祈り
ルアフ国のとある町に住む天才プログラマーの水上 翔。その正体は正体不明の化け物、通称・エンディアから町の人々を救う正義のヒーロー・ジクティアだった。
塔の下からは民衆の応援する声が聞こえる。エージにはそれが色んな色になって見えているため、死期が近いのかと思い始めた。
だが自分でもよくここまで戦ってきたと思う。目の前で倒れているジクティアも、ピクリともしない。
もう___ 眠気が限界に達した__ 。
意識が消えかかったその時、ジクティアの鎧が白く発光したのが見えた。
シヴァレスはニヤリと不気味に笑むと、応援をやめない民衆たちに体を向け、浮遊した。
「民衆ども!!」
大声で言うと、それが響き渡り、その場を一気に黙らせる。
彼らに見える所まで近付き、銃を天空に5発撃ち込んだ。
「ジクティアはたった今死んだ!!」
それを聞いたレイシスたちが自分の耳を疑い、目を丸くした。
「俺が殺したー!! 俺の勝ちだぁ!! フッハハハハ!!」
ルアフの空に、シヴァレスの声が響いた。
「さぁて……今度はお前たちの番だ…。 今ここで、お前たちを消し炭にしてやる!」
ジクティアを殺したショットガンを取りだし、銃口を向ける。
そこに赤黒いエネルギーが集中し、同色で球状の光の弾ができる。
これから聞こえるだろう悲鳴が待ち遠しく、早速引き金を___
すると、民衆はざわつき始めた。
「おーいルーグ! 上を見ろよー!」
レイシスが大声でそう言うと、背後にある塔のてっぺんを見る。そこには、白色の鎧のジクティアが立っていた。
「なに...!?」
しかし、民衆には彼の姿は見えていない。彼らに見えていたのは、七色の光が一点に集中している光景だった。
「...くそ...いい加減死ね!!」
その位置から何発も銃口が火を吹くが、全て彼には当たらない。
イラついたシヴァレスは、ついにジクティアの前に現れた。
ただ強く、静かにシヴァレスを睨みつける彼が手にしているのは、空のパワーナイフだ。
「...もう一戦やろうってのか...?」
「...違う。...次で決める...。」
彼は持っていたナイフを前につきだし、起動させる。七色に光ったそれは、まるでプリズムを彷彿とさせた。
「ラータ...行くぞ...。」
彼はパワーナイフを素手で砕いた。その瞬間、その光が彼を包んだ。目映い光を放ち、それが収まると、白色の鎧は白銀色に変化しており、黒色のマントを風になびかせている。
「...!?」
シヴァレスは規格外のその姿に驚いている。
「いくぞ...ルーグ...。」
ジクティアはそう言うと、間も空かずにシヴァレスの腹部に拳をめり込ませた。
その勢いによって後方へ飛んでいく彼を、先回りして塔の方向に蹴っ飛ばす。
破片が崩れ落ちていった。幸い、その真下に民衆はいない。激戦区だったために当然だが。
「くそっ…! 飛べんのかよ!」
シヴァレスは自分の上に乗っかってある瓦礫をどかして立ち上がろうとした。しかし、その前には既にジクティアがおり、ギクリとする。
「お前だけは許さない!」
「くそ!」
エネルギーを一気に放出して瓦礫を四散させる。これによってジクティアも吹っ飛ばそうとする考えだったが、飛んできた瓦礫を殴って砕いた。
「バケモンかよ…!」
銃を何発も彼に撃つが、その弾丸の全てを無力化させたようで、彼の足下にはそれだったものが転がっている。
残像を刻むほどのスピードでシヴァレスに近付くと、手に持っている銃を素手で握り潰した。
間いれずにアッパーを食らわせて空中に浮かせると、高く飛び上がって彼に手をかざし、虹色の衝撃波を出して塔に叩きつけた。
シヴァレスがゆるりと起き上がると、鎧がざらついたのが分かった。
「ぐっ...!? そういうことか...! エルシーヴァ...貴様ァ...!!」
身動きがとれなくなったシヴァレスに、ジクティウェポンをガンモードにしてその口を向ける。
「“じゃあな”...。」
「ま、待て...待ってくれ...!」
シヴァレスの命乞いを聞かず、引き金を引く。
強大なエネルギーの光線が発射され、それがシヴァレスを呑み込んだ。
「うぁぁああああ!!! ...クソッ…! ....ハァ......参った...参ったな...。よみが...甘かった…か.......。」
純白のエネルギービームの中、シヴァレスは強制アームド解除され、エルシーヴァとルーグになった。ルーグはすぐにチリとなって消えていってしまったのが分かった。
ビームがやがて細くなり、それが線となって消えると、中から彼女が現れ、フラつきながらも立っていた。
「母さん!」
アームドを解除し、元の桃色の髪になっているラータがエルシーヴァを呼んだ。
「助けてくれて...ありがとうございました...!!」
深々と頭を下げるラータを見ると、満足したような表情になり、光の粒子となって消えていった。
いつの間にか変身も解け、ショウも元に戻っている。
「...エルシーヴァ...いや...クロザキ メイさん、クロザキ レイトさん...どうか...安らかに...。」
ショウは晴れた空を見てそう言った。
数日後...。
ルーグの脅威は去り、テオスの残党は残らず逮捕されたと報じられた。
ガーディアンズの皆には平和賞と勲章を授与され、他の英雄たちにもその勲章を与えられた。
街の復興も進んでいる。
本当に、何もかも、戦いは終わった。
そして...アーマーロイドたちも人間に戻すことになった。
「ショウ、エージ、元気でな。」
カズトはそう言った。彼はグメア_ いや、今はホノカ_ と共にサテルへ帰国する。
「あぁ。またいつか会おう。」
「ったりめーだろ?」
カズトはそう言ってショウの頭を撫でた。もうめんどくさくてなんの抵抗もしなかった。
ホノカは、キドラ_ いや、アカリをぎゅっと抱き締めた。
「じゃあね...! アカリちゃん...!」
「う、うん...!」
30秒ほどそうして、やっと離れる。
「じゃあな!」
「ばいばーい!」
カズトとホノカは手を振って出発した。
タクミやダイチ、ダイスケらは一足先に家を出ていた。
タクミのアーマーロイドのミホは、元々彼の婚約者だったらしい。名前も実はそのままだ。だから数週ヵ月後には式を挙げるらしい。
ダイチはローナと一緒に研究を続けている。唯一ローナだけが人間に戻ろうとしなかったのだ。
そしてダイスケは自首し、刑務所にいる。イスパードとして暴れていた件についてだ。しかし、国を救った英雄であることも称され、刑期は短めだ。と言っても、3年はそこで暮らすことになっている。
ルーラやムーラは人間に戻るとすぐに国を出ていった。世界を旅して廻りたいらしい。
元クートと元パレンは国の機関に属することになったらしい。詳細は聞かされていない。が、あの二人ならなんとかなるはずだ。
元ウーペはとあるカフェで店員として働いている。
キドラだったアカリは、元々エージと付き合っていた。しかもボクサーのエージを陰で支えてくれていたらしい。心配することはないだろう。再会した途端、エージは泣いていた。
ミユは元々住んでいた家に戻った。ミドリが家にいないときは一人で心配になるらしく、たまに戻ってきては遊んでいる。
そして問題のラータ…ナツミだが、彼女はどうやら幼い頃からアーマーロイドとなっていたらしく、学校には行っていない。だからこの世界に一人で生きていけるかどうか分からないという。それならショウとずっと暮らすことを選んだ。
最終的にどうなるか分からないが...とにかく、ナツミはずっとショウといるらしい。
「なぁ、ナツミ。」
ひたすらパソコンのキーボードを鳴らすショウが彼女を呼んだ。
呼ばれたナツミが家事の手を止める。
「この家から引っ越さね? 無駄に広いのも嫌でしょー。」
「…私はそんなことないけど…?」
「……そう…? ま、ナツミがいいならいいんだけどさぁ……。」
不服そうに彼が言った。
ふと思い出したかのように、彼は自分の着ているコートのポケットに手を突っ込んだ。
「ナツミ、これ。」
そう言って小さな箱を彼女に投げ渡す。両手でキャッチした彼女は、きょとんとした様子でショウを見た。
「まぁ二人で暮らすってなったらさー、“経緯”って大事でしょ?」
彼はナツミの顔を見て言った。平常心を保とうとしているようだが、口元がゆるゆるで頬を赤らめているのは確かなようだ。
彼女はその箱を開けて見ると、中には小さなダイヤの指輪があった。
「え、これ……?」
「…これから先、ずーっと二人でいるなら……結婚した方がいいだろ…。」
少し恥ずかしそうにした様子で彼は言った。
返事はもちろん、イエスだった。
Android #44 祈り
ショウ「終わった……終わったんだぁー!」
エージ「アカリー!!」
アカリ「エージー!!」
ショウ「はぁ……ったく……」
ナツミ「ショウ? プロポーズ直後ですよね?」
カズト「なぁんだってぇえ!!?」
ショウ「なっ……あー…まぁ、そうだけど……。だー! 恥ずかしいわ!」




