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アンドロイド  作者: 中川 はじめ
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ジクティア

レディナでジェスと戦った際、奴がエージたちに言ったことは現実にはならなかった。しかし、ショウがあれ以来沈黙していることも確かだ。

夜...。

一応、例のUSBは所持して来ている。彼はサムのコンピューターを借り、奴の言葉の真意を確認しようとした。

__ パスワードは、ラータ。

表示された文字は、『Who are you ?』

そしてその下に名前記入欄が出てきた。

ショウはそこにカーソルを合わせ、viviと入力した。

__ 『Clear』

すると画面に、赤い髪の女の人が現れた。


・この動画は編集されていない・

《アーマーロイド初号機、ラータ。クロザキ レイトと私...アライ モモが作った兵器シリーズの試作版。》

《アーマーロイドはアンドロイド。つまりー、えーっと。そうそう、人から作られてる。もちろんラータも。》

........。


約3分程度の動画の再生が終った。

頭を抱えた。真実を確認するような内容じゃないからだ。

しかも、冒頭に「編集されていない」と書かれた字幕が現れたが、そんなことはない。何故なら、発言の合間が切れている時があるからだ。完全にカットしている。細かいことだが。

内容をまとめると、アーマーロイドを作るためのエキスとそれによって手に入れることができる能力と、作り方に関することだ。

「...。」

ショウが難しい顔をしていると、サムの奥さんであるエリーゼがホットココアを淹れてくれた。

「大丈夫ですか? ショウさん?」

心配した彼女が彼に声をかけた。その後ろにミユもいる。それに気付いた彼は、彼女に言った。

「...アライ モモはその時作ったもの...知っていることをパスワードにした...。コア・システムの概要を見てたら、その下に暗号があって、それを解いて出てきたもの...。...ルーグの名前を入れたらクリアになった...。」

ミユが驚いた顔で彼を見た。

「ルーグは元々精神体・寄生生命体で、レイトさんに寄生しているだけらしい。しかもそいつは、こことは違う世界から来ている...。目的は分からないけどな。」

「別の世界って...どういうこと?」

彼女はきいた。

「パラレルワールドってことかな。」

エリーゼが彼の代わりに答える。

「パラレルワールド...!? そんなの本当にあるの!?」

「ある。けど、パラレルワールドとは違う。現にアライ モモが行ったことあるらしいし、アーマーロイドシステムの元もそこかららしい。」

「行ったことあるって...?」

「...断片的にしか書かれてないけど...。きっとどこかに詳細が書かれてる...はずだ。 」

自分の存在が、今の戦いに直結している真実。敵が思っていたよりも現実離れしていること。2つが重なり、頭の中がごちゃごちゃしている。

二人が部屋を出ていき、一人きりになると、ショウは再びコンピューターのキーボードに手を置くが、頭をかき、デスクに突っ伏せる。何も考えたくない。彼はそう思い、目をつむった。

「...。」

顔を上げると、あることを思い出した。電話を手に取り、エージたちにかける。

《俺だ、どうした?》

出てきたのはカズトだった。

「話がある。ガーディアンズを集めてくれ。」

通話越しでも分かるくらい真剣だ。

《何か用か?》

タクミの声がした。エージもいるか確認すると、返事が聞こえた。

「さっきのあの光の波は確認したな?」

《あぁ。どうやらここでのんびりしている場合じゃねぇみてぇだ。》

「それらが集まってできた大穴...。そいつは1時間毎に拡大している。何かを吸い込むものじゃないのは見て分かる。」

《ありゃ一体なんだ?》

「...分からない。けど、ルアフの首相から送られた衛生写真を見る限り...レディナ、サテル、クワラ、オーラモから波が出てきてルアフに集中したみたいだ。」

《スラフ州の東西南北の国々から中心に位置するルアフに集合...。あのエネルギーはアーマーロイドのミホたちも反応した、ということは少くともアーマーロイドかエンディアに関係あるもの...。》

「何一つヒントがない。無さすぎる。けど、今1つの仮説を唱えることはできる。」

イスパード、ダイスケが言っていた“究極の力”。もしこれが本当にあるなら、もしかしたらあれがそれなのかもしれない。

そう言えば入院していた...。いや...。

《究極の力...か...。》

《そういや、俺がお前らと対立関係にあったとき、ルーグの奴もそれを欲していると聞いた。》

カズトの声だ。

「...まさか本当にそれなのか...?」

《...だとしたらヤバイぞ...!》

「...! レディナに来た目的はこちらが達成した! 魔王もローナ..らしいやつもここにいる! あ、いや、魔王は倒した! こっちは俺らに任せて、そっちはもどれ!」

《..倒した...!? 分かった。ヘリを要請してすぐに戻る!》

通話が終わった。

悪い予感がした。魔王もローナも罠だった。

エンディアはヴェルクウイルスを体内に植え付ける手術をしたことによって完成される。つまり、アーマーロイドにも同様にそれが入っている。ラータを強化させたいなら、それに詳しい人物のもとへ行くのが道理だ。

そう考えると、全てのことが罠だったことに気付いた。まんまとはめられたのだ。今思えば、ルーグもイスパードも一瞬で姿を消す能力を持っている。

ということは、ギアルとルアフを一瞬で行き来することなんて容易いことなのかもしれない。

ショウは居てもたってもいられなくなり、部屋を出ようと扉を開ける。すぐ目の前にサムがいたことにビックリした。

「驚かせてごめんよ、ショウくん。」

申し訳なさそうに彼が言う。

「い、いや...大丈夫...。」

「それで、その、盗み聞きするつもりはなかったんだけどさ...?」

再び申し訳なさそうに言うと、ショウはその方が話が早いと思った。しかしどうすることもできない事実に、どうやって自分を落ち着かせようと考えていた。

ルーグや、紫の鎧の戦士の脅威がある以上、この国から出ていくわけにはいかない。

「ショウさん!」

フィリオやリュウガたちが来た。

「今、ルアフが大変なことになってます...!」

そう言ってリュウガが携帯の画面を見せた。

官邸の前に沢山の住民が集まっており、そしてパトカーが並んでいた。

「これ...。」

「エネルギーの波からできた大きな穴で、国民たちも怯えているんですよ...!」

エージたちからメールが来た。確認すると、どうやらヘリの到着が遅れるらしい。いつもは約1時間30分程で来てくれるのだが...。

「ここ、SBの拠点なのでヘリがあります。到着には時間を要しますが、今すぐにでも戻れますよ。」

サムが言った。

「でもまだ脅威がある...。ここを離れるわけには...。」

ショウが苦い顔をしてそう言うと、フィリオが彼の手を握った。

「また新しい武器が完成したんです。ここは任せて、早くルアフに戻ってください。」

力強い意思を感じた。彼らなら大丈夫。そう思った。

ショウは急いで支度し、ラータとミユを連れ、サムに案内される形でヘリポートへ向かう。既に発進準備は整っており、上部のプロペラは逆転しているかのような残像を刻みながら激しく回転していた。

「また会いましょう!」

フィリオが手を振った。

「あぁ! きっと!」

ドアをスライドさせて閉める。

《上昇開始!》

パイロットの声が通信機越しに聞こえた。

サムが見送りながら、真剣な顔でピースサインをした。

ピース、すなわち平和。

“平和な世の中できっと”


ルアフの空には月と、謎の黒い穴が浮かんでいた。あの穴は、正体不明のエネルギーの結晶のようだ。周りの景色が湾曲しており、異質なものであることが見てとれる。穴があるのは、国内で大きな山から約400km辺りにある。直径で約5kmはあるその大穴は、何かを吸い込んでいるようには見えず、何故そこにずっとあるのかは分かっていない。しかし、他国に出向いたショウたちの報告により、国内にいたテオスの主な勢力が他国にいることは分かった。その目的は分からない。この事態には国民たちも不安を隠しきれずにいる。

翌日の昼間には、官邸前に500人程が集まっていた。

「どうなってんだよくそ!」

「怖くて夜も眠れないんだよ! なんとかしてくれよ!」

「この国はどうなってしまうのですか!?」

警察も出動する騒ぎになっている。

「首相!!」

「国民を助けてください!」

そのルアフ国の長は、首相室から彼らの声を聞いていた。

「首相、いかがいたしますか...!?」

部下が深刻な顔で見てきた。

仕方ない。

彼は思った。

今までは本人の意思もあって内緒にしていたが、致し方なく公表することにした。

ヒーローの存在というものを__ 。


「ありがとう! 気を付けて帰ってくれ!」

《了解! あんたもな、ジクティア!》

ヘリから降り、パイロットに挨拶を済ませると、早速目に入ったのは、多くの人々がヴェルカーやエンディアに襲われている様子だった。

「ミユ、みんなを安全な場所へ避難させてくれ。ラータ...いくぞ...!」

「わかった!」

「はい...!」


__ この国は以前から、怪物による破壊活動が多く見受けられました。多くの損害や犠牲を出してきたそれにより、多くの人々が涙を流し、心を痛めたでしょう...!

しかし、その怪物、エンディアによる被害から皆様を助けるために戦う戦士がいるのです!

「正義のヒーローごっことか下らねぇこと言ってんなよ!」

「そうだ! それでも一国の首相かよ!」

嘘ではありません!

事実、皆様のなかに少なからず、彼の戦いを見た者がいるはずです! 助けられた者が、いるはずなのです!

「もっとまともに喋れよ!」

「見損なったぞ!」

__ 非難の声は相次いだ。それもそうだ。誰がこんな話を信じるものか。

_ 嘘ではありません! どうか、どうか信じて下さい! どうか!!

「うるせぇ薄らハゲ!」

「辞任しろ、辞任!」

__ 誰も、信じるわけ__

「嘘じゃないもん!!」

1人の女の子の叫び聞こえた。

「お母さんと離れたとき、助けてくれたもん!」

「...俺も見た...。訳のわからねぇやつ相手に戦ってる奴...。」

「嘘なんかじゃない!!」

少数派の叫びが、首相の背中を押した。

“彼”は言った。人知れず誰かのために戦うのがヒーローってもんだ...と。目的は富でも名声でも無く、純粋に平和、それだけだと。演説台を手で思い切り叩き、精一杯、そのヒーローの存在について説いた。

誰も信じないだろが、関係ない。今彼らが、国民のために戦ってくれている。見返りもないなか、ボロボロになりながらも。

そのヒーローの名は、“ジクティア”であり、仲間たちをそれぞれ、“クレイ”、“レイシス”、“ウルフ”...そして...。

「そんなにヒーローに会いたいか?」

赤黒いコート、仮面をつけた男、ルーグだ。

ライフルをとりだし、首相を狙う。

「こいつが言ってること、ぜーんぶ怪しいもんな。なら、言ってることが正しいかどうか、お前たちが味わうといい!」

ショーならここで敵に扮したスーツアクターが現れ、観客を襲うだろう。だが、これはショーではない。彼の後ろから600体近くの異形たちが現れた。

「首相に話がある。他のゴミを片付けろ。」

ルーグがそう言うと、異形たちは人々を襲い始めた。

逃げ惑う人々を追いかけ、捕まれば殴られるか食われる。官邸前に血の香りがほんのり漂った。1人も逃がすまいと完全に包囲している。

ルーグはまっすぐ首相の前に向かい、演説台越しに睨んだ。

「フッフフ...。」

彼は不気味に笑うと、首相の顔を掴んだ。

「助けてくれー!」

「死にたくない!」

あんなに首相の話に出てくるヒーローを否定しておきながら、ここに来てそれを呼んでいる。

「あーんなにジクティアたちの存在を否定してたやつらが、奴を欲しているんだ。実に滑稽だろう? 可哀想だよなぁ。助けてやった後、絶対また否定するぞ? 虫のいい連中だよなぁ!!」

片手で首相を持ち上げる。目的は殺害だ。

「さぁて...場の空気も暖まった...。そろそろあいつが__ 。」

ルーグが腕時計を確認しようとしたその時。

「おりゃー!!」

赤と青の鎧を身に纏った戦士、ジクティアが現れ、ルーグに一発おみまいした。

「...ッ! やっぱり来たな!」

「汚いことしやがって...ルーグ!!」

「フフ...! 今回は俺は退散してやろう! その代わり、こいつらを早く倒すがいい!」

瞬間に消えた。あの能力だ。でもレディナにもギアルにも頼れる戦士を知っている。きっと大丈夫だ。

「本当にいたのかよ!?」

1人の男がジクティアを見て言った。

白い仮面を着け、正体を隠した正義のヒーロー。

「...! まずい...! 急ぐぞラータ!」

ストロフナイフを挿し込み、ストロフフォームになると、すぐにルーレットを回した。

《ドラゴン!》

《ドラゴン!》

《チャージロイド・キドラ!!》

両手に青い炎を纏うと、辺りのエンディアやらヴェルカーをぶん殴っていく。

よくみるとミユの頭上に黄色い輪っかを乗せ、白い羽を生やしていながら戦っていた。

「え、あいつなんなの!?」

『ショウ! 集中してください!』

ミユは包囲を解くため、辺りのエンディアと戦いながら人々を避難させている。

《ラビット!》

《ファイヤー!》

高速で辺りのエンディアをぼこぼこにした後、火を出して燃やしてやる。

「早く逃げて!」

半分ほど片付けると、悲鳴はいつの間にか応援する声に変わっていた。

背後からエンディアにやられるところを、青い波動がそいつをぶっ飛ばしたことによって助かった。

「待たせたな!」

クレイたちだ。

「もう半分ほどやったぞ!」

久し振りの彼らの姿に込み上げるものを感じ、昂っている彼が言った。

「なら、あともう一押しだな!!」

レイシスがミユの周りにいる敵をぶっ叩く。

「ミユたーん! 俺だよー!」

「ごめん! 誰!?」

「ショックー! ...へっ...。今はふざけてる場合じゃねぇよな!!」

彼らの参戦によって、敵の数はみるみる減っていった。

最後の一体になると、ジクティアがトドメをさして終わった。

本当なら初期の頃のようにしたいが、気付けば今のエンディアは少し特殊のようで、中身がいない。つまり、本当の生物兵器のようになってしまったのだ。

辺りが静まると、その場にいた沢山の人々が歓声を上げた。

「...なんだよこの騒ぎはよ...?」

レイシスが少し戸惑っていた。

「いや...俺も初めてだ...。」

ジクティアが声を震わせていた。仮面越しの目には涙の粒が宿っており、それと太陽の光のお陰で目がキラキラと輝いていた。

「...応援されると...嬉しいな...。」

堪らずうつむく。ウルフがそれに気付いて背中を擦ってくれた。

「何照れてんだよ、ジクティア?」

「照れるだろぉ......! あと嬉しい......!」

感極まって声を出すのもままならなかった。深呼吸をして整える。

「...あ、正体は明かすなよ、お前ら!」

「分かってるよ。泣いたり命令したり忙しいリーダーだな。」

多くの人々に紛れてテレビ局のカメラも見つけた。まぁ、あんな騒ぎになったのにそれがないほうがおかしいか。

ジクティアはハッとして首相のもとに駆け寄る。彼は少し咳込んでいたが、親指を立てて無事を知らせた。

すると、すぐに立ち上り、演説台のマイクを握って言った。

「皆様、今、ご覧になりましたでしょう! 皆様、いや、自分自身を助けてくれたヒーローたちを...!」

「ちょっ...。」

「もちろん彼らに任せきりにしようとは思っていません! 我々ルアフ政府は、彼らと協力関係にあります! 皆様には少しの間、不安を与えてしまうかもしれません! しかし...!」

首相が言葉を切らせてまた咳き込んだ。チラッとジクティアを覗くと、察した彼は首相に代わり、マイクを持った。

「...不安を与えてしまうかもしれないけど...俺たちは必ず...必ず...勝ってみせます...。」

演説を聞いていた人々の目は輝いていた。それは、あの大きな穴が現れたことにより、何が起こるか分からないという絶望に落とされた彼らの前に、希望の光が現れたからである。

人々に紛れながら彼らを見ているミユも、気付かないうちに涙を流していた。

自分も同じく、救われたから...。いや、自分を救ってくれた英雄が、今たくさんに人たちに応援されているからである。



Android #37 ジクティア

ショウ「へへ…!」

カズト「さーて、帰ったらラーメンでも食うか。」

エージ「それいつも言ってるの俺だろ! パクんなよ!」

カズト「うるせ。」

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