いた。
「ひっぐ…お姉さん…なんで私の名前知ってるの…?」
「……へ…?」
違う。この少女は知らない子の“はず”だ。ならナツミとは誰のことだ…。ラータは必死に考えるが、また瓦礫が落ちた音が聞こえてハッとする。今はそんなことよりこの子の命を優先すべきだ。彼女は少女を安全なところまで連れていくことにした。
「お母さん、どんな人?」
「赤い髪の毛…。私とおんなじ…。」
「赤い…か…。お姉さんと一緒に探しにいこっか。おいで?」
「…! うん!」
さすがに無茶したせいか、全くもって力が入らない。
なんとかしようとするが、意識がついに遠のく。繋ぎ止めようにももう手遅れなのかもしれない。心臓の鼓動が徐々に遅くなるのを感じる。あ、死ぬかもしれない。いや、昏睡するだけだろうか。よくわからないが、まずい。そう思っていると、完全に意識を失う寸前にブーツをはいた誰かが近付いてくるのが分かった。
「ふふ、なんだそのザマは?」
聞き覚えのある声だった。それは変声機で偽った声だが、それでも伝わる狂気はあの時に聞いた声だ。
「残念だったな、ジクティア…だったか?」
“あいつ”だ。
「今死なれちゃ困るんだよなぁ…。仕方ない。助けてやるよ。精々後悔させないでくれよ?」
男がショウに近付き、何かを背中に突き刺した。ショウはそのまま気を失ってしまった。
Android #9 力ある者による救済
ラータ「…」
エージ「おいどうしたんだよ…?」
ラータ「…は…!すみません…私としたことがボーッとしてしまいました…。」
エージ「あんだけ泣いたあとなんだから仕方ねぇわな…。休んどけ。」
ラータ「…そうですね…ありがとうございます…。少々寝ますね…。」
エージ「いや自室に戻れよ。」