最終大決戦開幕
朝からエンディアやヴェルカーたちが街の人々を襲っている。
昨日、完全体...エルシーヴァ・ダークネスが一夜にして大きな塔を作り上げた。それは、辺りを破壊したことによってできた瓦礫を固めたものだ。
「これよりテオスは...世界を統べる...。まずはスラフからだ...!!」
ルーグがそう言った。
ブラックホールを思わせるようなエネルギーの大きさとは裏腹に、肌の色が真っ白になったエルシーヴァを見て、かつてない恐怖を感じた。
「さらに絶望に叩き落としてやろう...。」
ルーグは仮面をはずし、それを投げ捨てた。
「“アームド”...。」
完全体のエルシーヴァとアームドした。漆黒色の鎧と、その反対色の白のラインが入った鎧を身に纏った。胸部の真ん中にはなにやら目のようなものもある。
ルーグは首を鳴らし、腰にあるスカートをなびかせた。
勝てる気がしない程に圧倒的なラスボス感を放つルーグに為す術の無さに気付いた。
「そうだな...ルーグ改め、“シヴァレス”とでも呼んでもらおうか。」
「ザッケんなよ...!」
レイシスが言うと、ウルフやクレイ、ダーブロルが身構えた。
「無駄だ。」
立ち向かった彼らに腕を伸ばすと、彼らの目の前で大爆発が起きた。
勝てない。
一発でそう思った。
「今日のところは退いてやるよ。じゃあな...? フッハハハ...!」
シヴァレスの高笑いが街に響いた。
そして今...。
なるべくエンディアたちを片付けようとクレイたちが必死に戦っている。
シヴァレスはその様子を塔の上から眺めていた。
ミユが街の人々を安全なところへ避難させている間、ショウは廃墟と化した官邸の中を走っていた。目的はアーマーロイドたちと生存者の確保だ。今のところクートとパレンはなんとか生きていた。あとはムーラとルーラ、そしてラータだけだ。
広い官邸内を走り、ようやくたどり着いた一室に彼女たちはいた。
だが二人だけ...。
「ルーラ、ムーラ、大丈夫か!?」
声をかけると、ルーラの指がピクリと動いた。そして微かな声で妹のムーラを助けてくれと願った。彼女に声をかけても返事はなく、動きもしなかった。まさかと思ったが、想像していたことにはならなかった。ただ、重症であることは確かである。ルーラは起き上がり、ムーラを連れてその場を離れようとした。
「大丈夫。生きてる。むしろ動かさない方がいい。」
ショウがそれを制止した。彼女は一度静かに頷くと、妹の隣に座った。
この大混乱の中では救助隊も来れない。もちろん街での怪我人が多いからだ。
「ラータはどこだ...?」
ルーラが指さす方向に居たのは、壁に寄り掛かる女性の影だ。
一瞬ゾワッとした。神に祈りながらその女性に声をかける。
「...しょ...う...?」
「ラータ...! よかっ...。」
言いかけた言葉の続きは出なかった。ラータの髪の色が白くなり、ボサボサだった。非常に弱った様子で、顔を上げるのもやっとだった。
その瞬間、再び自分の判断ミスを責めた。正解が分からない選択肢ばかり起きる人生そのものを恨んだ。
「ぶじ...だった...ですね...?」
「.....あ、あぁ...。」
「よ...かっ...た...。」
ショウの頬を涙が伝った。ラータが無理矢理笑んだことにより、さらに自分を責めた。堪らずラータをそっと抱き締めた。
「ごめん...ごめんな...! 護ってやれなくて...ごめん...!!」
「......。ショ...ウ...?」
「クソ...俺がもっと...冷静でいれば...!!」
ラータは残されている力を振り絞ってショウの頭に手を置いた。
「ショウ...。」
ルーラが声をかけた。
「慰めじゃないが...あの家から出た頃には既に...何体かによって包囲されていた。なんとか...撒いてここまで来たんだ。多分、目星を第一、第二、第三に分けていたんだろう...。」
そんな簡単なことも容易に考えることができなかった。そのせいでラータを苦しめている。罪悪感が自分を刺す。いっそ死にたいと思った。
「ラータ...俺は...俺は...__ 」
ショウの口をラータの唇がそっと押さえた。
「手足...動か...ないの...で...。」
でこを合わせ、見つめ合う。
「大丈夫...。まだ...いけます...。」
「でも...。」
「平和...のため...戦う...“勝利の戦士”...。」
「ラータ...。」
思うように言葉が続かないことに苛立った彼女は、外部スピーカーを使うことにした。
「あなたと作った、平和のために戦う戦士...。また私と一緒に戦ってくれますよね...?」
ショウの目から涙が溢れる。こんなときなのに彼女は__ 。
「...ばか...。そんな弱ってるのにアームドなんて...死ぬかもしれないんだぞ...?」
感情を押し殺しながら言う。
「なにもしなくても殺されます。どうせ同じ死ぬ運命なら、せめてあなたと...私の主と...私の...。」
言葉をとぎらせ、そして続けた。
「“大好きなあなた”と、一緒に戦って、死にたいんです...。」
聞いていたルーラすらも目から液を流していた。初めてのことで、この液体の正体も分からないが、少なくとも悪いものではないのは分かっている。
「......今...告白かよ...。」
フッと笑い、涙が含まれている声で言うと、ラータの表情も微かに明るくなった。
「告白です...。あなたのことが好きなんです...。アンドロイドなのに...。...変ですか...?」
「...変だよ。」
二人はクスッと笑った。
「行こう...“相棒”...。」
「主の...仰せのままに__ 」
クレイたちがエンディアを相手に苦戦していると、紫色の斬撃が飛んできた。
そのあとに弓矢やグレネードランチャーの爆発も起きた。
「待たせたな、ルアフの英雄!」
エリアスたちだ。
ギルドのメンバー全員が総出でルアフの民を助けに来てくれた。
ダーブロルがヴェルカーたちを相手に苦戦していると、朱色と青色の斬撃が飛んできた。
「お待たせしました!!」
リュウガとフィリオたち、そして見慣れない隊...ヴェルカー退治部隊だ。
今、ここに英雄たちが集結した。
「敵を沈めろ!」
エリアスが言うと、皆が一斉にかかった。
「僕たちもいきましょう!」
英雄たちとシヴァレスの戦争が勃発した。数はもちろん敵が圧倒的に多い上、まだ住民たちがいる。この戦いがどこまで起きているかは分からない。しかし、とにかく敵を倒しつつ住民たちを救出すべきであることは確かだ。
「ほう...?」
シヴァレスが立ち上がり、下界に降りた。辺りのエンディアやらヴェルカーが彼の気迫に吹っ飛ばされていった。
「この世界から追い出してやるぜ...害虫がよ!!」
クレイが赤と黒の光を宿した。エルシーヴァが乗っ取った際に残したエネルギーの一部だ。それが空のパワーナイフに入り込み、新たなナイフを作った。
《クレイ・アレスフォーム!》
起動させてナイフを挿し替える。
エル・クレイを彷彿とさせるデザインの鎧に変わった。
「うぉぉぉお! 力が...み! な! ぎ! るぁ!!」
『よっしゃー! いこうぜ、エージ!』
シヴァレスとクレイが激突した。その後に続いてウルフも加わった。
「今日がお前らの命日だ。」
相手がそう言うと、クレイとウルフが息を揃えて言った。
「やってみろよ!」
同じエネルギー同士の激突で、辺りが窪んだ。しかし、相手が圧倒的にその力を上手く使いこなせる。そのため、クレイが押され始めている。ウルフも格闘するが、シヴァレスの前にはどちらも相手ではなかった。
離れた所に避難した人たちは、この戦いの行く末が気になって仕方なかった。中継が大きなモニターに映されている。
街一帯のあちこちから黒い煙が上がり、炎で燃えている。時々轟音をたてて爆発も起きている。こちらもそのうち敵の攻撃が...と思うと恐ろしくて堪らない。そしてモニターに映るその光景からどう見ても相手の方が勝っていることが伺える。
「くそ...やっぱヒーローなんていなかったんじゃねぇか...!」
「俺たちに『絶対に勝つ』って言ったのに...嘘だったんだ...!」
街のど真ん中にそびえ建っている塔が不気味な雰囲気を伝わせる。
「...それを言った赤と青のやつだっていない...。もう終わりだ...終わりなんだ...!!」
一人一人が終末を予感し、口にした。その中にまだ諦めない者などいない。
しかしその中の一人、ミユを除いては。
ふとあることを思い付いた彼女は、急いで家に戻った。
「やべぇ...やっぱ強ぇ...!」
クレイがそう言うと、シヴァレスが出したエネルギーの球をぶつけられ、そのダメージによってアームドが強制解除されてしまった。
「クレイ!!」
ウルフも同じような攻撃を受け、強制解除された。
「これでお前らも...終わりだ...!」
とどめを刺そうとしたが、何者かに防がれた。
「待たせたな...みんな...。」
「お前......!?」
赤と青の鎧を身に纏った平和の守護者...。
勝利を名前に掲げ、誰もが笑って暮らせる世界を心から信じ、願う戦士。
__ ジクティア。
Android #41 最終大決戦開幕




