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アンドロイド  作者: 中川 はじめ
43/49

黒崎夏実という女性

ルーグはレイトの娘と嫁をアーマーロイドに改造していた。

娘のナツミはラータ、嫁がエルシーヴァだ。一体何故クロザキ家が狙われたのだろう。


「気付いたか。エルシーヴァは...お前の母親、“クロザキ メイ”...だ...。」

レイトはにやけ顔を浮かべながらルーグに変身した。

『うっ...うぁああああ!!』

ラータの声と共にジクティアの鎧がザラつき始める。それと共に力を失われていくのを感じ、脱力感によって膝から崩れ落ちてしまった。

「アーマーロイドはいくつもある特定のキーワードを言うことで人間に戻る。ラータを失えば、お前の力もなくなるな! ジクティア!!」

赤と青の光の粒子が少しずつ浮かび上がり、うっすらと消えていく。

「ふざけるな...お前...ッ!」

「初号機の制作には俺も携わっている...。だからそれがわかる...。1つは...。」

_ 異世界

_ 記憶

そして......。

ルーグが言いかけたとたん、レイシスがナックルで殴りかかった。クレイたちがジクティアを庇うように立ちはだかったのだ。

「お前ら...!」

ダイチがジクティアの肩を持ち、撤退を始める。

「逃がすかァ!」

エルシーヴァに指示を出して彼らを攻撃しようとしたが、ウルフがそれを阻止した。

彼女は上空に浮かんでつまらなそうな表情でルーグを見た。

「チッ...!!」

彼がウルフをはじめとするガーディアンズを睨む。

「もうてめぇの好き勝手にさせるかよ...!」

レイシスが自分の親指を胸部で突いた。

“俺を殺すなら、ここを射抜け。”

要するに挑発だ。

「リーダーは守らせてもらう。」

ウルフが手のひらを相手に見せた。

“腹部は弱点。知られて分が悪くなってもお前には屈しない。”

決意、闘志の表れだ。

「バッキバキに気合い入れたぞ!!」

クレイが拳を握りしめ、それを突き出した。

“ぶっ飛ばす。”

そのまんまだ。

「正義の心は...揺るがない...。」

腰を低く落とし、相手をにらむ。

“醜悪、俗悪を逃がさない。”

正義を心に誓った者の怒りだ。

「格好つけちゃってまぁ...。ボロ負けして後で恥ずかしくなりやがれ!!」

ルーグは両手に赤い光を浮かべた。前につき出すと、それは球状になって飛んでいった。ガーディアンズがそれを避けると、地面の土を大きくえぐりながら爆発を起こした。

「許さねぇ..!」

レイシスとウルフが二人で相手にかかると、エルシーヴァに阻止された。

「まずはお前か...!」

ウルフが彼女を強くにらむ。

「うっふふ♪ 殺れるかしら?」

片手をかざすと、同じように赤い光を浮かべた。

「あんなバケモン..お前らだけじゃ勝てないだろ...!」

ダーブロルが助太刀に入った。

ウルフ、レイシスと目を合わせ、頷く。


「おらぁぁあ!!」

ドラロクナックルで格闘に持っていき、ルーグと交戦するが、相手は踊るようにそれをかわす。

「フッハハ!! クレイ! 強くなったなぁ!!」

「うるせぇ!! この__」

搭載されているボタンを親指で長押しし、エネルギーを溜める。

『クソヤロウが!!』

キドラの声と共に本体をルーグにぶつけてそれを解放する。青い光を含んだ爆炎が巻き起こった。

「ぐっ...!」

「まだ終わりじゃねぇぞ!!」

クレイは専用の剣を取り出すと、それをつかって攻撃をしかける。先程のダメージのお陰もあってか、ルーグから余裕がなくなったことが伺える。さすがに堪えるようだ。

「薄ら笑い浮かべやがって! キメェんだよ!!」

エリアスに教わったことを活かしながら攻撃をしかける。

第一、第二、第三、そして第一に戻り、二回目のループで、第四の斬撃パターンで狂わせる。

「お前...どこでこんな技を...!」

「教えるもんかよ!」

『ボクだって!!』

クレイの攻撃を終えると、キドラが彼の右手を使ってドラゴンの特有攻撃を仕掛けた。それは、龍のような形をしたエネルギーの光線だ。

「ぐはっ...!?」

足元をよろつかせ、崩れる。

「終わりだ。ルーグ。」

「...ッ! ...ふ、ふふふ...。計画を狂わせられるとはな...。くそ...。悔しいもんだ...。」

クレイはそう呟くように言ったルーグにとどめを刺すため、剣を振りかざした。

「だが...。俺の計画には...。」

振り始めたその瞬間、クレイの体に電撃が走った。

「もしものための“保険”があんだよ...。」

体が動かなくなったクレイは、持っていた剣を落としてしまう。

後ろでレイシスたちがエルシーヴァに圧倒されていた。

桁違いの能力を持った彼女には勝てない。そう確信した。

彼女はつまらなそうにダーブロルたちを一瞥すると、ルーグの隣に戻った。そしてクレイの頭をそっと撫でた。この時彼は、恐怖と共に、懐かしさを感じていた。いや、これは彼ではない。キドラが感じていた。

「キドラのドラゴンのエキスには、念のためエルシーヴァの力の一部を仕込んでいたんだよ。本来なら、エルシーヴァを召喚したあと、そのエキスを彼女に取り込んでもらう予定だった。だがお前はその力に適合したせいで、それが不可能になった。だがそれは、逆に力を成長させることに繋がる。だから俺は、キドラをチャージロイドに進化させてやったんだ。長い間ありがとうな、エージ。」

エルシーヴァの姿がパッと消えた。その代わり、クレイの鎧が禍禍しいものに変化し始める。

エルシーヴァの力が覚醒した、エル・キドラがエージにアームドした姿、“エル・クレイ”となったのだ。

「さぁ、まだ少しの間だけ成長させるための...エルシーヴァの苗床になってもらうぞ!」

ルーグは首を鳴らし、レイシスたちを睨んだ。

「...まずいんじゃねぇか...!?」

彼が言うと、ウルフがやっとのことで立ち上がって構えをとる。

エル・クレイはそれを見て襲いかかろうとした。

しかし、そこに現れた二人の戦士がそれを阻止する。

「お前ら...!」

ルーラとムーラだ。

かつてカズト...レイシスと共にルアフを攻めた二人のアーマーロイドが今、目の前にいた。

「待たせたな、カズトよ。」

ルーラがフッと笑って言った。

「頑張っちゃうよー?」

ムーラは呑気に微笑んだ。

「...無茶だ...! ここは一旦退くぞ!!」

「...ま、確かによく見たらやばそうだね...!」

この二人はやる気だ。

『カズ、私たちもやろ! 大丈夫、二人はあの時より強くなってるよ!』

グメアまでそう言い出した。

二人にはグメアの声が聞こえたようで、自分達が知っていたかつての彼女ではないことに驚いていた。

レイシスはやれやれと立ち上がり、再び親指で胸部の真ん中を突いた。

「“てめぇをぶっ潰す…覚悟しろ…”!」

三人は構えると、ルーラとムーラがルーグを、レイシスはウルフたちを起こしてエル・クレイと戦い始めた。

激戦が山の頂で繰り広げられている。

「カズトに続いて貴様らも裏切るか!」

ルーグが剣を取り出して言った。

「ダイチがそうプログラムしちゃったからね! 仕方ないよね!!」

「覚悟しろ、ルーグ!」

既にボロボロのルーグには、アーマーロイド単体を相手にするのもやっとだ。

エル・クレイは強大な力を惜しむことなく発揮してレイシスを圧倒した。

「クレイ! 目ェ覚ませ!!」

「.........ッ!!!」

レイシスの声は、果たしてエージに届いているだろうか?


……………………。

「お母さんどこー!」

煤で顔を汚した少女が大声で泣き叫ぶ。その声が響いてこだまするのが聞こえている。皮肉にも晴れ渡った青空の下は、エンディアが暴れたせいでボロボロになっている町があった。瓦礫が自然に崩れ落ちる音やサイレンの音、爆発したせいで引火した火の燃える音が聞こえてくる。そしてそこに紛れ込んでいた母を探し迷い混む少女の声。その声は母に届くこともなく、ただひたすらに無意味に響いているだけだった。そしてその声の主である少女は無意味でも大声で喚くだけだ。

「いた…! 大丈夫!?」

ラータがその女の子を見つけて保護しようとするが、突然、目の前で背の高い大人の女性が何者かに連れていかれるビジョンが見えた。女の人はこちらに手を伸ばして必死に叫んでいた。その人が一体何者なのか、なによりもそれは一体なんなのかの一切が分からない。だけどラータには1つだけ分かったことがある。この視点から察するに…私の視点だ…と。

「な…つ……み……?」

無意識に誰かの名前を呟いた。

「ひっぐ…お姉さん…なんで私の名前知ってるの…?」

「……へ…?」

違う。この少女は知らない子の“はず”だ。ならナツミとは誰のことだ…。ラータは必死に考えるが、また瓦礫が落ちた音が聞こえてハッとする。今はそんなことよりこの子の命を優先すべきだ。彼女は少女を安全なところまで連れていくことにした。


あの時…この記憶は確か___


………………。

ショウたちはルーグたちから大分距離を取ると、アームドを解除していた。

「ショウ...私は......?」

ラータの表情は未知の恐怖に怯えていた。

頭に生えているウサギの耳の片方が青色の触角のようなものだったが、それらは既に無くなっていた。

「人間に戻りつつあるな...。」

ダイチが言った。

「私は...。」

今にも泣き出しそうなほど怯えている彼女を見て胸が苦しくなった。

「大丈夫、大丈夫だぞ、ラータ。」

優しく抱き締め、頭をそっと撫でた。それな安心するようで、彼の肩をしっかり握った。

「ショウ...。」

「大丈夫、大丈夫だからな...。」

ジクティアの力を失うわけにはいかない。それはラータも分かっていることだが、システムが徐々に初期化されていく。

「ラータ...。」

ダイチはショウのパワーナイフセットを見て思い付いた。

「お前たちは帰っていろ。俺はあいつらを連れて戻る。」

「お前、どうやって...!?」

「ニセモノのヒーローがホンモノのヒーローになるなんて胸熱だろ?」

「まさか...。」

「そのまさかだ。借りるぞ。」

パッドに手を伸ばした。その手をショウが掴む。強く見つめたその瞳の奥には、“死ぬな”の一言が込められていた。兄弟だと名乗るだけあってすぐにそれを察知した彼は、フッと微笑んだ。


エル・クレイはウルフたちを圧倒し続けていた。

そこにジクティアが現れた。

「ショウ...!? ...じゃねぇな...!」

レイシスがすぐに気付いた。

「緊急だ...! 急いで逃げるぞ! どっちみち今は倒せないだろ!」

ジクティアがそう言うと、ネガが使っていたライフルを取り出してエル・クレイに容赦なく発砲した。

「俺が時間を稼ぐ。その隙に早く退け!」

エル・クレイは瞬間でジクティアの間合いを詰めた。

即座にそれに気付いた彼は、マチェットを取り出して応戦する。

「要らねぇ...! 俺がこいつの目を覚まさせてやるんだ...!」

レイシスがそう言うと、ナックルを取りだして構えた。

「早くしろ...! グズグズするな...!!」

「......かっこつけちまったんだ...今更退くわけにゃ、いかねぇだろ?」

口角を上げ、そう言った。ボロボロの彼は、意地でもクレイの目を覚まさせると言い切る。

ジクティアは死んでも知らないぞと言い、ライフルを渡した。

「分かってくれてありがとよ...。」

「やばくなったらすぐに退け。いいな!」

「肝に命じとくさ!」

レイシスはそう言ってエル・クレイと再戦する。

ジクティアはウルフとダーブロルを起こして退くように言う。悔しそうにルーグを睨むウルフの肩をダーブロルが叩く。

「ここで死んでられねぇぞ...!」

「...分かってる...!」

彼らが山を下る間に見せた背中をある程度の距離まで守り、いつの間にか参戦していたルーラとムーラの援護に向かった。

「あんたは...!? いや、違うのか...?」

「話は後だ! 逃げろ!」

ルーグを思い切りぶん殴り、隙を生む。

ムーラの手を引っ張り、ルーラはその場を退いた。

「逃がす...か...!」

「お前ももうボロボロ...。エルシーヴァ頼りだろ。」

「...ふん...。まぁ...そうだな...。今日は退いてやる...!」

とんでもない奴だ。あんなにボロボロにされたのに、本当はまだ少し戦えるくらいの力がある。ルーグは手を二回鳴らすと、エル・クレイも姿を消した。

レイシスが悔しそうに空を見上げ、地団駄した。


事態は変わった。

ショウが本来のジクティアとしての活動できないのだ。

ラータの髪の色が可愛らしい桃色から黒色になりつつある。

「人間に戻ってるって...マジかよ...。」

包帯やら絆創膏やらで怪我の処置をされたカズトが言った。グメアがラータの隣に座って心配そうに見つめていた。ちょくちょく声をかけている。緊急事態につき、ウーペもパレンもクートもいる。

パレンが特に泣きそうな顔をしている。それに気付いたクートが彼女の頭を撫でる。

ミユが地下から上がってきた。手にしているのは、コンパクトにした能力測定機だ。これをアーマーロイドの頭部に当てると、データ使用量や調子などが表示される。もしバグが起きた後、データの消失率や破損具合を確認するためのもので、最初に作ったものだが、一度もそれがなくて使いどころが無くて使わなかったものだ。

「...これ...。」

ミユが深刻そうな顔でショウを見た。

「...やっぱりか...。」

アクティベーションもストロフも全て消えている。あるのは初期のアームドデータだけだった。ラータのパワーナイフも使い果たしたため、バックアップのデータが無いのだ。

“弱くてコンティニュー”

まさにこれだ。初期装備でラスボスに勝てるだろうか? いや、才能がない限り、もしくは二周目でもない限り、恐らく不可能だろう。

「どうするんだ...?」

「...ラータとしての力が残っているなら...戦うしかない...。けど...ラータはもう...ナツミと呼んだ方がいいくらい人間に戻っている...。あまり無理はさせられない...。」

ショウの顔が複雑な気持ちを描いた。

それは、戦えなくなるからではない。ラータがナツミに戻った時、自分達のことも忘れてしまうのではないかと思ったからだ。

「...そこで...お前たちのパワーアップアイテムを作る。俺がいなくても勝てるようにな!」

彼は作り笑みを浮かべながらそう言うと、地下に降りていった。


「ショウ...。」

弱った声でラータが呼んだ。

「お前...安静にしてろよ...。」

「そうもいきません...。」

よろつかせながら階段を降りる彼女を見て、ショウは転げ落ちないかと内心ハラハラしていた。

「どなたの...強化アイテムを...?」

「ウルフ...タクミのだ。やっぱ狼っつったら雪山...名付けるなら“グレイシャルフォーム”だな。あとレイシス...話をきいた限りではロボットらしいけど...ロボットといえば...なんだ? 油?」

少しだけ興奮気味に語るショウに、ラータは思わずクスッと笑った。

相変わらずだ、と言って。

「鉄を“溶接”なんてどうですか?」

「溶接...溶接といったら...溶...溶かす...。あ、炎か! いいなそれ! 名付けてファイヤー...だとなんか弱そうだから...。火山、...“ボルケーノフォーム”!」

懐かしい。かつてジクティアの名前も、アクティベーションフォームの名前も、彼女と話して付けたものだ。...ほとんど否定されることが多かったが...。

ラータはまたクスッと笑った。その笑顔はもはやショウも知らないそれだった。ラータとしてではなく、ナツミという女の子の笑った顔だからだ。

「ダーブロルは...なんだろ。ていうか、今のダーブロルって元々のダーブロルの強化形態か。」

ダーブロル..ダイスケは以前、ショウに電話で作戦を伝えた。

元々ルーグの作戦で、改心したように見せて内部から崩壊させる予定だった。しかし、彼はルーグを本格的に裏切り、その内容を流した。それでショウとタクミの二人で話し合い(カズトとエージはコンビニに行っていたため。)をして、あの作戦が出来上がった。驚いたのは、その後、ジクティア・ネガに変身していたカワカミ ダイチからも連絡が来たことだ。(カズトとエージにも話そうとしたが、忘れていた。)

結果的に作戦は成功し、面倒な性格だがローナも仲間になってくれた。

「じゃクレイ...。ドラゴン...ドラゴンこそ炎だったな...しくった...。」

ショウがボソボソと喋っていると、ミユとダイチも地下に降りてきた。

コンビニに行って夜食を買ってきて貰ったのだ。

「進んでいるか? ビビ。」

両手に袋を持ったダイチが言った。

「まぁ、名前が決まったくらいだな。」

ショウが答えた。

ミユは袋を適当なところに置いてラータを自分のベッドで横にさせた。

「俺も手伝おう。ローナもルーラもムーラグメアもキドラの強化形態も、俺がほぼ一人でやったんだ。」

「短期間でよくできたな。」

「まぁな。」

ミユがいたことによって作業のスピードが倍になったが、そこにダイチが加わったことによってさらに上がる。

血が繋がっているだけあってお互いに言葉にしなくても何をしてほしいかをほとんど把握していた。


翌朝、ようやくパワーアップアイテムが完成したことにより、それぞれタクミとカズトに渡した。

ラータの様子は昨夜から変わっていない。どうやら人間化は一時的に止まっているようだ。

翌々日、ルアフの空に大きな穴が空いた。


ルーグが呼んでいる。


Android #39 黒崎 夏実という女性

ショウ「回想のやつって9話だよね。」

カズト「そういうメタいこと言うのやめとけ。」

エージ「あー腹へった。」

ショウ「お前ら本編と関係ないからってめちゃくちゃ自由だな。」

ダイスケ「次回もお楽しみに…。」

タクミ「それじゃ、バイバイ!」

ダイチ「メチャクチャだ…。」

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