悪夢という絶望
エル・クレイがレイシスと戦闘を繰り広げていた。
街中で暴れられていることもあり、たくさんの人たちの目につく。
「仲間同士が戦うところを見るのも悪くねぇな...。だが...目的はお前らじゃない。ラータ...ナツミだ...。」
ルーグはウルフとダーブロルを同時に相手していた。
「うるせぇ! この世界から出ていけ!!」
ウーペ、パレン、クート、ルーラ、ムーラ
たちのパワーナイフを念のために作った。それで変身できるわけではない。が、これがあれば必殺技は撃てる。みんなそれぞれのナイフを2本ずつ携帯している。
早速ダーブロルが自分の武器にパワーナイフを挿し込み、エネルギーを溜める。引き金を引いて一気に撃ち込んだ。クートのナイフで、効果は弾の分裂だ。
「その程度か。」
マチェットを大きく横に振ると、斬撃が飛ばされ、当たったところが爆発した。
「くそ...!
「お前たちじゃ、俺には勝てない。」
一方のエル・クレイもレイシスを圧倒していた。強すぎる。
「クレイ! 早く目を覚ませよ! もう...もう...!」
「...。」
「ショウは戦えねぇんだぞ!!」
「...!?」
一瞬だけ仮面の奥にある瞳が反応した。
「相棒のお前がそんなんでどうすんだ!」
「...。」
エル・クレイがレイシスを殴り飛ばした。背中を強打し、その跡が地面に刻まれている。
「くそ...お前...強ぇな...!」
レイシスが息を切らしながらそう言った。
「ショウ...その...。」
ラータが呼んだ。
「...どうした?」
「多分...皆...ルーグのところですよね...?」
彼女は申し訳なさそうにきいた。
自分のせいでショウが戦えないと分かっているからだ。
「まぁ、そうだけど...。でも大丈夫だ。たまには主役の俺以外のキャラも立たせないといる意味ないだろ? 気にすることはないよ。」
彼はニコッと笑って言った。
彼女はしゅんとして部屋に戻った。その様子を見たショウは、少しラータを騙していることに胸を締め付けられるような感じがした。しかし無理矢理に戦わせるわけにはいかないと自分に何度も言い聞かせる。それでもレイシスたちのことが心配でソワソワし出す。
すると、急に電話が鳴った。
出てみると、そのスピーカーからルーグの声がした。
《ナツミを連れてここに来い。 でないと...レイシスらを殺す。》
そんな見え透いた罠に引っ掛かるわけ無い。が、エル・クレイとやらの力量はカズトたちからきいた。デタラメでもないようだ。
ショウは悩んだが、仕方なく従うことにした。
バイクに乗って現場に到着したショウが最初に見たものは、ボロボロになっているガーディアンズたちだ。膝がついている程度で今は済んでいる。しかしこのまま戦闘を続けたら今度こそ死んでしまう。ルーグの余裕の仮面越しにも分かる薄ら笑みがそれを悟らせた。
エル・クレイがショウをなめるように笑んだ。
「さぁ、ナツミを差し出せ。そうすれば危害は加えない。」
深々とフードを被った女性が彼の後ろに立っている。ルーグはその人を寄越せと言っている。
その人がよろめきながらルーグの元へ行く。
エル・クレイが違和感を感じて攻撃を仕掛けると、フードが外れた。中にいたのはミユだった。
「ミユたん!?」
レイシスが目を丸くして彼女を見た。
「ふざけるなよ、ショウ。」
エル・クレイが彼女の首を掴み、持ち上げた。
「もうラータが居なくても戦えるようにならないとな...ダメなんだよ...。分かるだろ...レイトさん...。」
「...?」
ショウが取り出したのは、ネガのパワーナイフだ。ホンモノがニセモノのヒーローになり、戦う。どこかショウの運命...彼の人生の比喩のように思えた。
「お前だけじゃエルシーヴァは倒せないぞ。」
ルーグは呆れた様子でそう言うと、ライフルを取り出した。
一方、ラータはパレンたちによって政府官邸に避難していた。
それを探知したエンディアたちがそこを襲う。なんとかクートたちによって被害は押さえられている。しかし、それも時間の問題だ。
クートが撃った弾丸がエンディアの体を貫く。
「これじゃきりがない...!」
パレンがブレイクアローで辺りの敵を片付ける。
「でもやるしかないよ!」
ウーペがニードルグローブと高水圧ジェットで敵をなぎ倒す。
特殊国防軍もエンディアと戦闘を繰り広げていた。
ムーラとルーラは、その高い戦闘力からラータを護衛させている。
「ラータ、大丈夫かい?」
ルーラが声をかけてきた。
ラータは静かに頷くと、申し訳なさそうにした。
「まるでお姫様みたいだな。こうして護られるなんて。」
少し羨ましそうにルーラが言う。緊張を和らげようとしたのだろう。
家から持ってきた毛布をかけ、安静にさせる。
「大丈夫だよ、ちょっと悪い夢だって思っていれば!」
ムーラがニコッと笑って言った。彼女とパレンは似たようなものを感じる。
ルーグは遠距離からでもエンディアたちを操れるようだ。だが、それは既に調べていた。そう、アライ モモの記録だ。
ヴェルクウイルスと命名された微生物を体に宿している者は、遠距離からでも操作が可能だ。と書かれていた。
「お前を殺したくはないんだ、分かるだろう?」
「俺を殺せばラータ...ナツミも消えるからな。」
「...。痛い目に遭いたいようだな。」
エル・クレイに指示すると、彼はすぐにネガ・ジクティアを襲った。
ネガはエル・クレイの攻撃を懸命に避ける。それしかない。さばこうとさず、反撃しようとしない。そうして時間を稼ぐ。
「皆お待たせ...!」
ミユがレイシスたちの元へ駆けた。
「ミユたん...どうして...?」
「回復魔法...。私、魔法使いなの。」
両手をかざし、ガーディアンズに回復魔法をかける。緑色の優しく穏やかな光が彼らを包んだ。
「効いてる...。さすがだな、ミユ。」
ダーブロルが言った。
「私にできるの...これくらいしかないから...ごめんね...。」
「謝ることないよミユたーん!」
傷が治って痛みもひくと、皆立ち上がってミユを護るように前に立って並んだ。
「推しに応援されてんだ...。朽ち果てるわけにゃいかねぇな...。」
『カズ、例のやつ試してみる?』
「例の...。ボルケーノフォームってやつか...。やるぞ、グメア...!」
ショウが作った特殊な形のパワーナイフを起動させ、パッドにあったナイフと差し替えた。
《ボルケーノ・レイシス!》
電子音が鳴ると、マグマを彷彿とさせるデザインの鎧になった。所々からマグマが吹き出しており、近くにいるだけでも熱気を感じる。
「いくぜコラ...。」
低い声で呟くように言う彼の瞳はしっかりとエル・クレイを捉えていた。
ぐっと握り締めた拳を突きだすと、早速ヤツを殴った。
「なんだよこの力...!! ...誰も俺を...! ...ミユたん以外は止められねぇ...!!」
『カズっぽいと思うよ...!』
ボルケーノの力は制作者のネガでさえを驚かせるものとなった。
「俺たちもいくぞ、ミホ!」
『はい!』
グレイシャルのパワーナイフを起動させ、挿し替えた。
《グレイシャル・ウルフ!》
彼の鎧が氷河を思わせるデザインとなっており、辺りには冷気が漂っている。足元が白い煙で覆われている。遠くにいても狼の眼で睨まれるようなプレッシャーを感じる。
「ほう...面白いほどに力がみなぎる...!」
彼はそう言ってエル・クレイに立ち向かう。
二人の圧倒的な力に押されている。
レイシスの熱い拳が体に叩きつけられる度に小さな爆発が起きる。一方のウルフは空中の水分を瞬時に凍らせ、そのつぶてを飛ばして援護していた。まるで魔法のような攻撃の仕方に、ミユは少々興奮気味だった。もちろん本人も。
レイシスはボディブローをキメ、エル・クレイは少し苦しそうに当てられた箇所を押さえる。
「目ェ...覚ませコラ...!!」
胸ぐらを掴み、拳を振りかざす。そしてそれを胸部の真ん中に叩きつけた。
「エージ!」
ある一人の女が人名を呼んだ。
赤みを帯びたオレンジ色の髪で、セミロングくらいが特徴的の彼女は、ヘッドホンを常に首にかけている。
それによって反応した男が彼女を見る。
「アカリ? どうした?」
そう、彼がエージである。赤茶の髪で、ボサーっとした髪型が特徴の彼は、見習いの格闘家である。
彼女が首にしているヘッドホンは、このエージが買ってあげたものなのだ。
「アカリぱーんち!」
彼女はそう言って拳を突きだし、彼の胸部を狙うが、さすが格闘家であることもあり、素人のパンチをいとも容易くガシッとつかんだ。
すると、その手を引っ張り、彼女を抱き締めた。
「アカリー!」
横向きになっている彼女をぎゅっとしめる。
「わっ! 苦しいよー!」
満更でもなさそうに彼女は微笑んだ。
「てゆーか、手が当たってる!」
「うぉっ! 悪ィ!」
慌ててバッと離し、謝ると、彼女は
「んふふー!」
と笑って抱いてきた。
「エージ、大好きだよ!」
「俺もだ...!」
__ だからきっと、お前を助ける。
もう少しだけ待っててくれ。アカリ...。
「エージ、そろそろ休憩でもどうだ?」
そう言って一人の男がエージにスポーツドリンクを手渡した。
「先生...俺は__ 」
「分かっている。強くなりたいんだろ? でも疲れてる体に鞭打っても仕方ねぇ。彼女さん、手料理作ってくれたんだろ? もう昼だ。食え。」
エージが先生と呼んだその男はニッと笑って言った。
「休憩が終わったら、俺と手合わせしてみるか、エージ?」
「勘弁してくださいよ...! 先生に敵うわけねぇじゃ__」
「いや...? お前なら絶対、俺を越えられる。そして見せてくれ。チャンピオンになって、トロフィーを掲げるお前の姿を...。」
__ 先生...。俺は絶対に誰にも負けねぇ。そう誓うよ...。
_ まただ。俺は何で...。いつも何も守れねぇし...恩返しも満足にできねぇ...。
俺みたいなの...生きてていいのか...?
エージは一人、暗い心の中で自分を見失っていた。エルシーヴァに操られ、仲間を傷つけるところをただ見ていた。
「ショウは戦えねぇんだぞ!!」
レイシスがそう言った。その言葉に驚きを隠せなかった。それと同時に怒りがわいてきた。自分に対してだ。こんなときなのに何もできない、自分に。
_ いや違う。何もできないんじゃない。最初から抗うなんて無理だと思い込んでなにもしなかったのだ。
「笑えて来るぜ...。そんなの俺じゃねぇだろうが...! なぁ...そうだろ、アカリ...!先生!」
その怒りを糧に、エルシーヴァに抗う。無理でもなんでもやるしかない。でないとショウたちが殺られてしまう。
「目ェ覚ませよ!」
レイシスが自分に言った。
エージには大切な人がいた。しかしそれは失った。絶望に暮れた時、ショウとラータがそこにいた。だから落ち込まずに済んだ。
「待ってろよ...皆!!」
「目ェ...覚ませコラ...!!」
レイシスたちの攻撃によるものか、エル・クレイが苦しみ始めた。頭を押さえ、膝をつく。
「今だ...やるぞ、レイシス...!」
「いま技ァ使ったら...死んじまうだろうが!」
「“必”ず“殺”さない程度に調整された“技”...だ...。」
「...冗談キツイぜ...ったく...!!」
二人は拳を地面に思い切り叩きつけた。エル・クレイに氷と溶岩が迫り、打ち上げられた。
《ブリザード・ブレーク!》
《フレイム・バースト!》
二人は打ち上げられたエル・クレイにキックを食らわせる。空中で爆発をお越し、二人が華麗に着地した。
エルシーヴァが落下し、地面に激突した。その横にエージを下敷きにしてキドラがいた。
「エージ!!」
ウルフたちが彼に駆け寄る。
「いってぇ...。...あれ...結構いてぇんだな...!」
キドラをしっかり抱き締め、落下によるダメージがいかないようにしていた。なかなかの漢だ。
キドラも気が付いたようで、顔を真っ赤に染めていた。
「エージ、体動くか?」
「戦えってか...?」
「いや、今からエルシーヴァとルーグを相手にする。お前らを護るほどの余裕は無いから、一人で帰れるかと思ってな。」
「へっ...俺なら問題ねぇ...!」
キドラは彼の闘志を察し、急いで起き上がった。
「行けるか?」
エージは彼女にきいた。
「もっちろん...!」
「それじゃ行くぜ...!」
エージはキドラをアームドしてクレイになった。
「...抜け出されたか...まぁいい。」
ルーグはネガと交戦しながら様子を見て言った。
「だが、俺の本来の目的はナツミ...。丁度エルシーヴァのやつもナツミの居場所を察知したみたいだしな...?」
「......は...!?」
「言ったろ? ナツミとエルシーヴァは親子...だから居場所を探ることくらい余裕だ...。」
ニンマリと笑みを浮かべながら言ったのが仮面を越しても分かる。
「ふざけんなよ...!!」
「おっと、そもそも俺がエンディアたちを捜索に向かわせた時点で大体の目星はついていた。よく考えればそうだろう?」
「くそ...!!」
エンディアはすぐに姿を消した。
まずい。あそこを護っているのは...。
《CP! こちら第一部隊! 部隊壊滅寸前! 撤退命令をくれ!》
........。
《...? CP! 応答願います!》
................。
《まさか...。うわっ! うわぁぁあ!》
ブチッ...。
「ウフフ...♪ これで完全体...。」
エルシーヴァの体が白と黒の光のオーラを出していた。
「...ッ......!」
ムーラがボロボロの状態になってなお、エルシーヴァを睨む。
「あらあら、動かない方が良いわよあなた?」
「ラータちゃん...護れなくて...ごめんね...。」
パレンはそう言うと、気絶した。
ラータは___
Android #40 悪夢という絶望




