不機嫌少女
エージ「なんなんだよあの小娘!」
ショウ「ま、まぁまぁ落ち着けよ。」
キドラ「小娘とは失礼なやつだな。」
エージ「なんだとこのやろ…!」
ショウ「まぁまぁまぁまぁまぁ…確かに失礼だけどまぁまぁ…」
エージ「おめぇまで…!」
ラータ「キドラとエージ…はぁ…契約を諦めさせるしかないんでしょうか…?」
ショウ「ま、まだわからないでしょうが…! さ、さぁ! どうなる第5話!」
コーヒーデスクを挟んでエージとキドラが向かい合っている。
キドラがやって来て一週間は経った。しかし未だに二人の仲は良くならなかった。アームドの練習をしようとするも、彼女自身がエージを主人として認めない限りそれは叶わない。
彼女は一向に主人として認める気は毛頭ないようだ。
「君を作るのにたっくさんのお金を使ったんだ。頼むからいい加減に___」
「嫌だ。僕だって主人を選ぶ権利はあるはずだろ? どうして僕に選択の余地が無いのさ?」
言ってることはごもっともである故になにも言えない。そう言えば古くから龍は自分が認めた者の命令のみに従うと言われている。キドラに含まれているエキスには確かに龍がある。そんなことを気にせずに黎兎さんはコーヒーをラータに淹れる。ラータは静かにコーヒーを一口飲み、そしてため息をついた。
一方のキドラはキューブパズルで遊んでいた。
どうしてこうも二人は違うのだろうとショウは思った。主人に従順なラータとあくまで楯つくキドラ…というより、“選ぶ権利”を主張するキドラ。よく考えてもみれば確かにおかしなことだ。いくらアーマーロイドとはいえ選ぶ権利はある。失敗した、とショウは落ち込んだ。仕方がないからキドラは援護に徹してもらうことにする。とはいえやっぱりアーマーロイドも単体だと非常に弱い。どうすればいいものか。
とにかく、エージは別のアーマーロイドを用意することにした。彼もそれでいいと頷いた。キドラは政府に返すということで話はまとまった。当の本人はどうでも良さそうに窓から外の景色を眺めていた。
「返す前にエージのアーマーロイドを確実に確保したい。確保して契約してからキドラを政府に返したい。それまではキドラと行動してなさい。」
ショウがエージの肩に手を置いて言った。
エージはそれを手で退かした。
「一緒に行動する必要はねぇだろ。戦力に期待もできねぇんなら、ここで待機させたほうが…」
「瓶だ。あの瓶はキドラ自身のエキスで、それをお前がつけたら一定時間は強化する。俺とラータでも最近のエンディアには敵わなくなってきた。少しでも戦力がほしい。」
「キドラのやつは強化アイテム扱いか…。」
「そういうこと。でもその強化アイテムを破壊されないように気を配りなさいよ?」
「分かった。俺がちょっとでも戦力になるっていうんなら…仕方ねぇよ…。」
エージが険しい表情を浮かべた。
携帯のバイブが電話が来たのを伝える。その内容は案の定エンディア出現を知らせるものだった。
現場に向かうと、そこには筋肉が凄まじいエンディアとスラッとしたスタイルに禍々しい模様を浮かべた鎧を着ているエンディアの姿があった。
筋肉は多分ゴリラだ。そしてもう一方は…?
「遅かったな。アーマーロイドの使い手。」
そのもう一方がはっきりと喋った。エンディアにしてははっきりと言葉を発した。
その声は低く、そして曇っていた。変声機器を使用しているのだろう。
「俺はイスパード…アーマーロイドシステムの対を成すシステム…“アーマーコア・システム”を使う者だ。」
もう一方はエンディアではなく、アーマーコアとかいうものを使った人間だった。
「アーマーコア…? なんだそれは?」
「人工的に作られたアーマーロイド専用のエキスを独自の方法で合成させることによって起きた化学反応によって作られたコア・エキスを使った兵器とだけ教えてやろう。」
「難しく言ってるけど、要は既存のエキスを混ぜて作ったコア・エキスとかいうやつを利用したシステムってことだろ?」
「…そうだ。」
「よし、ラータ! コアシステムとかいうやつを上回るアーマーロイドの力を見せてやろう! アームドだ!」
赤と青の光に包まれてアームドしたショウが敵の二人を睨む。
筋肉が凄まじいエンディアは恐らくゴリラだろう。ショウは思わず後ろに控えるエージとキドラを覗く。本当はエージをからかうのに覗いたはずだが、エージが何かを勘違いしてキリッとした表情になり、拳を作って浅く頷いた。ショウは少し笑いそうになったが、視線を敵に戻して構える。すると、イスパードがゴリラのエンディアに「行け」と命じた。ショウはそれを見て、イスパードの正体が分かればエンディアのことが分かるかもしれないと思った。ゴリラのエンディアが走ってくる。
「退院してからちょっとだけアップデートしてみたんだよ!」
襲いかかる右拳を、姿勢を低くした上に左に寄って避ける。相当勢いをつけていたのか一気に体制を崩す。ショウがそれを見計らって姿勢を戻すと、後ろ回し蹴りをする。さらに青いオーラをまとうことによって攻撃力を上げ、胸部にパンチを3発ほど当て、オーラを強くして溝内に当てる。少し苦しそうに屈むと、そのままタックルをかましてきた。ショウを自慢の腕力で持ち上げて投げ飛ばす。
上手く着地したショウは手首と足首をブラブラさせる。
「なるほどね。じゃあ…スピードアップといこうか。」
今度はショウがゴリラのエンディアに向かって走る。そしてスライディングをして背後にまわり、蹴りをする。そいつがバランスを崩す。不意に2歩ほど前進したエンディアに追い打ちで跳び蹴りをする。ついに倒れたエンディアはすぐに起き上がってタックルをしようとする。走ってきたところをギリギリで避ける。そいつは勢い余って転ぶ。起き上がると、学習したのか構えをとって徐々に近付いてくる。ショウは赤色のオーラをまとって高速移動し、目の前にやってきたその瞬時に青色に切り替え、腹に拳をめり込ませる。そしてまた赤色に戻してエンディアから少し距離をとる。エンディアは先程の攻撃で怯んだ。隙を見たショウは必ず殺さないように調節されたキックを食らわしてノックアウトさせた。
「ここ最近ずーっと強いのが来るから調節したんだ。イスパードだっけ? 今の見てなお、俺と戦うのか?」
ドヤっとした表情でイスパードを見る。しかしすぐにその表情は消える。イスパードが見たこともないような銃のようなものをこちらに向けていた。
赤色のオーラをまとった瞬間に右肩を撃たれる。
しかし撃たれることを事前に予測していたラータが、人間離れ…いや、元々アンドロイドだから当然か…動体視力で弾を見切って被弾するであろう部分にバリアを張っていた。
「ほう…アーマーロイドシステムもやるな…」
「うちのラータはそんじゃそこらのアーマーロイドとは違うんだよ。…まぁ…今はキドラとラータしかいないけどな。」
「…だが、コアシステムがアーマーロイドシステムを上回る…見せてやろう…」
イスパードがマチェットナイフを取り出して銃と二刀流で襲ってくる。
ショウは青いオーラを身にまとい、イスパードが振ったマチェットナイフを片前腕部分で受け止める。そして受け止めた方の腕を伸ばして、相手のマチェットナイフを持っていた腕と、もう一方の手で肩を掴む。そこから膝でイスパードの腹部を蹴る。しかしダメージが入っていないようで、すぐに銃を撃って反撃した。再びバリアで防ぎ、距離をとるために赤色のオーラで高速移動する。勢いで後退したイスパードはすぐに体制を直し、銃を撃ちまくる。ラータのバリアも無限に使えるわけではない。制限時間ではなく、ショウへの肉体的負担が大きいのだ。なのでラータはバリアを極力使用しないようにしたい。ショウもあまり使いたくないので、青いオーラに切り替え、多少のダメージにはなるが致命傷にはならないのでそれで耐える。
『弾が切れるまで耐える気ですか? 死にますよ?』
「そんなわけないでしょ…! ラータ、“あれ”だ。退院してから作ったろ?」
『…! あれですね…! 私としたことが、忘れていました…。 今召喚します!』
ショウの目の前に赤色のもやもやした状態の何かが現れた。それに手を伸ばし、掴むとオリジナルの武器が現れた。それは一見すれば剣だが、取っ手の部分が銃のグリップのように引き金がある。剣の刃になる部分はまるで二等辺三角形だ。絵にかいたように簡易的な武器で、それではまるで相手を斬ることもできなさそうだ。ショウがその状態の武器の引き金を引くと、刃になるはずの部分が本来の剣としてあるべき姿に変化した。これであれば相手も斬れそうだ。ショウがそれで向かってきた弾丸を弾いてやった。キンという音をたて、弾丸をどんどん弾く。弾きながらイスパードに近付く。その間に回復機能が働いて傷がどんどん癒えていく。
「キーボード入力機能を無くして全部ラータ頼みに変更して良かった…! あと五感共有化!」
ショウ自身が弾を見切れるようになったのは、ラータが飛んでくる弾のパターンを計算し、結果をショウの能に直接伝えたことによって弾の予測経路をショウの視覚化しているのだ。
しかし近付けばそれに気付いて後退していく。距離は一向に縮まらない。
「あ、そういえば…おい! ゴリラバカ! あいつの背後に回って殴れ!」
『ヒーローにあるまじき卑怯な手ですね。』
「…い、いいんだよ…! 実際隙もないし…。」
エージがキドラから貰った瓶を開け、中身の液体を全部腕にかける。すると、キドラが驚いた表情でエージを見つめる。
「ちょっとだけっていったろ…!?」
「はぁ!? 聞いてねぇよ!」
「いいや! 僕は言ったぞ! 絶対言った!」
「いや言ってねぇだろ! 俺は間違いなく初耳だ!」
「お前が話を聞いてないからだろ!? ちゃんと人の話はきけっつーの!」
「はぁあ!?」
二人がどうでもいいことで口喧嘩し始めた。
『どうやら卑怯な手は使えないようですね。』
「最悪だ。 仕方ない…弾丸は多分エネルギー弾だろう。弾切れはない…。こういうの危ないけど…バリア張って強行突破だ。」
『了解。』
ショウが手のひらをイスパードに見せてやる形で広げてやると、そこを中心に桃色の透明な壁が現れた。そこに当たる弾は無効果される。バリアを張った状態でイスパードに突撃する。間近まで迫って剣で切り刻む。確かな手応えがあった。そしてそれは間違いではなかったようで、イスパードが距離をとるように転がる。
「くく…面白くなってきた…。さぁ…戦争の始まりだ…。」
そう言ってイスパードは自身が持っていた銃から全身を覆えるほどの煙を出し、消えた。
「お前たちね…口喧嘩してる場合じゃなかったでしょうが。」
家に帰って二人をソファーに座らし、ショウが説教をしていた。エージは黙って聞いていたが、キドラは興味なさげにキューブパズルで遊んでいた。
「キドラ…はぁ…もう返そう。」
さすがにショウは呆れていた。説教をしても反省の色が見えないため、今後の活動に支障を来すだろうと判断したのかもしれない。
「返す…? どこに?」
「お前を作った人間のところにだ。」
キューブパズルをいじっていた手の動きが止まり、表情が陰った。
「あそこに…返されたらどうなる…?」
キドラがショウの顔を見て質問した。なんとなく彼女が他人の話をきちんと聞く姿を見るのははじめてなのかもしれないと、ラータは見てて思った。
「…? そりゃ…多分不要だと判断されて…解体とか…?」
「解体…死ぬ…ってことか」
「…あぁ。」
彼女もさすがに死という未知の領域を恐れているのか、うつむいた顔の表情は暗かった。
沈黙が部屋を包む。ショウはアンドロイドが死を恐れるものなのか、とその時思った。しかし1度それについて考えるのをやめる。何故なら今解決すべきなのはそんな疑問ではない。
「さ、どうするんだ? 俺たちと共に戦うか、それとも死ぬか?」
「…。」
ショウに2択の問いをぶつけられ、なお陰った彼女の表情は、なにを思っているのか。しばらく考えた彼女が自分で導いた答えは…。
「分かった…死ぬ。」
予想していなかった答えが返ってきた。
Android #5 不機嫌少女
エージ「おいどうすんだよ。あいつマジだぞ。」
ショウ「…本人がそう言うんだから仕方ないよな…はぁ…性格を自在に組み替えられるとかあればな…」
エージ「…ないのかよ?」
ショウ「ないんだよ。能力や見た目…それと性格などは全部エキスにかかってる。」
エージ「んだよそれ…」
ショウ「まぁ…次回どうなるかに賭けるしかないな…」