封印する龍
ラータ「またやりましたね。」
ショウ「またやったな。」
エージ「ここまでくるとやべーな」
エージ「そんなことより、俺が重症を負っちまったぞ!」
ショウ「死んでないか?」
エージ「死んでたらこうし話してねぇだろ!」
ショウ「なら良かった。復讐してやるからな。」
エージ「復讐?」
ショウ「第8話を見なさいよ。」
目を覚ますと、定期的になる短い電子音が聞こえるのと目の前に広がった景色はどこかの天井か。一体俺は……?
上体を起こしたエージは周りを見渡して自分が今どこにいるのかを確認した。しばらくすると、ここは病室で自分がいるのはそのベッドであることを理解した。自分の体は包帯を厳重に巻かれており、右胸が痛んだ。
ぽかーんと窓を見つめていると、ドアを2回ほどノックする音が聞こえた。返事をすると、ドアをスライドして入ってきたのはおしゃれなコートを着たボロボロのショウだった。
「目が覚めたか。」
そう言ったショウの手にはりんごがあった。
「…なんだそれ?」
「りんご。」
「見りゃわかる。そういうことじゃねぇよ。」
「仕返しだ。」
「……覚えてたのかよ。」
ショウが重症で入院したとき、お見舞いついでとしてエージがそのまま持ってきたりんごのことだ。
手汗をかいていたため、一度ラータに洗って切ってもらった。
「たっぷり仕返しするために、ここに来る前に開発作業してやった。オイルとかあるかもしれないしニスが付いてるかも。ちょっと有害だぞ。ほら、食えよ。」
純粋な少年のような笑顔を浮かばせてりんごをつきつける。
「死ぬわ。」
エージはそんなショウの手を払った。すると、次に入ってきた少女がそれを受け取る。
キドラだ。相変わらず不機嫌そうな表情を浮かべている。
そしてキドラがエージの顔を見ると、とても申し訳なさそうにうつむいた。初めて見た彼女の表情だ。そして彼女は手にある赤いりんごを見つめてそのまま去っていった。
「……あいつ…。」
エージがボソッと呟く。ショウはそれを聞き逃さなかった。
「どうしたんだ? え、なに、付き合ってんの?」
「いや…そうじゃねぇけど…。なんつーか……」
「なんだよ。気持ち悪いな。」
「…なぁ、アーマーロイド単体って強いのか?」
「アーマーロイドの本来はあくまで鎧だ。単体での戦力は…『まぁ、ないよりかはましかなぁ』っていう程度だ。」
「ほぼ人数合わせみたいなもんじゃねぇか…。」
「鎧だもん。…アンドロイドでもあるもん。」
ショウからアーマーロイドの説明を改めて聞いたエージは、キドラの行動には勇気がいるものだったと思った。それと同時にどうしてキドラは自分を助けてくれたのかも疑問に思った。キドラ主は自分ではないはずなのに、命を賭ける必要もその勇気も必要もないのに、と。
詳しいことは分からないが、ショウにそれについて話をすると、急に死にたくなくなったんじゃないか、等と適当な回答をした。本当にそれだけなのか、再び疑問が浮かんだ。
ショウは、そんなに気になるなら直接聞けばいいと言ったが、エージはそれに納得した。
そしてショウは、エージに合ったアーマーロイドを作るためのエキスを選びに家に戻った。
「……あいつ戻ったのかよ。」
病室に入ってきたキドラの手には白い皿と、盛られたウサギ型に切られたりんごがあった。
「お前もかよ…。」
「別に良いだろ…これ…ここに置く。」
キドラはそう言ってそれをエージの前に設置された机に置いた。
彼女が背もたれのない椅子に座ってなおも気まずそうにしている。
「他にここの病室使ってるやついねーし、もっとリラックスしろよ。」
「できるわけないだろ…ばかごりら。」
ショウから何度もゴリラ呼ばわりされたエージは、もはや気にもならなくなった。
それよりもひっかかったのは、彼女が何かを言いたそうにしていることだ。表情は暗く、そのせいで声が小さい。
エージはキドラにどうしたんだと問うが、表情は変わらずなんでもないとだけ言う。
そしてそのまま無言の間が生まれてしまった。
パズルキューブをいじっていた彼女の指は、落ち着きなく動く。
そしてやがて何故か呼吸が荒くなっていき、苦しそうな顔付きになる。
「おい……大丈夫かよ…? 何をそんなに苦しそうにしてんだ。」
「…………ぇ…な……ぃ……」
下を向いたまま、声を振り絞って何かを言った。
「……? もっかい言ってくれるか…?」
心配になって自然と優しい声が出た。
「…………ごめん……なさい………。」
泣いているのか声が震えていた。キドラの頬を涙が伝ったのが見えた。
「僕が…僕の…せいで…怪我、した……ごめんなさい……」
キドラは涙ながらにエージに謝罪した。しかしエージは何故謝罪されたのか全く理解できなかった。どうすればいいか分からなくなったエージは、目の前にある皿に盛られている兎のりんごにつまようじを刺し、それをキドラに向けた。
「まぁ…食って落ち着け。」
それを受け取った彼女は、自分が切ったそれをずっと見つめていた。
「……まぁ…なんだ…。なんで謝ってるのか俺にはよくわかんねぇけどさ……でもよ、お前は俺のこと助けてくれたじゃねぇか。あのままだったら俺は確実に殺されてたんだぜ? まぁ確かに撃たれはしたし怪我もしたけどよ。お前があの時、あいつを妨害してくれなかったらさ……」
再び目の前のりんごにつまようじを刺し、今度はそれを一口で食べた。
「こうやって、ショウからの仕返しで…だけどお前が切ってくれたりんごも食えなかったわけだ。」
「…。りんご…。」
「だから…なんつーか……お前には感謝してる。命の恩人だからな。」
エージがニッと笑うと、それに安心したのか、彼女の涙が姿を現すことは無かった。
「…けど、なにか僕にできること…ない?」
彼女の表情は先刻よりも明るくなった。よくわからない状態ではあるが、それを見てエージはホッとした。
なにもしなくていいよ。
_僕の気が済まない。
んー…じゃあラーメン食いに行こうぜ。しばらく食ってなかったからよ!
_…カロリー高い。
あ、気にするのかよ…。
_…けど、それでいいなら食べる。
いや、無理しなくても…。
_僕のごめんなさいの気持ち。ラーメン食べる。
んー…強引感があるけど…まぁお前が良いなら!
二人のやりとりを廊下からこっそり盗み聞きしていたショウが、フッと笑って帰って行った。
薄暗くて不気味な雰囲気を感じさせる部屋に二人の男が現れる。
「あーあー。アーマーロイド使いを仕留め損ねた。悪いな。」
赤黒いコートのスラッとした男がイスパードに適当な態度で自分のミスを詫びる。
「ふざけるな! 必ず殺れたハズだ! 何故だ、何故仕留めなかった!?」
近くにあった椅子を怒りに任せて思いきり蹴り飛ばすと、それは数メートル飛んでいき、ひっくり返ってそのままになる。
近くを通った白い防具服で身を包んだ人がビックリして腰を抜かす。
「だから言ってるだろ? 悪かったって。」
変声機を使って声を偽らせる赤黒いコートの男がその椅子を元に戻して腰かけると、肘掛けに肘を置いて頬杖をつき、足を組む。
「貴様…自分がどれだけのミスをしたか分かっていないようだな…?」
イスパードがその男を睨むと、組んでいた足を直し、姿勢を直して前屈みになって手を合わせる。
「分かっているさ。だが、そう言うお前こそ一人の人間を仕留め損なっただろうが?」
男に指摘されると、イスパードは悔しそうな表情を浮かべる。
「あれはたかが人間だ。」
「おいおい、俺が教えてやったはずだろ? あいつは必ずジクティアのようなアーマーロイド使いになるってよぉ…。」
少し粘りけのあるような言い方で続ける。イスパードはさらに悔しそうにするが、ここで彼に疑問が浮上した。
「その情報をどこから手に入れているんだ。」
イスパードが男に問い詰めるも、ずっと無言だった。そして立ち上がって吐き捨てるように言った。
「勘だ。」
「勘だと…?」
「…きっとあの青い髪の女がそうだろう…。もう少しだ…。“覚醒”…もう少しだ…フフフ…!」
不気味に笑った男に、イスパードも少し恐怖を感じた。
「……楽しむのもいいが、我々の本来の目的を忘れるな。」
「はいはい。忘れないように善処するさ。アディオ~ス。」
そう言って男は後ろを向いて歩き出す。ブーツの足音と鎧の擦れる金属音が小さくなる。
「…くそ…ルーグのやつ…! あいつの目的は何なんだ……?」
Android #8 封印する龍
キドラ「今日から前書きと後書きのレギュラーになったからよろしくな。」
エージ「そういうことだ。」
ショウ「えー? お前ここにいるの残り少ししかないのに?」
エージ「いいじゃねぇか! それまで仲間だろ!」
キドラ「誰が仲間だ。」
エージ「嘘だろお前!」
ショウ「まぁいいか。短い間よろしくー。」
キドラ「嫌みくせーな…。」